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108界目の正直:異世界召喚はもうイヤだ!  作者: 阿都
第2章「ほのぼの冒険者ライフ」

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01,一日の始まり

「おはよう」

「おう、おはようカズマ。あいかわらず朝早いな」

「そういうチャドのほうが早いだろ」

「まぁ、日課だからなぁ」


 まだ陽が差す前の庭は夜の領域だ。

 精霊具の常夜灯がほのかに辺りを照らしている。

 そんな中に盾と斧を構えて立っているチャドは、すでに一汗かいていたようだ。

 

 さすがに一流の戦士だけあって、チャドは毎朝の鍛錬を欠かさない。

 それも、常に俺より先に始めている。


 結構早く起きているはずなんだけどなぁ。

 まぁ、別に競っているわけではないし、自分のペースを崩すほうが色々不都合があるから、ぼやくだけにしておく。


 まずはじっくり身体をほぐして、続けて練習用の鉄剣を使って素振りを始める。

 チャドもまた、攻撃を受け流しカウンターの一撃を入れる型を何度も繰り返し始めた。


 男二人で黙々と基礎鍛錬を続ける。

 人族の代表国家「ブリュート王国」の首都「ロンディニム」に着いて、もう20日ほど経っていた。




 到着当日。

 トリーシャたちが冒険者ギルドに報告と報酬を受け取りに行くときに、俺も登録を済ませた。


 階梯は3級。

 本来は仮登録から始め、何度か依頼をこなした後、5級として本登録する。

 しかし何事にも例外措置はあるもので、一定数の上級者が推薦し、実力がその申請通りなら飛び級も認められるのだ。


 トリーシャたちは1級と2級の混在パーティーで、全員で飛び級の推薦をしてくれた。

 実技は今回のリンド種魔族とスレイブの討伐協力。そして、イメージワード4の法術を実際に見せることで認められ、3級から出発となった。

 ……一応、剣士なんだけどなぁ。法術のほうが確認しやすいのは分かるけれど


「秘法術を見せれば1級も可能でしょうに……」

「いきなりそんな目立つのはもうコリゴリだよ」

「そうよねぇ。そのせいでシアにつけ狙われるようになったわけだし」

「トリーシャ、その言い方ひどい! カズも皆もフォローしてよ!」

「あー……」

「……ねぇ」

「皆もひどい!」


 シアの評価については、まぁ自業自得ということで。

 と言っても、旅の途中で話した「ワードの質を高めるために、日頃から言葉に気をつける」という情報が、彼女の師匠の教えとも一致したことから、マシンガントークはかなり鳴りを潜めた。

 もちろん暴走することも多いけれど、出会った当初より随分ましになったといえる。


 これについては、トリーシャたちからメチャクチャ感謝された。

 今までどんだけだったんだよ、シア……。


 報酬の分け前は、なんと本当に7等分にしてくれた。

 遠慮したのだけど。


「これから一緒にやっていくんだから、報酬はしっかりケジメつけておかないとトラブルの元! 分かるでしょ?」


 と、トリーシャから言われると納得するしかなかった。


 ちなみに今回の召喚転生では、装備も所持品もほぼ前世界の状態で再現されている。

 魔王と戦う前に現金の一部を宝石にして身につけていたので、換金すればそこそこのお金になるはずだったから、とりあえず困ることはないのだけど。

 まぁ、資金は多いほうがいい。

 ありがたくもらっておくことにした。




「お、陽が出てきたな。そろそろ終わるか」


 東の空が明るくなってきた時分、チャドが汗を拭きながら鍛錬終了を促してきた。

 俺も剣を収めて、朝日を拝んで振り返る。


「今日の朝はどっちが食事当番だったっけ」

「たしか俺だな。ちょっと待ってろ」


 チャドは身体を拭いた後、庭の片隅にある畑からいくつか野菜を摘んで、先に家の中に入っていった。


 俺は今、チャドの家に居候している。

 冒険者ギルドでは、田舎から出てきた者に対して賃貸住居の斡旋もしているけれど、金がもったいないだろうとチャドが誘ってくれたのだ。


 メインとなる居住区から少し離れたところにある、戦のときにも焼け残った一軒家。遺産相続を放棄した代わりにもらったのだそうだ。

 4人程度なら十分快適に過ごせるだけの設備と広さがあって、トリーシャパーティーの集合場所としても使われている。

 日本でいうなら6畳ほどの鍵つきの自室ももらったし、チャドは豪快無遠慮に見えて気遣いが丁寧な男だから、プライバシーにも配慮してくれる。

 何の身よりもない俺からすると、本当にありがたいこと、この上ない。


 井戸で顔を洗い、汗を拭く。

 ついでに水を桶に汲んで、持っていく。

 精霊具の普及で水道もあるけれど、なぜか井戸水のほうが美味しく感じるんだよなぁ。


「おはよう、カズ!」

「……おはよう。でもなんでこんな朝早くシアがいるんだよ」


 庭に面している裏口から入ると、広めのリビングには言わずと知れた残念美女がいた。

 戦士系は朝型、法術士系は夜型のイメージがある。もちろん例外はあるけれど、今までの経験ではかなりの確率で当たってる。

 実際、チャドも俺も早寝早起きが基本だし、シアは夜遅くまで法術研鑽するタイプだったはず。

 

「今日は一緒にギルドや図書館に行く予定だったでしょ? 楽しみで早めに来ちゃったわ」

「それにしても早すぎる。って、もしかして徹夜じゃないだろうな?」

「流石にそれはないわよ! ……たまたま朝早く眼が覚めちゃっただけ」

「寝不足は集中力の低下に繋がるぞー」

「昨晩はちゃんと寝たわよ」


 ふてくされたように唇を尖らせるシアを見て、少し呆れる。


 つまり楽しみだったから、朝早く起きるために寝るのも早かったってことか?

 ……斜め上への暴走っぷりは健在だなぁ。流石に簡単には治らないか。

 第一、そこまで楽しみな理由がいまいち分からない。ただギルドで依頼を確認したり、図書館で調べ物したり、買い物するだけなんだけど。


 チャドが笑いながらキッチンの方から声をかけてきた。

 朝食がのったプレートを差し出してくる。


「カズマ、これ運んでくれ。シアも食べていくだろう?」

「オッケー」

「ありがとう。いただくわ」

「なに、卵を差し入れしてもらっているからな。お互い様だ」


 キッチンとテーブルを往復して配膳する。

 パンと目玉焼き、ベーコンと野菜の炒めもの、サラダ、肉だんごが入ったスープ。

 鍛錬のあとで空いた腹には、このハーブのいい香りはまさに暴力だ。

 作ってくれたチャド、材料を提供してくれたシアに感謝しつつ、たっぷりいただこう。

 

 こうして今日も1日が始まる。

 

 今のところ、トリーシャたちの仕事を手伝いながら、この世界の情報を集めている。

 ……まだこれといった手がかりもないし、ヴァクーナからの夢通信も途絶えたまま。

 

 第二のフラグって、一体なんなんだ?



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