表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
108界目の正直:異世界召喚はもうイヤだ!  作者: 阿都
第3章「英雄を探して」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/44

07,クレーフェ伯領

 クレーフェ伯領の外れに位置する小さな街にたどり着いた。

 途中からギルドの早馬を使わせてもらったおかげで、1日分行程が短縮できたのは、怪我の功名というべきだろうか。


 そうそう、きっかけになったラーサ教団の跳ねっ返りお兄さんたちのことを、ギルドに報告しておかないと。

 あのままにしておいて魔獣とかに襲われたら、やっぱり目覚めが悪くなりそうだからなぁ。


 完全な自業自得だと思うし、あの暴走ぶりでは余罪も多そうだから、なおさら助ける義理もないのだけど。

 まぁ、正式な法の裁きを受けてもらったほうが、こっちもスッキリするよな。


「すごい。もうこんなに復旧しているなんて……」


 シアがため息を漏らすようにつぶやいた。

 ん? もしかして。


「シアは、クレーフェ領に来たことがあるのか?」

「ええ。前クレーフェ伯のことを調べていたって言ったでしょう」


 ああ、なるほど。

 だとすると、戦後の状態も直接見て知っているのか。


 馬をひき、歩きながら問いかけてみる。


「どんな様子だったか聞いてもいいか?」

「……ええ。戦後、30日ほど経ったぐらいだったわ。今回とまったく同じルートで訪ねてみたのだけど」


 シアが言うには、まさに焦土という言葉がそのまま当てはまる惨状だったそうだ。

 見渡す限りの焼け野原。

 この街も瓦礫の山も同然だったらしく、住人もほとんどいなかったらしい。


「それから一年未満で、これかぁ」

「ね、驚くでしょう?」


 今、目の前に広がる光景は、平和そのものだった。


 往来を行き交う人々の身なりは素朴だが、老若男女問わず小奇麗でさっぱりしている。

 なかにはトッキーという犬のようなペットを散歩させている人もいた。

 町並みは簡易的な建物がほとんどだけれど、売店や飲食店もあり、往来にまでいい匂いが漂ってくる。


 そもそも、人々の表情が明るい。

 何の不安も感じていないことが伝わってくる。


 たしかにまだまだ復旧途中なのだろう。でも十分すぎるほど充実した人の営みが感じられた。


 ……ラドル、よくやったなぁ。


 前世界で魔王と戦う前に、仲間たちで語り合った夜を思い出す。


『この戦いが終わって命があるなら、もうひと頑張りせにゃならんからのう』

『領の立て直し?』

『ああ、老いぼれの手でも少しは役に立つだろうて。第一、儂が手塩にかけて治めてきた領だ。最後まで責任を果たさねば。それに……』

『それに?』

『お主らを招くなら、今度こそ美しい領の姿を見せてやりたいからの』


 この世界のラドルが、これだけの結果を出したということは、きっと前世界のラドルだって復旧に成果を上げているだろう。

 もう見ることは叶わないかもしれないけれど、なんか安心した。

 もし再び会えたとしたら、あの爺さん、きっと男くさい笑顔満面でドヤ顔するに違いない。


「カズ? 嬉しそうね」

「ん? ああ。やっぱり戦争の傷跡が癒やされていくのは嬉しいよな」

「うーん。それはそうなんだけど、さっきのあなたの顔、まるで故郷でも見るような感じだったわ」

「故郷かぁ。なんとも懐かしい響きだなー」

「なによ。そんなに帰っていないの?」

「ああ。旅立ってから結構経つから」


 106回ほど死んだし、108回も世界を飛び越えてきたからな。

 本当、あまりにも離れすぎて、もしかしたら日本なんて夢や妄想ではないかと思うときすらある。


 両親も、妹も、友人も、何もかも遠くて。遠すぎて。


 ああ、イヤだな。この感じ。

 なんだか久しぶりに、ネガティブに落ち込みそうだ。


「シア、ギルドの出張所に馬を返したら、ちょっと食事でもしよう」

「ええ、いいわね。ここらへんの名物は……」

「ラキットの煮ものだったっけ?」

「なんでそんなピンポイントなローカル情報知ってるのよ」

「……この前、レティさんが用意してくれたクレーフェ領の資料に、戦前の観光案内が混ざってて」

「……レティって、本当に当たり障りのない情報を選んでたのね」


 2人揃って頬を引きつらせる。

 シアも俺も、個人的な英雄探索については、何度もギルドの妨害工作を受けた身だ。

 特にレティさんの完璧にまで役に立たない資料の山は、なかなかの精神攻撃だった。


 まずい。今度は別の方向にむかって、気持ちが落ち込んだ。

 気分転換のために話をしたのに、なんでこうなる。

 レティさんか? レティさんの呪いなのか!?


「と、とにかく情報集めも含めて、どこかで一休みしよう」

「そうね。なんだか少し疲れたわ……」


 俺たちは気持ち肩を落としつつ、まずはギルドの出張所を目指した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ