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自信がある時はだいたいポカをする

 かなり頑丈であるはずの迷宮が揺れる揺れる。まだ通路がふさがるほどではないが魔力に当てられたかのように小さくない石が天井から音を立てながら落ちてきていた。運の悪いもの頭に当たれば即死! と言わんばかりの大きさのものまでである。


 そんな破壊の惨状を作り出そうとしている二人の魔法使いはというと杖と指輪を構えながら相手の一挙手一投足を逃さないとばかりに目を見開いている。二人を囲むようにしていたモンスター達もその異様なまでの雰囲気に飲まれたのか一体も身動きを取らなかった。


 魔法使いとは言わば砲台である。と過去の魔法使いは述べる。

 魔法使いはより強力な魔法をいかに効率よく、速く、威力を高め、幾度も放つ、というのが求められる職種なのだ。そして前衛職というのはその砲台が砲弾を放つまで守り通す盾でもあるのだ。

 そして戦い方としてはいかにして先手を打ち、相手に本領を発揮させずに倒すかがメインとなる。

 ではこの場にいる二人はどうなのか? 砲台としてら最強の分類に入るであろう。たとえそれが一発しか撃てないとしても。


「今日こそ泣かす!」


 サブリナが指輪を嵌めていない方の手を腰に下げているベルトへと伸ばす。ベルトには幾つもの試験管が挟み込まれており、そのうちの一本を無造作に引き抜くとそれをファラに向かい投げつけた。

 放物線を描きながらファラに向かい飛ぶ試験管をファラは横に移動することで躱し、サブリナと同じように腰に付けた魔法のカバン(マジックバック)へと手を差し込みながらサブリナとの距離を詰めるべく僅かな駆ける。瞬間、ファラは背中に熱を感じ、ほぼ同時に耳が痛くなるような轟音が洞窟内に響いたためたまらずに足を止める。


「pigiijii!」


 時を同じくして断末魔と言えるような悲痛な声が響き渡り、肉の焼ける匂いが充満する。

 サブリナの投げた試験管はファラには当たらなかったが囲んでいたモンスターの足元まで転がり弾け、白い炎を上げながら囲んでいたモンスターの一部をバーベキュー会場の食材と化したのであった。


「…… 泣かすというか殺すつもり?」


 轟々と音を立てながら燃え盛る背後を見ながらファラが呟く。その姿に若干の満足を得たのかサブリナが腰に手を当て笑みを浮かべる。


「ふふん! これが私の作り出した錬金アイテム燃える水よ!」


 指の間に試験管を挟みサブリナはドヤ顔を浮かべながら告げる。


「これを売ればなかなかにいい値段で売れると思うんだけど?」


 投げつけるだけで爆発するような水である。しかもそれなりに攻撃力もある。となれば冒険者の、しかも初心者あたりになら護身用として高く売れるのでは? と思いつぶやいた言葉であった。

 するとサブリナは悔しそうに唇を噛み締める。


「……これはまだ高コストで売れば赤字が確定するようなものだし」


 なぜか泣きそうな顔をしていた。


「そんな高コストな物を使っていいんです?」

「あんたは泣かす!」


 涙を拭いながら指に挟んだ試験管をまとめて投擲。しかし、指で挟んだものを不器用なサブリナが上手く飛ばせるわけもなく空中でくるくると回転しファラの頭上を通り過ぎると試験管同士が宙でぶつかりチンっという澄んだ音が響く。


『あ……』


 小さく声を漏らした瞬間、二人は背を向け全力で走る。そして迷宮入り口の方、蠢くモンスターの群れの中に飛び込む。突然獲物側から飛び込んできたことに驚き、モンスター達はまともに対処ができない僅かな時間、そして、地獄の炎をが降臨する。


 空中でぶつかった衝撃で試験管が割れ空中に白炎が召喚される。さらにその白炎が他の試験管を飲み込み一瞬にして巨大な火柱となり地獄の業火として付近の生き物へと襲いかかった。炎は生きているかのように生物の体を舐めまわし一瞬にして巨大な炭の塊へと変えていく。運よく逃げれたものも口の中へと潜り込んだ炎が体の中から焼き尽くされ事切れた。

 さて、そんな地獄のショーが行われている中、二人の魔法使いはというと全力で逃げていた。背後から迫る炎の舌からそれはもう全身全霊で見栄えとかそんなものは一切合切無視して。


「サブリナあんた! なんて物を作ってるの!」

「こ、こんな相乗効果が得れると思ってなかったのよ! でもこれは売れる予感がするわ!」


 再び瞳が¥マークに変わったサブリナの頭をグーで殴りながらも走る。


「そうだ! サブリナ! あなたまだあの燃える水の試験管があるなら背後に投げなさい! 多少威力が殺せるかも!」

「そんなぽんぽん作れるものじゃないのよ! さっきので最後! 六本しかないのよ!」


 ばさりと恥じらいもなくローブを翻しサブリナが見せた腰のベルトには本人の言う通り一本も試験管が残っていなかった。


「なんで全部使うの⁉︎」

「あんたを泣かしたかったからに決まってるでしょ!」


 あまりにも馬鹿げた理由にファラが頭を抱えながら唸っていると足を滑らし音を立て砂煙を上げながらサブリナが立ち止まる。


「ええい! こうなったら仕方ないわ!」

「何する気?」


 サブリナよりもかなり後ろで立ち止まったファラが不安げに尋ねる。いざという時はサブリナを置き去りにしようとする魂胆が見え透いているような距離であった。そしてこのような場面でサブリナがとる行動というのは大概が裏目に出るということを彼女は知っているからである。


「私の魔法で炎ごとぶっ飛ばす!」


 サブリナは自信ありげに指輪を付けた手を迫り来る炎に向け魔力を練り始める。


「やめ!」


 それに対してファラは一瞬にして顔を蒼くすると襲いかかるようにサブリナに向かい飛びつこうとした。しかし、遠い。


「我が魔法の力で吹き飛ばせ! 吹き荒れる暴風の刃(ゲヒャルトデルベスタ)!」


 高速詠唱にて組まれた魔法が発動。サブリナの魔力が一瞬にして指輪の宝珠へと集められサブリナの得意な風魔法へと変換され放たれる。それは圧縮された不可視の刃となり敵の命を刈り取るべく刃を振るう。

 必殺の一撃である吹き荒れる暴風の刃(ゲヒャルトデルベスタ)は周囲の迷宮を削りながらも迫り来る炎の壁に直撃。

 サブリナはニタァと笑みを浮かべ自信ありげである。しかし、その笑みは次の瞬間には凍り付く羽目となった。

 吹き荒れる暴風の刃(ゲヒャルトデルベスタ)を叩き込まれた炎の壁が膨れ上がり、弾けた。

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