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戦闘開始

「ようやく! ふっ、来ましたね! ふっ!」


 大鎌を素振りをしながら闘技場内に降りてきたサブリナとネイトを目にしたポメラが人形であるにも関わらず浮かべた額の汗を拭いながら口を開く。


「ええ! 私たちが相手よ! 二人でかかるからといって卑怯なんていわないでしょ?」


 自身に溢れた笑みを浮かべるサブリナが宣言するがネイトはサブリナの横には並ばず僅かだが後ろにて立っていた。


「問題ありません。私は主、アトワント様の作り上げた人形。魔法使いになぞ遅れはとりません」


 不敵と言えるほどの笑みを携えたポメラが大鎌を振り回し潰れた切っ先をサブリナに向ける。


「うむ、両方準備はいいか? では死なないように頑張れ!」


 再び紅い液体で満たした杯を煽りながらアトワントが宣言する。

 それに呼応するようにポメラから放たれる重圧が増す。


「いくわよネイト! 作戦Bよ」

「作戦B! 心得た」


 なにやら作戦があったらしく二人も己の武器である指輪と短杖を構える。


「いきます!」


 大きく宣言したポメラが床を砕く勢いで踏み込み、爆発するかのように飛び出し大鎌を振るう。


「ネイト!」

「サブリナ!」


 大鎌を薄皮一枚で躱し、後方へと下がったネイトとサブリナが互いにアイコンタクトを行い、着地をすると互いに叫ぶ。


『囮は任せた!』


 そして二人同時にさらに後ろへと下り、同じように下がった二人は互いに目を見開き驚愕する。


『なんで貴様(あなた)も下がる⁉︎』


 二人共がどちらもを囮にしようと考えてとった行動であり、そしてどちらも想像しなかったがためにどちらからも罵倒に近い言葉がでていた。


「私の魔法は溜めがいるのよ! 男でしょ⁉︎ 気合いいれて女を守りなさいよ!」

「ふん! 貴様こそ我の魔法も同様ということはわかっているだろう⁉︎ それに女を主張するなもう少し女らしさを身につけるべきだな」

「な、なんですってぇぇぇぇ!」


 戦っている相手を無視し、サブリナは仲間であるネイトに対してキレていた。しかし、それはネイトも同様なのか彼の口撃は止まらない。


「ふん、そもそも男だからという考え方が間違いだ。それは差別だろうが!」

「キィィィ!」


 元々頭に血が上りやすい単純な性格のサブリナはすでに敵であるはずのポメラなど視界にはなく指輪をはめた手で拳を作るとネイトへと向ける。


「いえ、あなた達の相手は私なんですが……」


 完全に置いてきぼりを食らっているポメラは大鎌をどうしたらいいかわからずに主であるアトワントへ指示を仰ぐかのように視線を向ける。が、アトワントは楽しそうなものを見るようにするばかりであり、ポメラはどうもしようがなかったのである。


「上等よ! あんたと私どっちが格上か決めようじゃないの!」

「ふん、我の方が上に決まっているだろう」


 いつぞやのファラとサブリナのように両者が睨み合い、唖然とするポメラを放置プレイしたまま互いに距離を取り始める。自分が全く目に入っていない事に気付いたポメラはため息を一つ付くと大鎌を引きづりながらとぼとぼとした足取りで主の元へ向かう。戦闘が大好きなポメラであったが相手にされないとなるとやる気を急速に失っていったのだ。そのままアトワントの横に戻ると深〜いため息を付き膝を抱えて座り込んだ。


 そんな落ち込んだポメラのことなど眼中にない二人は指輪と短杖を構え睨み合いがまだ続いていた。


「撤回する気はないみたいね」

「貴様もな」


 魔力の圧が高まり睨み合いが続くと思われた中、サブリナが軽く息を吐き、体を低くかがめ駆ける。


 指輪をつけた拳を素早く繰り出しネイトへ拳打を放つ。しかし、ネイトも黙ってそれを見ているわけではない短杖を操りサブリナの拳をいなし、追いつかないのは躱していく。


「なんじゃこやつら。魔法使いではなかったのか?」


 魔法の撃ち合いが始まると思ってワクワクしていたアトワントは突如として始まった予想外の展開、肉弾戦を見て疑問の声を上げる。ポメラは相変わらず落ち込んだままであり、フリードは短く「ほぅ」と感嘆とも言えるような声を出していた。


「ん? ああ、簡単な事よ。僕達、魔法が少し使えないからね。隙を探ってるんだよ」


 本を読んでいたファラが顔を上げ、アトワントの疑問に答える。しかし、アトワントの表情にはまだ疑問の色が残っていた。


「ん? それはなかろう? お主らの魔力の密度は常人の三、四倍はあるじゃろ? 魔力の効率を考えても少ししか使えぬという事はあるまい」


 意外と目ざとい、とファラは横にいる吸血鬼の認識を少し改める。


 吸血鬼アトワントの言う通りファラ、サブリナ、ネイトの三人の魔力総量は常人とさして変わらない。だが魔力の密度(・・)が違う。密度とは濃さであり簡単に言うと他の魔法使いが魔力を十使う魔法をファラ達は一使うだけで同じ威力の魔法を放てるといったものだ。


 このことから魔力の密度の高い魔法使いは普通の魔法使いよりもはるかに強力な魔法が撃てるのだ。アトワントはそこに疑問を持ったわけである。


「まぁ、見てれば分かるのかのぅ」


 あんまり細かい事は気にしない性格なのかアトワントはすんなり追求の手を緩め、目の前で繰り広げられる肉弾戦に再び眼を戻し、ファラはホッと安堵の息を吐く。


「そういえばアトワントさん、ここって結界張ってるの?」

「並の魔法では砕けん位には強力なのが貼ってあるが?」

「なら大丈夫かな」


 ファラの言葉にアトワントは怪訝な顔をするのだがすでに関心がなくなったファラは本を広げその世界に集中するのであった。

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