春という季節
第1話
春。それはすべての物事の始まりを表す合図のようなもの。
小中学校に高校、大学などでは入学式や始業式を迎え、社会人は入社や仕事始めの時期になるだろう。
新しい年を迎え、気持ちも一新して頑張ろうとする人間が、確実と言っていいほど多い時期だ。
そして日本の春というのは綺麗なものである。
何といっても代表的なものは桜ではないだろうか。
鮮やかなピンク色で周りの物を全て華やかにしてしまう、あの魔法。
どんな人間でさえも魅了されてしまうことは間違いないだろう。
日本人で桜が嫌いな人間などいないのではないだろうか?もしいるのであれば、会って5時間ほどは説教してやりたい。
寒い冬が明け、暖かな春風が全身に吹くあの感覚は、もうたまらない。
「日本の春以上に素晴らしいもはあるだろうか、いやない・・・」
「1人で何言ってんだ、お前?」
俺が春の心地よさを堪能していると、隣から怪訝そうな声で馬鹿が声をかけてきた。
「なんだ亥町か。せっかく俺が気持ちいい時間を過ごしていたのに、邪魔しやがって・・・」
亥町楓。俺の唯一といっていい仲のいい人間の1人だ。小学校からの仲だからな。
「邪魔って・・・そこは俺の席なんだけど。お前の席は廊下側だろ」
亥町の席は羨ましいことに窓際だ。まぁ、羨ましいのはこの季節だけだが。
この春の気持ちよさを味わえる席に陣取っているくせに、春よりも夏派な亥町は帰りの準備を始めていた。
「あ、それと。さっき先生がお前のこと探していたぞ」
「先生?どの教科の?」
「涼太郎先生。担任の」
その名前に、一瞬体が震える。向井涼太郎先生。国語担当にして、俺たちの担任の先生だ。そして何より、俺のことをよく知っている、昔からの知り合い。
ほとんどの生徒からは、年齢が近いこともあって下の名前で呼ばれている。
「あの人か・・・マジか」
「そう言えばお前、先生と昔からの知り合いだって言ってたよな?」
「あぁ・・・だから分かる。あの人が俺のことを呼ぶときは、基本的にろくなことじゃない。俺がしんどい思いをすることが多い」
中学時代、あの人のせいでどれだけ迷惑をかけられたことか。
「何だか急ぎの用みたいだったし、早く行ったほうがいいんじゃないか?」
「そうだな、あの人は待たせると結構本気で怒るから」
亥町にそう言い、すぐに教室を出る。
正直今思えば、この時に行かなければよかった・・・ここまで面倒ごとに巻き込まれることになるとは、思っていなかったからな。
次回はなるべく早く投稿します・・・。