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第000話 「出会い」

少女は震えていた。


危険などあるはずはなかった。


行商人である父親は遠く離れた街へ商売をしに行く為、

何か月も家を空ける事が多かった。

そんな父親が隣街で簡単な仕入れを行うという。

馬車で片道3日、隣街で1泊して往復7日と、

長年行商をしている父親にとっては何という事は無い仕事。

普段から契約をしている護衛も3人いた。


父親に年に数度しか会えない少女は、この仕入れに連れていくよう頼み込んだ。

何度も往復した街道に護衛も居る、

娘も大きくなりそろそろ外の街へ連れていくのも良いかと判断した父親はその頼みを受け入れた。

実際、問題は起こらず予定通り隣町へ到着し、半日で仕入れは終わった。

残りの半日は少女の買い物に費やし翌日の朝には街を後にした。


隣街を出てから2日目、少女は御者台で馬を操る父親の隣に座り他愛のない会話をしている。


「早く帰ってお母様に新しい服をみてもらうの!」


父親は上機嫌の娘に満足そうな笑みを浮かべながら、そうだなと一言返し軽く頭をなでる。


-ビュウッ-


突然強い風が起こり、同時に辺りが急に暗くなる。

時刻は昼、雲もなく晴天だったはずの空が急に暗くなった。

否。

空全体が暗くなった訳ではない、馬車を大きな影が覆ったのだ。


「ばかな‼︎ なぜこんなところに!」


父親が叫んだ。

と同時に馬車の前後にいた護衛達もその存在に気づき即座にそれぞれ武器を構えつつ叫ぶ。


「レッサードラゴンだ!この人数じゃあいてにならねぇ!」

「少しの間時間を稼ぎますわ!」

「旦那はまっすぐ逃げ---


グガァァァァァァ!!


護衛の言葉を遮るようにレッサードラゴンの咆哮が響き渡る。


---


一瞬だった。

咆哮と同時にレッサードラゴンは急降下し、馬車よりも一回り大きな体を馬車の側面に叩きつけた。

馬車はバキバキと音を立てながら激しく横転、積荷と親娘を放り出した。


少女は何が起きたか理解できなかった。

楽しい買い物が終わりあと一日もすれば家で母親に新品の服を自慢していたはずなのに。


気付いた時には目の前で倒れ動かない父親。

少し離れた所には散乱した荷物と横転した馬車。

そのすぐ側では二人の護衛---


そう二人の護衛。

つい先程までは確かに三人居た護衛が二人になっている。

そして赤い大きな謎の影。


少女には何が起きたか理解する時間がなかった。

しかし、恐怖はあった、突然の出来事に、目の前の状況に理解は出来なかったが、恐怖だけは感じ取れた。

それが死に対するものなのか、レッサードラゴンという絶対的な存在を本能的に恐れたのかはわからない。

ただ恐怖にて震えることしか出来なかった。


「お嬢!!逃げて!!」


そんな少女に叫びかける声。

しかし少女には届かない。

そして---


ドスンッ!


地を揺らすような鈍い音と共に突風が至近距離で起こる。


少女の視界は赤い影で覆われた。

黄色い大きな球がこちらを向いている。


グルルルルル…


地の底から響くような唸り声。

ほんの数秒である、が、しかし少女にはそれが何分にも何時間にも感じられた。

逃げなければ…

そう直感的に感じてはいるが体が動かない。

必死に足を動かそうとするが震えて力が入らない。

必死に足掻きながらもなぜか目はそらせず赤い影を捉え続けている。

と、視界一杯だった影がゆっくりと上下に割れ、鋭利な白い物が現れる。

牙だ。

そこで初めて状況を悟る。

視界を覆う影は大きな頭なのだと。

そして自分は、食われるのだと。


「ひっ…」


声にならない悲鳴が漏れる。


「たすけて…」


叫ぼうとしたが、声はか細く発せられたのみ。

誰にも届かない。



ガアアアアアアアア!


再びの咆哮と共に近づいてくる大きな顔。

もうダメーーー


バッガァァンッ!!


少女が諦めかけたその時、轟音と共に視界から赤い影が消える。


突如飛来した巨大な岩がレッサードラゴンの頭を直撃したのだ。

岩は粉々に砕けパラパラと音をたてて周囲に降り注ぐ。


大きく首を仰け反らせたレッサードラゴンはゆっくりと体制を立て直す。


少女は今起きた事も理解していない、逃げるなら今しかないということもーーー


しかし、次に少女の視界を覆ったのは白い影だった。


そこからの事はほとんど少女の記憶に残らなかった。

ただ目の前に現れた白い影が赤い影を圧倒する。

そしてしばらくすると赤い影は消え、白い影の背中だけが残る。


少女は理解した。

この背中が私を救ったのだと。

そして、その背中に惹かれたのだと。


「あなたのお名前は…」


少女は聞かずにいられなかった。

命を救ってくれたのだ、ありがとうが先であろう。

しかし、聞かずにはいられなかった。


「………」


背中は答えない。

少しの静寂。


そして、背中は、白い影はゆっくりと振り返り---


「見習いヒーローです」


これが彼女とヒーローの出会いであった。

主人公が転生するところから始めるか悩みましたが、

ヒーローとしてかっこよく(?)現れる所から始めたかったのでこんな形になりました。


小説を書くのは初めてで、

書きためたものではないため不定期更新ですがよろしくお願いいます。


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