働かざるもの食うべからず
「仕事よ! 街の外に出るのよ!」
テーブルをバシバシと勢いよく叩きサブリナは宣言する。が、叩いた勢いが思いの外強かったのか「おぉぉぉ」と手を押さえながら涙を流していた。
「やだ」
「断る」
そんなサブリナを呆れたように見ながらファラは杖の手入れをしながら、ネイトは雑誌から目を離さずに返事を返した。
「な、なんでよ! あんたたちだってお金がないんじゃないの!」
サブリナの無謀な行動により迷宮上層部は通行不可となっている。それだけならば大した問題にはならないのだ。なぜならばここ迷宮都市カーディナス。幾つもの迷宮が集まっている都市である。サブリナが使用不可にしたのはその迷宮の一つでありその迷宮が使えないとなると冒険者達は他の迷宮に潜り稼ぎを得るのである。
それはファラやネイト達も同様であり一発しか魔法を使えない彼女らでも上層の浅い部分ならば問題なく? 狩ることができるのである。
しかし、サブリナは違う。ギルドより言いつけられた『迷宮探索一週間禁止』という罰則により彼女だけは他の迷宮に潜ることができないのだ。魔導契約書まで使われた罰則である。破ればロクでもないことが起こるのだを
「サブリナと違って僕は貯金がありますから」
「我も多少はな」
「な⁉︎ あんたたち私に内緒でそんなせこいことしてたの⁉︎」
別に貯金がせこいなどということはないのであるが。単純にサブリナの頭の辞書にはそんな言葉はなく、さらに言うならその辞書はあまりに使われなさすぎてカビが来ていて虫食いだらけになっているだろう。
「いつものように勘違い新人狩りをやればいいじゃない? あ、やるとき教えてください。あなたに賭けるんで」
「やれるならとうにやってるわよ!」
冒険者としてどうなのだろう? と疑問が残るような発言をしたファラに違う意味でサブリナが怒鳴る。
サブリナの冒険者としての収入はさしたる量ではない。ダンジョンに入れないと言っても普通ならば笑って済ませたであろう。
だが、いつもならば『いつもの床ぺろ三人組がなにかやらかした』という曖昧な情報が飛び交うのだが今回は完全にサブリナが一人でやったという正しいような正しくないような情報が出回ったのだ。
そんなことは知らずにサブリナはいつものように酒場で新人相手に決闘などを売りつけるべく向かったのであるが誰も一発しか使えない魔法使いとはいえ迷宮を通行不可にするほどの噂されるような相手に喧嘩を売るような輩はおらず、さらにはたまたま新人などもいなかったために誰もがサブリナと眼を合わせようとしないのであったである。
「誰も相手をしてくれないんだからどうしようもないじゃない!」
「日頃の行いでしょ? 賭けの決闘ばかりするからだよ」
「友達がお金に困ってるというのにあんまりじゃない⁉︎」
ファラの肩を掴み揺さぶるようにしてくるサブリナに少しばかりイラついたファラは手入れをしていた杖を振りかぶり問答無用で頭に叩きつけた。「ぎゃ!」という声を上げごろごろと部屋の中で転がり回るサブリナを放置しながらファラはため息をついた。
「はぁ、サブリナ。僕が紹介したアルバイトは?」
「それよ! それ!」
痛がっていたのが嘘のように立ちがあったサブリナは再びファラに詰め寄る。
「なんなの! あのバイト先! なんで私が見ず知らずの人たちに媚びを売るような笑顔を見せなきゃいけないのよ!」
「……商売なんだから当たり前でしょう?」
ファラがお金がないと煩く喚くサブリナに紹介したのは今、迷宮都市カーディナスで一番流行っていると言われているカフェである。ファラは色々と依頼を受けて築いた伝でその店のオーナーにサブリナに勧め、ちゃっかりと仲介料を懐に収めているのだがそれはサブリナの知らない話である。
「とにかく! 私は人の顔色を伺いながら仕事をするなんていやだわ!」
「お前はもう商売人に謝るしかないような発言をしたな」
読んでいた雑誌から顔を上げネイトが苦笑を浮かべる。
「私は冒険者なのよ! 冒険してこそなのよ!」
その冒険の結果が今の現状なのであるがサブリナはそれには気づかず、さらにはファラ、ネイトも訂正する気は全くなかった。
「だったらどんな仕事がしたいというんですか」
明らかに対応が面倒なはなってきたとわかるほどにファラは嫌そうな顔をしながら尋ねた。しかし、サブリナはファラの表情の変化には気付かずにようやく自分の話を聞いてくれるようになったことに顔を綻ばせる。
「そう! クエストボードにお金になるようなクエストが書き込まれてたのよ!」
ゴソゴソと自分の魔法のカバンを漁りながら紙を取り出しそれをファラの顔に突きつけてきた。あまりに勢いよく突きつけてきたために拳がファラの額に当たりゴツンという鈍い音が響く。
「なにすんの!」
「拳を当てる気はなかったわ!」
ぎゃーぎゃーと喧しく喚き、挙句に髪をつかんでの喧嘩にまで発展し部屋の中で暴れる二人をよそに床に放り投げられた依頼用紙を拾い上げたネイトは依頼内容に眼を通していた。
「ふむ、依頼内容は血液五十リットルとトマトジュース五十リットルを輸送?」
その運ぶ物の内容に眉をしかめるネイトであったがその依頼を持ってきた本人は未だに喧嘩をしているのであった。