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私にだけ見える

作者: 柿花太郎

いつからここにいたのだろうか。



女の子が一人立っている。


教室の左前方の隅のところに立って、教壇の先生を凝視しているように見える。

しかし、その異様な光景に誰も気づいていないようで、淡々と授業が進められていく。

夏だというのに紺色の冬服を着ており、左側だけ髪を耳にかけ、小さな赤いピアスがピカピカと光っているのが見える。



彼女の行動が不気味であるのは言うまでもないが、クラスのみんなが何事もないように授業を受けていることにもまた不気味さを感じずにはいられない。不安になって左側に座っている友人に目線を送るが、どうも気付いてくれない。



非科学的かもしれないが彼女の正体は幽霊であると考えるのが妥当だろう。彼女の正体はほかの誰にも見えておらず、この不自然な光景を不自然に感じているのは僕だけということだ。それならば他の人たちが彼女を見えていないように振る舞っていることには納得できる。



空席になっている机が一つだけあったので、そこが彼女の席であるという可能性を考えてみたが、他の不可解ことの説明がつかない。

おそらくクラスの誰かが欠席しているだけのことなのだろう。



彼女はいったい何者なのかとか、なぜここにいるのかとか考えればきりがないけど、僕にとっての一番の大きな疑問は「なぜ僕にだけしか見えないのか」ということだ。



真面目だけが取り柄の僕は当然ながら人の命を奪ったこともないし、彼女の顔を見たこともない。そしてまた、彼女に恨まれるようなことをした覚えもない。

なのに、どうして僕にだけ彼女が見えるのだろうか。



他の人からすれば何もないところを凝視しているように見えていたのかもしれないが、彼女のことを必死に観察し、なにか手掛かりがないかを探した。ふと彼女の顔を見てみると、じっと僕のことを見ていることに気付いた。実は先生を見ていたのではなく、はじめから僕を見ていたのかもしれない。その無表情の中に、嬉しさや安堵感のようなものを感じたような気がした。



いつもは真面目な僕が窓の方ばかりを気にしているのを不思議に思ったのか、先生がこちらに近づいてきているのに気付いた。あわてて視線を先生の顔を見ると、先生は僕ではなく、僕のすぐ後ろにある何かを見ているようだ。後ろを振り返ってみると教室の入り口があるだけで、他に気になるようなものは特に何もない。先生は僕を通り過ぎて扉の取っ手をつかみ、扉を開けた。

どうやら冷房のせいで汚染されているらしい教室の空気を換気したかったのだけだったようだ。



先生は窓も開けようとして彼女の方へと向かっていく。



彼女を通り過ぎて、窓に手を伸ばしている先生の後ろ姿を見て僕に一つの疑問が浮かんだ。




僕はなぜここにいるのだろう。


ところで




彼女はいつからそこにいたのだろうか。



閲覧ありがとうございました。

文章力、語彙力など至らない点が多々ありますがご容赦ください。

これから精進していきたいと思います。



解説を簡単に書いていきます。


結論を先に述べますと、彼女も僕も死者であり、死者である僕には死者の彼女が見えたということです。そして、彼女も僕もほかの人からは見えていません。そのことにはじめの「僕」は気付いていませんが、最後の辺りで違和感を感じたということです。その根拠を以下に記述します。



まず、タイトルの「私にだけ見える」ですが、この「私」は作中での彼女の視点での意味です。主人公の一人称は「僕」なので僕視点でタイトルをつけるならば「僕にだけ見える」になっているはずです。

つまり、彼女にだけ僕が見えているという意味です。


次に一行目の「いつからここにいたのだろうか」ですが

これは僕自身がいつからここにいたのか覚えていないという意味です。

自分が死んだことに気付いておらず、ふと気が付けば、教室を授業で受けていたという設定です。(空席になっていたのは僕の席であり、席が残されているということは死後から少ししか時間が経っていない。そのため、まだ死んだことに気付いていないということを空席が暗に意味しています。)


一行目と二行目の行間を設けているのは文に接続の関係がないからです。

普通に読めば一行目と二行目がつながっているように見えるかもしれません。ですが、物語の最後に「彼女はいつからそこにいたのだろうか」とあるので、「ここ」と「そこ」で距離の違いが明示され、「いつからここにいたのだろうか」は僕自身についての問いであるということになります。



そしてこの物語の最も不自然な点は僕の立ち位置にあります。


「教室の左前方の隅のところに立って、教壇の上の教師を凝視している。」と

「左側だけ髪を耳にかけ、小さな赤いピアスがピカピカと光っているのが見える。」


この二つから僕の立ち位置がかなり絞られます。

教室の左前方の隅で、教壇上の教師を見つめている彼女の向いている方向を想像してみてください。彼女の左半身は黒板側にあり、教室の座席に座っている状態だとピアスは絶対に見えません。

このピアスを視認できる位置は教壇上もしくは教壇の延長線上です。

このどこかに僕は立っていることになりますが、これでは彼女と同じく不自然な行動をしているということになります。

僕の不自然な行動にも誰も反応を起こさないのは、やはり僕も誰からも見えていないからです。

そして、

「僕のすぐ後ろにある何かを見ているようだ。後ろを振り返ってみると教室の入り口があるだけで、他に気になるようなものは特に何もない。」

この一行で僕の立ち位置が教室の前の入り口に確定されます。


そして「僕はなぜここにいるのだろう。」というのは、「僕」の立ち位置の不自然さを疑問に感じたということです。


おおよその解説はこんなところですが、その他細かいところの説明をさらに簡単に記述します。


「不安になって左側に座っている友人に目線を送るが、どうも気付いてくれない。」

→死者だから気付かれない。ちまみにこの友人の座席は教室の一番右前の席になります。


「その間も彼女は僕のことをじっと見つめている。その無表情の中に、嬉しさや安堵感のようなものを感じたような気がした。」

→仲間を見つけて喜んでいる。


「先生は僕を通り過ぎて」「彼女を通り過ぎて」

→透き通った


「冷房のせいで汚染されたらしい教室」

→死者なので空気の汚染には気付いていない。





最後に


後書きまで閲覧いただきありがとうございました。

推理に分類しましたが、予想とは違った内容であったらならばお詫び申し上げます。






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― 新着の感想 ―
[一言]  葵枝燕と申します。  『私にだけ見える』、拝読しました。  最後まで読んで、もしかしてこれって……と思ったのですが、後書きを読んで解決しました。何かこれ、意味がわかるとこわい話、みたいに取…
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