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欲望全開

 暗い館の中を一同はぞろぞろと移動していく。

 あのあと刃を潰した大鎌をポメラが構えすぐにでも飛びかかってきたそうにウズウズとしていたようなのだがアトワントの「見世物ならちゃんとした場所でみるもんじゃ!」という言葉から場所を移すことになったのだ。


「この館どんだけでかいのよ」


 自分の泊まっている宿のことを思い出し比べたのかサブリナが嫌そうな顔をしている。


「いや、こんな大きな屋敷には僕は住みたくないよ。掃除とか大変そうだし」


 庶民的な感想をファラが述べると同意するようにネイトも頷く。


「我は狭い方が落ち着く」

「だからといってダンボールに入って膝抱えて座るのやめない? あれなんだか見ていて悲しくなるんだけど」


 狭い所が大好きなネイトは部屋にダンボールを置き、特に用事がなければそこには入って過ごすという少々、というかかなりの変わり者であった。


「あの素晴らしさ、ファラも入ってみればわかる」

「遠慮しとくよ」

「着いたぞ」


 バカな会話をしている間に目的の場所に着いたようでアトワントは扉を開け中へと入っていく。フリードとポメラもそれに続き、その後ろを三人がついていく。


「うわ」

「なにこれ」

「闘技場か?」


 三人が口々に言葉を漏らす。

 その視線の先には石を積み上げられた壁に覆われた闘技場があった。あきらかにこの館に入るような規模のものではない。


「空間を歪めてる?」

「うむ、あんなしょぼい館では満足できんからな。いたるところの空間を捻じ曲げかなりの大きさになっておるよ」


 楽しげにしゃべるアトワントはそのまま備え付けてある王座のような物に腰掛け、優雅に足を組む。


「さて、戦ってもらうと決めたわけなんじゃが……」


 横で大鎌を素振りするポメラへと視線を向けたアトワントであったが何かを思案するような顔であった。


「お主らの勝った場合は一体なにを望む? 大概のことは叶えてやれるが」


「金よ! 遊んで暮らせるだけの金をよこしなさい!」


 微塵も欲望を隠そうとしないサブリナの物言いにファラとネイトはため息をつき、アトワントは楽しげに笑う。


「ふむ、金か。フリード、たしかエミュール金貨が余ってなかったか?」

「主、あれはいまや滅びた国の金貨です。価値などありますまい」

「それでも金じゃろ?」

「まぁ、そうですが」


 しぶしぶといった様子でフリードは納得する。


「で、お主らはなんじゃ? 金か?」

「勝てるかどうかわからないものだしあとにします」

「ならあの部屋にあった黒い剣をくれ」


 消極的なファラと目を輝かしながら言ってくるネイトにアトワントは笑みを浮かべ頷く。


「うむ、好きにするがよい」


 どこからか取り出した杯に無言でフリードが紅い液体を注ぎ込む。それを目の前で揺らし満足そうに香りを嗅いだあとに一気に飲み干した。


「さぁ、血の流れる戦いを見してくれ」

「主のために頑張る!」


 大鎌を握りしめたポメラが気合十分といった様子でアトワントの横から飛ぶと宙でクルクルと回転し、闘技場の真ん中に着地し大鎌を構える。


「見たところお主ら三人は魔法使いのようじゃしな。どう戦うかはお主らに任せるとしよう。一人ずつ戦うもよし、全員で戦うもよしじゃ」


「だ、そうだけどどうする? 僕あんまりやりたくないんだけど」


 作戦を立てる時間を貰ったファラたちは三人で話し込む。戦えると思っていたポメラは不機嫌そうな顔をしながら再び大鎌で素振りをしていた。


「私はやるわよ! どれだけくれるかわからないけどお金は必要なんだから!」


 鼻息を荒くしながらすでに手に入る物と信じて疑わないサブリナがやる気満々で声を荒げる。対してファラはそこまでやる気がない。


「まぁ、サブリナがやるなら止めないけどね。怪我してもポーション貸さないからね」

「借りないわよ! これで新作の服が買えるわ! あと借金も軒並みに返せるかも!」


 冷たく言い放つファラであるがサブリナには聞こえていない様子でまだ手に入れていないはずの金貨をどう使うかと考えているようだった。

 次にネイトのほうを見るとこちらも珍しくやる気になっていた。


「ネイトがやる気なのも珍しいね」

「あの黒い剣はいいものだからな」


 そう静かに告げるとネイトは好戦的な笑みを口元に浮かべる。


 普段ネイトはサブリナのように魔法を使って金を儲けたりはしない。それは彼の魔法がサブリナやファラ同様に一発しか使えないこともあるが彼女たちとは違い非常に限定された魔法を使うためだ。

 そのため、サブリナやファラはあまりネイトの使う魔法を目にする機会がない。しかし、威力だけは二人に並ぶほどのものなのだ。


「なら戦うのは二人にしてね。僕は興味ないから」


 それだけ言うとファラは闘技場のアトワントの近くの観覧席の一つに腰を下ろすと魔法のカバン(マジックバック)から本を取り出し読み始めた。


「ネイト! 行くわよ! 私たちの報酬のために!」

「うむ、我も久しぶりに魔法を使えるというものである」


 勝利を疑わず不敵に笑う二人が闘技場へ向かい歩き出した。

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