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黒館の主

「暗!」


 通された部屋に入るなりサブリナは窓があるにも関わらず暗い部屋に対して思っていたことを素直に口にする。

 ファラとネイトはというと興味深そうに調度品を見ていたが、至る所に転がっている人形の部品らしきものを見てファラは悲鳴をあげていた。


「主、依頼の品を冒険者が届けに参りました」


 少年執事が部屋の中を歩み、真ん中に置かれている机を横切る。よく見ると部屋の闇に溶け込むように大きな椅子が背中を向けるように配置されており、そちらの方に向かったようだった。


「ねぇ、入り口のとこで疑問だったんだけどこういう依頼ってふつう主って合わないものじゃないの?」


 少年執事には聞こえないように声を潜めサブリナはファラにだけ聞こえるように耳打ちする。


「確かに。ぼくが受けた運搬系の依頼でもその家の使用人に渡して後日、ギルドを通して報酬が払われるパターンが多かったよ」

「だったらなんでこんなとこまで通されるの?」

「知るわけないよ」

「おおう、ご苦労ご苦労」


 考えても答えが出ないことが判ったのかサブリナは黙り、それと同じタイミングで今まで聞いたことがない声が部屋に響く。それと同時に椅子がくるりと回転し、少年執事が主と呼んでいた者の姿が眼に入った。


「我がこの館の主、アトワント・ビリフィタスじゃ! フリードはよ我に持ってこんかい」


 高い声でそう告げたこの館の主を見てファラ、サブリナ、ネイトは思わず息を呑む。

 振り返った椅子に座っていたのは女性であるファラやサブリナの目を奪うほどの美貌を持った美女が腰掛けており、その手元には作りかけの人形のようなものを持っていた。


「依頼の品を」

「はい、どうぞ」


 音もなくいつの間にかサブリナの横のやってきた少年執事、フリードに驚きつつもサブリナは魔法のカバン(マジックバッグ)から血の入ったボトルとトマトジュースを取り出し渡していく。結構な量と重さになるにも関わらず、フリードはさして重さを感じないかのように軽々と持ち上げると主の下まで持っていった。

 フリードが渡した血の入ったボトルを受け取ったアトワントはその紅い色をしばらく眺め、やがて満足げな笑みを浮べる。


「最近の冒険者は質がいいのぅ。依頼を出してから一週間でこの街までと届けてくれるとは」

「主、主が外にいた時代とはすでに地形なども変わっているのです。場所にも寄りますが依頼を出したのは迷宮都市。半日もかかりません」

「なに? では先月建国したとか言っておったトロンパイムは……」

「それは先月の話ではありません。三百年位前の話です」

「おお、外の世界はもうそんなに時間がたっておるのか」


 カカカと陽気に笑うアトワントに自分の主の大雑把さを再確認したかのようにフリードは大きくため息を付いた。

 二人で話し込んでいるアトワントとフリードを見ていたファラであたっがアトワントが口にした都市、トロンパイムという名前が気にかかった。


(まるで三百年前に見てきたような言い方ね)


 この世界では長寿の生き物は珍しくはない。冒険者ギルドに所属するセーラのような森の友エルフ、鉱物をいじることに生きがいを感じるドワーフ、戦いの匂いを嗅ぎ付けては戦場を暴れまわる戦大好きのドラゴン。このほかにも様々な長寿の種族が存在するのだ。

 そして今、ファラたちの目の前にいる長寿の種族。それは、


(日の光を遮断した館、青白い肌、運搬された血、極めつけは笑ったときに見えるやたらと長い八重歯。十中八九、吸血鬼よね)


 別に吸血鬼が依頼をしてはいけないという決まりはない。ただ、どの長寿の種族の中にも極稀に馬鹿げた力を持つものが現れることがあることをファラは思い出していた。


「ねぇ、あなたって高位の吸血鬼だったりするの?」


 なるべく刺激しないようにやり過ごそうと考えていたファラの思惑など露知らず、聞きたいことはすぐに聞きたいサブリナが疑問を声に出す。その瞬間、ファラが凄まじい形相でサブリナを睨む。その顔は子供が見たら泣き出しそうなほどにおっかないもであった。


「あん? ああ、確かに我は高位の吸血鬼じゃがの。なにかまずいか?」


 瞬間、フリードが人を殺せるんじゃないかというほどの目力を込め主人であるアトワントを睨みつけた。


「吸血鬼であることはばらさないようにと始祖様から言われていたはずですが?」

「あ、いや、口が滑って」

「大丈夫です、主。あなたの頭の悪さと口の軽さには一切の信頼など置いていませんので」

「照れるのぅ」


 誉められるどころか貶されているにもかかわらず照れるアトワントだがフリードの見る眼は従者のものとは思えないほどに冷たい。そんな姿を見たファラはアトワントにサブリナと同じような匂いを感じ取り、従者の少年に知らずうちに似たような境遇にいることの同情の視線を送っていた。

 それはフリードも同じように感じたようで苦笑してファラを見てきた。


「ねねね! 吸血鬼って凄いんでしょ! なんか凄い力があるんでしょ!」

「うむ! 吸血鬼には固有能力があるからのぅ! ちなみに我の力は……」


 などと放っておいたら勝手に盛り上がっていく二人を見てファラとフリードはため息を付いた。一言も喋っていなかったネイトはというと何処から取ったのか刀身が真っ黒な剣を見ながら満足げな顔をしていた。

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