どっちが強いでショウ
『GYAAACAAA!』
迷宮内に木霊するモンスターの雄叫びに混じり迷宮内には他にも冒険者の駆ける足音が鳴り響いていた。
奇しくもファラやサブリナと同じように金の日にゴルスラ狩りしていた冒険者達も今は必死の形相を浮かべ迷宮を駆けていた。
そんな迷宮組の最後尾にして一番の危険地帯にいるサブリナとファラはというと。
「この! 転けろ! 転けろ!」
「あんたが転けなさい!」
一時休戦はどこにいったのかというほどに醜い争いを繰り広げていた。
二人で並ぶようにして駆けながらもあわよくば相手を転がそうとせんばかりに足技をつぎつぎと繰り出していく。それでいて走る速度は変わらず魔法使いにしておくには惜しい技能を発揮していた。
「あんた! 魔法使いでしょ⁉︎ なんでそんな体術が達者なの! 飛んでる最中に拳打を躱すとかおかしいんじゃない!」
「それは僕のセリフだからね⁉︎ なんで鳩尾に拳入れたのに平然と走ってるの⁉︎」
……どちらも魔法使いとしては間違ったスペックを持っていた。
「OHOOOO!」
「ちっしつこい!」
背後から聞こえてくるうめき声に舌打ちしながらサブリナが毒付く。
振り返ると様々な武器を手にしたモンスター達が追いかけてきているのが目に入る。普通に考えれば仲間に入りたくない光景である。
「どうです? サブリナ、今からあそこに飛び込んでトレインさんをやっつけるというのは? 上手くいけばきっと街であなたが望むちやほやされるようなことが起こりますよ?」
「いやいや、ファラのほうが向いてるでしょう? 魔法的に」
ばちばちという音が聞こえそうな程の視線をぶつけ合う二人。
『ちっ!』
二人同時に小さく舌打ちし、怒りが限界を迎えたサブリナが走りながらファラに向かい後衛とは思えない鋭さので目潰しを放つ。それをサブリナ同様に我慢の限界を迎えたファラは同じように走りながら受け止めお返しとばかりに手刀をサブリナの首に向かい容赦なく振るうがそれもサブリナは手で払い躱す。
弾けたように二人は離れ足を止める。そして睨み合うようにして対峙していた。
「ちょ! あんた今マジで首狙ったわね!」
「そういうあなたこそ確実に眼を狙ってきましたよね?」
もはや迷宮内に響く幾つもの足音が聞こえず二人の怒声のみが響いていた。鬼のような剣幕とはこのことをいうのか二人に追いついたモンスター達も若干の距離を開けたまま様子を伺うようにしていた、 。
「サブリナ、あんたちょっと図に乗りすぎじゃない?」
「ファラこそ、最近リーダー風を吹かして調子に乗りすぎじゃないかしら?」
パチリと両者の間で苛立ちが形になるかのように高まっていた魔力が弾ける。それは初めのうちは小さな音であったが徐々に大きな音へと変わり、さらには迷宮を少しずつ揺らし始めた。
「qhv?」
「gxgy⁉︎」
迷宮が揺れていることに気づいたモンスター達は怪訝な表情と呼べるものを浮かべ、さらに小石がパラパラと降り始めたことで警戒を露わにし始めた。
そして同時に目の前にいる獲物二匹が尋常ではない魔力を体から放っていることに気づいたモンスター達はそこでようやく目の前の二匹が今まで追いかけまわしていた獲物と違うことに気づき怯えるように僅かにたじろいだ。
「ファラ」
「サブリナ」
二人の高ぶる魔力が迷宮内を震わせパラパラと小石が落ちてくる状況下で二人はにらみ合い、
『どっちが強いか決着をつけてやる!』
追われているということはすでに頭から消えた短気な二人が苛立ちを発散するかのように互いの杖と指輪を構える目の前のモンスターではない方の敵に対し宝珠を向けるのであった。