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冒険者ギルドのサンバラさん

投稿再開

 冒険者ファラ・ノンバラードの朝は早い。

 大体が朝日が登るか登らないか悩んでいるような時間帯には目を覚まし軽く体を動かしたあとに二十四時間営業である街の中心にある冒険者ギルドへ向かう。

 そこで依頼が張り出されているクエストボードに簡単にできそうで宿代になり得るクエストを何枚か選び受付へと向かう。


「こんばんは? おはよう?」


 ファラがカウンターに向かうと目の下に隈を作った職員がファラを出迎えた。すでに時間の感覚がなくなるほどに働いている時点で冒険者ギルドのブラックさが垣間見えるものである。


「おはようですよ。サンバラさん」


 サンバラと呼ばれた青年は疲れ切ったような動きで茶色に染めている髪をかきあげ、


「ああ、もうそんな時間か、早く交代が来てくれないと俺死ぬんじゃないかな」


 やはり疲れ切ったような声でそう告げた。顔は二枚目であるにもかかわらず、その瞳には若者の輝きは見えず、死んだ魚のような目をしていた。


「死ぬなら僕の仕事を受けれるようにして僕が外に出てから死んでくださいね」

「可愛くないなぁ。そんなんじゃ恋人ができないぞ? ま、俺には彼女いるけどな!」

「はいはい」


 なぜか勝ったような顔を浮かべるサンバラに適当に返事をしつつファラはクエストボードに貼ってあった依頼用紙をサンバラに手渡す。


「ファラくん、いい加減に冒険者らしい仕事をしたらどうだい?」

「差別発言ですよ? クエストボードに貼ってあるのは等しく冒険者の仕事のはずですよ」

「いや、そうなんだけどさ」


 髪をかきながら釈然としない様子だが一応仕事の合間だからかサンバラは手際よくファラのクエストを受注していく。

 ファラが受けたクエストは薬草の採取と犬の散歩という街の初心者冒険者が受けるようなクエストである。そのサンバラ曰く冒険者の仕事ではないクエストの受注書を受け取ったファラはローブを翻しながらギルドの出口へと足を進める。


「ねえ、ファラくん。冒険者なんて危ない職業じゃなくてさギルド職員にならない?」

「またですか? いやですよ」


 ギルドからでようとしたファラへ受付からサンバラが話しかける。すでに何度も断っている話である。


「まあ、そう言わずに! 決まった給金がでるし危なくないよ? なんならサービスに残業までついてくるしね!」

「サービスに仕事がつく時点で嫌ですよ。というかいつの間に受付からここまで来たんですか!」


 瞬きをする間に受付カウンターを飛び越えファラの腕を掴んだサンバラにファラは目を見開いていた。普通のギルド職員ならばできないほどの身体能力である。


「ソウイワズニサァァァァァ! 辛いんだヨォォォォ! 残業ぉぉぉ! 彼女に冷たい目で見られるんだよぉぉぉ!」

「知りませんよ! というか辛い仕事を誘いますか⁉︎ 普通!」


 さながらゾンビのようにまとわりついてくるサンバラを引き剥がそうとファラもそれなりに力を込めているがこびりついた油汚れのごとくサンバラは離れない。その不快感たるや油汚れ汚れよりも酷いものである。


「大体、セーラさんは易々とやってるじゃないですか!」


 ファラの脳裏にはいつも淡々と仕事を片付けるギルドの名物エルフセーラの姿が浮かんでいた。サンバラが『だるい』『しんどい』『ザンギョォォォォ!』などと叫んだりするのはいつものことであるがセーラがそのようなことを口にしているのをファラは見たことがなかった。


「ばっか! セーラさんはなぁ! セーラさんなんだぞぉ⁉︎」

「意味わからないこと言わないでください! あとそれセーラさんバカにしてるでしょ!」


 まとわりついてくるゾンビもどきを懸命にファラは蹴るが所詮は魔法使いの筋力。受付とは思えないスペックを発揮するサンバラを引き剥がすことはできなかった。


「もしファラくんがギルドの職員になったらなんでも言うこと聞いてやるからヨォ!」

「だったらその権限ですぐにやめてやりますよ!」

「そんなこと言うなよぉぉぉ!」


 大の大人とは思えないほどの情けなさを見せるサンバラだがついにイライラが限界に超えたファラが怒りに身を任せての全力での拳を容赦なく叩き込む。


「は・な・れ・ろ!」


 魔法使いとは思えないほどの速さでファラから的確な急所突きが放たれる。それら全てを頂いたサンバラは悶絶。しかも一発は離れた拍子に股間に叩き込まれ男ならではの激痛にサンバラは床の上を無様に転がりまわった。


「アガガガガガギ⁉︎」

「ふん!」


 ヨダレを垂らし涙を流し転がり回るサンバラをファラは冷めた目で見下ろすとふたたび外に向かうべくギルドのドアへと手を伸ばす。


「ファラ! いる⁉︎」

「ギャァァァァァァァァァァァァ⁉︎」


 伸ばした手を弾き飛ばすように内側へと勢いよく開け放たれた扉が目の前にいたファラを打ち付ける。

 ファラはというと手を弾き飛ばされただけではなく扉の直撃を顔へと喰らい、ギルドのテーブルを吹き飛ばすほどの勢いで顔から壁に叩きつけられ鼻血を吹き出して倒れ、流れる鼻血が血の海を作り始めていた。


「ちょっとファラ! いるなら寝てないで返事をしなさいよ!」


 同じように転がっていたサンバラをいないものと同じようにして蹴飛ばし、サンバラはささらなる悲鳴をあげるが蹴り飛ばした張本人たるサブリナは気にとめることもなく金の髪を揺らしながら血溜まりに沈むファラの元へと向かっていた。

 そして血の海に浮かぶファラのローブの首元を掴むと軽々と持ち上げ自分の顔の前に血塗れのファラの顔を持っていく。


「あなた? なんで血塗れで寝てるの?」

「いや、あなだのぜいなんですが?」


 未だにぼたぼたと少なくない血を流し続けるファラを訝しげな表情を浮かべながら「まあいいわ」と一言呟くとファラを引きずるようにして歩き始めた。


「どごいぐんでず? 僕じごとあるんですけど……」

「ダンジョンよ! 今日は金の日でしょ? 一層にもゴルスラが出るからちまちま儲けずガツンといくわよ! まだ朝も早いから人が少ないうちにいくわよ!」


 ファラに反論を一切許さないままサブリナは「お金! お金! お金がほしい!」と訳のわからない歌を機嫌よく歌いながら冒険者ギルドを後にするのであった。


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