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私のわがままな異世界転移   作者: とみQ
ヒストリア王国領編
120/1062

3-13

 さて、一頻り精霊の話が落ち着いて、いよいよこれからどうしていくかという事になった。

 椎名がライラという魔族から聞いた話では、五日の間は大きな動きを見せる事はなく、私達がヒストリアに到達するのを待つということらしいのだが――。


「しかし、ピスタの街からヒストリアまでは馬車で五日の距離だ。急がないとその期日に間に合わなくなるな」


アリーシャが言うには残りの道程、ここまで馬車で走ってきた程の距離は無いようだが、山脈を一つ越えなければならないのだとか。

荷物は魔石を奪われた手前、そこまで多くはない。

いっそのこと荷台を捨てて、乗馬して走ってはどうかという意見も出たが、到底一日で辿り着ける距離ではない。

そうなると野宿の用意も必要となり、結局荷物が増えてしまう。

そうなるのならやはり馬車にしようかという話になる。

間を取って一日で乗馬して走破できる距離に迫ってから荷台を捨ててヒストリアを目指し、それまでは馬車、というのではどうかという話になった。

それだと三日もあれば行けるのではないかと。

そうこう話しているうちに、珍しくここまでの話に参加せず、終始考え込むように沈黙していた椎名が口を開いた。


「あのさ、多分1日あれば行けるわよ」


その言葉に私は彼女の言わんとすることを何となく察する。

そういう事ではないかと薄々感じてはいたのだ。


「まさか椎名……飛行するというのではあるまいな?」


「――あ? ばれた?」


椎名の返答は予想通りのものであった。

精霊と契約する前は飛行はせいぜい自分と後一人を連れるのが精一杯だった。

だが今はシルフの助力もある。

そのくらいは可能ではないかと容易に想像できてしまったのだ。

だがそれでもまだ不安はある。


「椎名、本当に大丈夫なのか? 風による飛行は相当難しいと以前言っていたではないか。それにマインドの消費によりヒストリアに着いた頃にはバテてしまうということはないのか?」


確かに空から行ければ直線距離で行けるので、大幅な時間短縮になるのだろう。

だがヒストリアに着いた時、現在最も戦力になる椎名がマインドを消費した状態になるというのは避けたい所だ。


「うん、それなんだけど、シルフと融合したことによって私のマインドだけじゃなくてシルフのマインドも合わさってるの。だから以前よりも簡単には枯渇しないわ」


「ほう……」


「それにね? 風の操作もより精密に、正確に操れるようになった。その結果、無駄なマインドの消費も抑えられるようになってるから、おそらく大丈夫よ!」


自信満々に答える椎名であったが、本当に大丈夫かとも思う。

それに、今彼女は少し嘘をついている。

彼女自身も大丈夫とは言ったが不安は多少なりともあるようだ。

飛行してヒストリアまで行って、残るマインドがどれ程のものなのか。

ヒストリアに無事着いたとしてそこからどれだけ戦い続けなければならないのか。

そういった予測が正確には行えないのだから当然だ。


「いや……それでもマインドを大幅に消費する事に変わりはない。危険だ」


「え、じゃあどうしろっていうのよ!?」


椎名はまさか否定されるとは思っていなかったのだろう。流石に不服そうな表情を見せる。

それに彼女の中にはおそらく工藤を心配するあまり、焦燥の気持ちが渦巻いている。

そういった精神状態だから危険だと判断してしまうのだ。


「まあ、ちょっと落ち着こう? きっとうまくいく方法があるよ」


美奈が私達の様子を見て、困った視線を向けている。

椎名は美奈の話を受けて、シーツにくるまりながら前方に視線を落とした。


「ごめん美奈。でもさ、なんだかなあ~……むう~……。大丈夫だと思うんだけどなあ……」


「では途中までシーナに運んでもらい最後馬車、というのはどうだろうか」


その時ふとここまで黙していたアリーシャがボソッと呟いた。

それに全員顔を上げる。


「「それだっ!」」


私と椎名の声が重なる。

椎名が指をパチンと鳴らし、アリーシャの方を向いた。


「馬車ごと山脈越えしちゃって、馬車で1日ってとこまで行けばいーのよ! そこで休めば問題なし! そしたら二日で行けるわ! それなら文句ないでしょ?」


椎名の視線がこちらを向く。

彼女の胸の内も今回は問題なさそうだ。

それを確認してこくりと頷いた。


「うむ。それが最善だな」


「よしじゃあ決まりねっ! そしたら今日はもう寝ない? 夜中だし、明日の朝しっかり食事でもして、準備ができたら出発よ! 明後日には山越えして、3日後にはヒストリアに入る感じかしら。まあ5日待たなくても早いに越したことはないし。工藤くんとフィリアを助けなきゃだしね」


「うむ、そうだな。私達もかなりボロボロなのだからな。今日だけはしっかり休もうではないか。久しぶりのベッドでもあるしな」


先程まで私も気絶していた身だ。体調も万全とは言えない。

魔法も使えなくなってしまっているのもあるのだ。先ずは先の戦いに備えて少し休もう。

ふと見るといつの間にかシルフは消えていた。

美奈も疲れたのか気がつけばごそごそとベッドに潜り込もうとしていた。

安堵したからか、私の口から大きなあくびが漏れた。


「――あ、隼人くん」


「ん? まだ何かあるのか?」


振り替えれば布団を被った椎名が眠そうにこちらを見ていた。

彼女も大きなあくびを一つして、満面の笑みを作ったかと思うとさらりと最後に爆弾を落とした。


「隼人くんはソファーで寝てねっ!」


「――っ!!」


そう言えばこの部屋にはベッドが三台しかない。

先程までは美奈以外の三人が寝ていたが、この状況で誰かがソファーで寝るとなるとやはり男の私、となるのだろう。


「あ、私、ソファーでもいいよ?」


美奈が気を利かしてそんな事を言ってくれたが、流石に男としてそんな言葉に甘える訳にはいかない。


「いや、大丈夫だ。私がソファーで眠ろう」


すごすごとソファーに寝ようとすると、アリーシャがさらりとこんな事を言った。


「ん? では私と一緒に寝るか?」


「「「!!!?」」」


いきなりの爆弾発言に三人が一斉にアリーシャの方を振り向いた。

その視線を受けてしばらく沈黙を保ったアリーシャが、やがて何かに気づいたようにハッとして顔を真っ赤に染めた。


「ち、違うぞ!? 私はミナに言ったのだぞ!? へ、変な勘違いをするなっ!!」


慌てて布団を首まで被り、真っ赤な顔で騒ぎ立てるアリーシャ。

このお姫様は度々天然だ。


「アリーシャ、可愛いわね……」


椎名が何故か寂しそうにそう呟いた。

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