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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国領編
144/1062

3-31

アリーシャが腹ごしらえをして、宿屋の馬車を停めてある所まで戻ってくると椎名は一足先に待っていた。

椎名は先程のポンチョのような服を着替え、今までの格好に戻っていた。

お気に入りの衣服なのか。とにかく同じようなものがあって良かったなと思う。

更にプラスして少しだけ衣服周りの様相が違っていた。

ここピスタの街で買ったのであろう。新しい茶色のブーツと、腰にはウエストポーチが巻かれていた。

椎名らしい機能性と動きやすさを重視した装いだと思う。


「二人きりのデートは楽しかった?」


「――っ」


開口一番のそんなことを言ってくる椎名。

私はその言葉に正直かなり辟易した。

私自身は椎名からのそのくらいの冷やかしには慣れている。

だが問題は私の連れはそうもいかないということなのだ。


「なななな何を言うシーナっ!? で、デートなどとっ!? これはそんな破廉恥なものでは無いっ! そ、それにっ! 万が一これがデートだと言うのならば、私とハヤトが手を繋いでいなければならないという事だっ!? そんな事は断じてなかったであろう!!?」


やはり――。

予想通り顔を赤らめ、普段と違い凄まじく饒舌になるアリーシャ。

それを見て私はため息を漏らした。

しかしアリーシャのこの独特の恋愛観。これは一体誰が吹き込んだものなのだろう。

やはりいつも近くにいたらしい侍女のフィリアだろうか。

一緒に旅をしてきて、少し物静かで控え目な印象を受けていただけに、もしそうならかなり意外だ。

お茶目というか。何ならアリーシャで遊んでいないか?

それともフィリア自身もただ単純にそんなぶっ飛んだ恋愛観の持ち主なのだろうか。

その方がしっくり来るような気もする。

機会があれば聞いてみたいものだ。


「はあ……相変わらずそのアリーシャの恋愛基準は誰が教えたのかしら」


椎名もため息混じりに全く同意見な事を言う。

「アリーシャ……かわいいわね……」という彼女の呟きが、やけにリアルにグサリと心に響いた。

椎名もそんなに疲れた表情を作る羽目になるなら多少は予想できたのだろうから言わなければいいのにと思う。

まあ完全に自業自得。椎名はもう放っておくとしよう。

アリーシャは私達の視線を受け、未だに「あ……う……」とうめいている。

真っ赤な顔をしたアリーシャと不意に目が合い「ひゃいっ」と目を逸らされる。

――うむ。可愛い。

うんうんと一人強く頷く。

これだけで私自身、かなり満足した気持ちになれたのだ。


「隼人くん?」


椎名にジト目を向けられて顔から血の気が引く。

彼女に今の私の思考を悟られるのは絶対にまずい。


「――な、なんでもない。早く行くぞ。アリーシャも、ほら」


「――そ、そうだなっ」


椎名の意味深な視線を受け流すべく、慌てて馬車へと乗り込む私とそれに続くアリーシャ。

こういう時に限って女性というものは勘が良かったりするものだ。

余計なことは考えず、悟らせず、先へ進むのが吉である。

私は未だ赤い顔をしているアリーシャを馬車へと押し込み、御者台へ座る。

そこで気づいた疑問を椎名へと投げ掛ける。


「椎名、そう言えば美奈の姿が見えないのだが?」


「あー、大丈夫。ちゃんと見張ってるから。ヒストリア王国側の入り口近くで待機してるわ。何だか新しい魔法、試したくてしょうがないみたいでさ」


ぱたぱたと手を振る椎名にそういうことかと無言で頷く。

美奈が新しい魔法を覚えたいであろう事は察していた。


「そうか。で? 首尾はどうだ? うまくいきそうか?」


「まあ詳しくは美奈に直接聞きなさいよ。あの娘も必死に色々考えてるみたいだったから」


そう言って椎名もそそくさと馬車に乗り込んだ。

椎名の言う通り、話は道中本人に聞けばいいだろう。

私は御者台のロープを握り、馬車を出発させようとする。その時だ。


「――え!? まさかこんな短い時間で!?」


すぐ後ろで馬車に乗り込んだばかりの椎名が焦ったような声を上げた。

一人言のようなその呟きに、私は真っ先に思い至る。

と同時に私はすぐに動いた。

握った手綱に力を込め、町の入り口へと急ぎ走らせる。

きっと美奈の身に何か起こったのではないだろうか。

恐らく椎名が感知していた事からすぐに異変に気づいたのだ。


「どうしたのだ!? 何があった!?」


馬車の速度を上げながら問い掛ける私の質問には答えず、椎名が馬車から身を乗り出した。


「ごめん! 先に美奈の所へ行くわ! ヒストリア方面の街の入り口出てすぐの所だから難なく見つけられるはずよ! 二人は後から馬車で追いかけて来て!」


「――分かった!」


とにかく今は誰よりも早く動ける椎名に任せておくのがいいだろう。

椎名はそのまま空へと飛び立った。

まるで鳥のようだ。

一瞬で彼女の背中は遠くなり、豆粒のような大きさになった。


「ハヤト!」


「分かっている!」


私はアリーシャの声に呼応するように更に手綱に力を込め、一層勢い良く馬車を走らせた。

大事にならなければいいが。

程度はよく分からないがとにかく美奈が無事であることを祈るのみ。

私の鼓動は早く脈打ち、焦燥に駆られる心持ちで落ち着かない。

彼女に何かあったらと思うとまるで生きた心地がしなかった。

そしてふと思う。

椎名も工藤が拐われたと知った時、これと同じ気持ちだったのかと。

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