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やはりどこでも仲が悪い

「あの、人様の家の前で騒がないでください」


 伸びているサブリナのマウントポジションをとり、さらに痛め付けようとしていたファラをネイトが止めていると廃墟のような館の扉がひとりでに開き、声が聞こえてきた。

 ファラとネイトが振り返るとそこには明らかに血色の悪そうな黒髪の子供が扉からファラたちを警戒の眼差しで見ていた。扉からわずかに見える体は仕立ての良さそうな執事服が見て取れた。


「これは失礼しました。少しばかり躾…… 調教をしていましたので」

「…… お姉さん隠せてないよ」


 本音を隠す気があるのかわからないファラの物言いに子供は苦笑を零す。

 それを見て少しばかりの緊張感が解けていることに気づいたファラは未だに伸びているサブリナを結構な強さで蹴りつけ無理やり覚醒させる。もはやこの二人の間に友情などという綺麗なものは存在しないのでは? と思わせるほどにようしゃのない蹴りであった。


「起きなさいよ、サブリナ。あんたの! 依頼でしょ!」

「がはぁ! あ、あんた! 友達を足蹴にするなんていつか天罰が下るわよ!」

「安心しなさい。天罰が先に下るとしたからお金を無駄遣いするために人に借りたあなたのほうだし」

「昔のことをクドクドと! 性格悪いわよ!」

「サブリナに言われる筋合いはないよ!」


 自分のことを棚にあげるようなサブリナの物言いにファラもキレる。二人して怒っているものだから体から漏れる怒りの魔力の圧はとてつもないものである。


「おにいさんはあの二人の仲間でしょ? 止めなくていいの? というか人の家の前で暴れるのをやめさせてよ」


 明らかにビビったような子供が唯一何もしていないネイトに頼むように言うがネイトはため息をひとつついて首を振った。


「むしろ、止めに入ったら我が標的になるではないか」

「いや、そうじゃなくても人の家の前で暴れるのはいいの?」

「我に被害がなければいいんじゃないか?」


 どこまでも自分が可愛いネイトであった。そんな止める様子がないネイトから視線を外し、子供は大きなため息をつくと仕方なしに屋敷から姿を表す。


「ちょっとお姉さんたち、今すぐ家の前で暴れるのをやめてくれないとギルドにクレームを提出する羽目になるけどどうする?」

『超仲良し!』


 恐るべき変わり身の早さである。誰も頼んでいないのに二人で肩を組むというどこからどう見ても仲良しにしか見えないような姿であった。もちろん、その前の啀み合いを見ていなければという前提がつく話であるが。

 内心では仲良しなんてことはないのではあるが今、この場において言えば二人の心は見事にシンクロしていた。


(ギルドへのクレームはまずい!)


 討伐系や採取といったギルドが仕切っている依頼とはことなりギルドに依頼を出した人の依頼は仕事の評価を後に行うのだ。その報告は五段階評価であり、五が一番高い評価になる。そして評価とは別に感想を述べることができるのだがそこにクレームを半年間に三回書かれた冒険者というのは言わば半端者扱いとされしばらくはろくな仕事を受けることができなくなってしまうのだ。


 街の中で小さな依頼を積み重ねているファラはクレームなど書かれたことはないのだが人に合わせるなどということができないサブリナはすでに二回クレームを受けているために後がないのである。


「なんだ、仲良くできるんじゃない。だったら初めから仲良くすればいいのに。まぁいい、主がお待ちだし早く来てね」

「ん? あなたの家じゃないの?」


 自分の家ではないような物言いにファラが首を傾げながらたずねる。


「ここはおれの主の家だよ。おれは居候兼執事の役目をこなしているだけですよ」

「ふーん」


 サブリナが興味なさげに声を上げる。ネイトも同様に興味がなさそうであった。


「とりあえず早く入ってください。今日は天気が悪くてすごい体調が悪いんです」

「あ、それは失礼しました」


 見ればただでさえ青白い顔色が青を通り過ぎて白くなっているのに気づいたファラが一礼し慌てたようにして子供の後を追い、扉の中へと消えていく。ネイトも無言でそれに続き後を追う。

 唯一、サブリナだけがすぐに後を追わずに立ち止まると一度空を見上げる。


「天気が悪い? こんなに晴れてますのに」


 燦々と照りつける太陽をうっとおしそうにしばらく眺めた後、皆を追うように館の扉をくぐるのであった。

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