俺の人生にはこの力が不可欠なようです
この話はプロローグ的なものです。
短めに書いています。
暗く静かな空間。それは、とある1人の少女の部屋だった。
部屋の装飾は多くの小物があり、非常に可愛らしい、女の子らしいものだ。
だがそんな部屋でも、電気をつけず、生地の厚いカーテンを閉ざせば、昼間であっても気味の悪い空間になる。
その中心に少女はいた。
髪は整えておらずボサボサ。あまり食事をしていないのか、顔色は悪く、少し頬がこけているようだ。
全くと言っていいほど正気を感じられない部屋の中で、彼女はおもむろにテレビをつけた。
『続いてのニュースです。先日発生したひき逃げ事件の捜査が、本格的に始動しました』
そのニュースに、少女の体が硬直する。
先ほどまで下を向いていた顔が、初めて上がった。
『周辺住民の目撃情報はなく、また、タイヤ痕が鮮明ではないため、捜査は難航する模様です』
彼女はそのニュースに、心底絶望した。
タイヤ痕が見つからない?
目撃証言が少ない?
そんなことはない。彼女はそう断言できた。
事故が起きたのは見晴らしのいい交差点。その日、その事故があった時間帯には通学している生徒が少なくともいたはずだ。
タイヤ痕がない?事故当初、タイヤ痕は確かにあったはずだ。
「1人の命を奪っておきながら・・・そんな事件が起きていながら・・・誰も見ていない?」
事故の話を切り上げ、野球の話題に移り変わったテレビに、彼女はリモコンを全力で投げつけた。
しかし、食事を摂っておらず、部屋にこもっていた彼女の力は落ちていたため、テレビには全くの傷もいかない。
「最低だ・・・何もかも・・・うぅ・・・あぁ・・・」
押し殺していた感情が一気にこみ上げる。怒りと悲しみ、そして事故で犠牲になった人物との思い出が。
近くにあったピンク色のクッションを抱きかかえ、彼女は涙を流した。
「ごめ・・んね・・・本当にごめんね。何もできない・・・何もできないお姉ちゃんで・・・ごめんね・・・」
そこには何もないのに。この部屋には彼女しかいないはずなのに。何かに責め立てられるような感情に押しつぶされそうになる。
「・・・ごめんね、優助・・・」
泣き声で、亡き弟の名前をつぶやくのだった。
次回から本編になります。
よろしくお願いいたします。