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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ネストの村編
14/1062

13

「ルールー、ルールー」


すっかり生き物の声音に馴染んだ頃。

部屋の空気はようやく落ち着きを取り戻した。

見ているのが微笑ましくもあったが、やはり男女間のじれったい空気というものはこそばゆく面映ゆいものだ。

私もようやくこれで一息つけるというものだ。


「先の事も考えなきゃだけどさ、とにかく今は四人が元気な姿で揃う事が先決よね」


そんな折、椎名の声が部屋に響いた。

その声音はいつもの元気な彼女のものであった。

発言も現実的で、ポジティブな色が感じ取れる。

それが今は素直に嬉しい。


「そうだな。私もそう思う」


「ん、そうだな」


私も工藤も微笑み頷く。

本当に、仲間がいるというのは何とも心強いものだ。心からそう思う。

ここにいるのが私一人だけでなくて本当に良かった。

そんなのは考えただけでもゾッとする。

一人こんなところへ紛れ込んで、今自分が正気でいられる自身はない。


「あの、それでさ? 私、もう少しあなたたちに共有しておきたいことがあって」


――共有。

そう言われると私自身思い当たることは一つしかない。


「それは今の力のことか?」


椎名は身体能力が10倍近く向上している、と言っていたが、何か他にもあるのかとそんな思考を巡らせる。

彼女は私の言葉にこくりと頷く。


「うん。昼間は半信半疑な部分もあって言わなかったけど、ちょっと試したい気持ちもあるから外に出てもいいかしら?」


「外? ここでは駄目なのか?」


「うん。力がどの程度か見当もつかないから」


「? ……ふむ、分かったのだ。工藤、行くぞ」


「ん? ああ」


私は素直に椎名の提案を受けることにした。

何だかんだ言って明日は、結局椎名の力に頼ることになってしまうだろう。

彼女の力が実際どの程度なのかを目の当たりにし、把握しておく事は重要なのことなのだ。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


ネストの村の就寝は皆早いようだ。

村の皆は一人も外をうろつく者はおらず、家の中へと引っ込んでいるようであった。

最も村の入り口では昼間のように、未だ見張りをしている門番くらいはいるかもしれないが、それでも他には人っこ一人見当たらないくらい村の中は閑散とし、静かであった。

先程も述べたが村の灯りは壁に掛けたランタンの中に、魔法の光が灯っているものがポツポツとある程度。

歩けない程ではないがかなり薄暗かった。


「うわあ……綺麗……」


椎名が空を見ながらそんな呟きを漏らす。

ふむ。私もそれは同感だ。

夜空には赤や黄色や白と様々な砂を散りばめたような満点の星空が広がっていたのだ。

都会では絶対に見られないような星々の煌めき。

見慣れない空だが、私達の心を癒やすには十分な輝きがそこにあった。


「ヤベえな」


「うん、やべえわね」


月並みな感想を漏らす工藤の言葉をそっくりそのまま復唱する椎名。

しばらく歩くのも忘れ皆で星空を眺めてしまっていた。


「あ――じゃなくてっ」


不意に思い出したように再び歩を進めていく椎名。

星があまりにも綺麗でほんの数秒とはいえ当初の予定が頭から抜けてしまっていた。

私と工藤も苦笑しながら彼女の後をついていく。

椎名はすたすたと真っ直ぐ村の中を進み、程無くして広場になっている所でようやく足を止めた。

彼女はこちらに背を向けたまま。

何か考え事をしているのだろうか。

その表情までは伺いしれない。


「――で、一体何なのだ?」


早速本題を問う。

部屋には美奈を一人きりにして置いてきてしまったのだ。

彼女の要望に従いついてきたものの、やはり美奈が心配だ。

そこまで長居はしたくはない。

呑気に星などを眺めてしまった自分を戒めつつそんな事を思う。


「うん、私ね。身体能力が上がったのは教えたけど、どうやらそれだけじゃないみたいなのよね」


椎名はくるっと振り返り、私達と向かい合うと笑顔を見せた。

何となくその表情は得意げに見えなくもない。


「は!? まだなんかあんのかよ!?」


工藤の声はあまりにも大きかった。

周りには私達以外誰もいないが何だかびくついてしまう。

外に出てはいけないと言われてはいないが、こんな暗闇の中勝手に外に出て、何となく悪い事をしているような心持ちがしてしまうのは私だけだろうか。


「工藤くん、声が大きいっ。みんな寝てるかもしれないのに、非常識よ」


そう思った矢先、椎名も同じようなことを思ったのか、慌てて工藤を諫める。


「あ、わりい。つい――な」


「ま、別にいいけど」


「で? 一体何なのだ?」


改めて椎名に問うと、彼女はにこりと白い歯を見せた。


「うん。まあ、見せた方が早いかな。そのためにこんなところまで連れ出したんだし」


そう言って椎名は目を閉じる。

カサカサと木々の葉が擦れる音が、静かな夜の村にやけに大きく響いたのだ。

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