↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/24

3.盗賊の狙い

美香 (ミカエル):異世界に転生し、性転換した少年。

エリック:美香と共に転生してきた男性。

ケビン:返り血をあびていた男性。軽い性格だが武術は一流。

アイリーン:褐色のメイド長の女性。気が強く、赤の魔術を操る。



移動中、盗賊に囲まれた四人。ケビンが迎え撃つ中、一方盗賊は……。

簡単なミッションのはずだった。

リカードはほぞを噛んだ。


せいぜい四人しか入らなさそうな、ボロい火車(コーチェ)を襲って中の奴らを抑えて、奴隷にでも売ればそれで終いははずだった。

火車(コーチェ)は動力を馬の代わりに赤の魔術にした乗り物だ。相当魔力のある赤の魔術師がいれば別だが、基本的には赤の力が込められた魔箱(ボックス)を使って動かすもんだ。だから赤の魔箱《ボックス》さえ奪ってしまえば脚を無くしたも同然、格好の的になる。

それに加えて、移動ルートとして最短距離になるプラグ山脈の麓リンガエン通っていくのは、旅慣れしてない奴らのすることだ。ちょっとばかし遠回りにはなるが、シブヤン海の沿岸部ナスグブを通っていった方が、人がちで安全なのだ。

それらのことから、リーダーはこの火車(コーチェ)を襲うことに決めた。リカードも他の仲間もその考えは定石通りで理にかなっていると同意したし、十分勝算が見込めると判断し、決行した。


そうだ、何も間違っちゃいなかったんだ。


あの火車(コーチェ)に白の六臣下の一人、白銀の狩人ーーケビンさえ乗っていなければ。


リカードたちは念には念を入れてリーダーを含めたメンバー九人全員でその火車(コーチェ)を遠方から取り囲んだ。自分たちに気づいている様子もない。イケる、誰もがそう確信していた。

その確信が疑惑に変わったのは、その火車のスピードが徐々に落ちてきたときだった。

火車(コーチェ)のスピードが落ちること自体は問題ではない。魔箱(ボックス)の魔力が切れてくると、そのスピードはだんだん落ちていく。問題はその落ち方だった。まるで、道の途中で魔力の供給がぷつんと切れたような加速度だったのだ。

すなわち、ボックスではなくて直接魔術で動かしていたということだ。そして魔力の供給が突然止んだ。

可能性としては二つ考えられる。

一つは魔術師の魔力が底尽きてしまった可能性。しかしこれは考えにくい。なぜならそれくらいの微妙な魔力の持ち主ならば、自分がそのことを一番理解しているはずで、魔箱(ボックス)を持ち歩くなり、ナスグブで休息を取るなりするのが自然なはずだ。もしリンガエンの道中で火車(コーチェ)が動かなくなってしまえば、十中八九俺ら山賊に襲われる。常識だ。実際、そのようなケースに遭遇したことは数えるほどしかない。

もう一つは、わざと魔力の供給を止めた可能性。とすると、その理由は明々白々だ。リカードたちの存在に気付いた上で、撃退しようというのだ。

後者の可能性もある、というかその可能性も高かった。そんなことはメンバー全員が気付いていた。もちろん、リーダーも。しかしリーダーが出した指示は、ゴーだった。

今思えばどう考えても判断ミスだ。盗賊はは一度失敗すれば顔が割れ、拠点のおおよその位置が割れ、国や討伐隊から逃れるために逃げ惑うことになる。盗賊を始めて半年、ぎりぎりの戦いを切り抜けてきた。どれだけやばかった相手でもなんとかなっていた。だからリーダーも、全員調子に乗っていた。

あのとき逃げるべきだったのだ、と改めて思う。


逃げなかった結果がこれだ。

リカード以外のメンバーはリーダー含め死ぬか致命傷を負うかしていて、おそらくもう助からない。残るはリカードだけだ。

白銀の狩人ーー噂には聞いちゃいたが、正直想像以上だ。

あんなのもはや狩人じゃねぇ……殺人鬼だ。


その殺人鬼にリカードは今も追われていた。

弟のために……俺は死ぬわけにはいかないんだ!

「幻森の竜よ我に御加護を!」

リカードがそう唱えと、身体がふわっと軽くなる。環境操作系の緑の武術だ。はなより脚だけで狩人から逃げ切れるとは思っていない。これは時間稼ぎだ。

自分の有利な条件……森林で戦うくらいしか道がない。今はとりあえず森に転がり込むことだけを考えろ。森の中ならまだ逃げ切れる芽が出てくる。

リカードは誤魔化しの武術を駆使してなんとか距離を広げようとするが、それでもケビンと速さは同程度にしかならない。

リカードは必死に思考を巡らせる。あいつから逃げる方法、あいつを足止めする方法ーー。

そこではたと思い浮かんだ。

……これしかない。

多少のリスクは伴うが、今更どうこう言ってられない。下手すれば腕一本持って行かれるが、死ぬよりはマシだ。

リカードは手短に生えていたリリバの実をぶちぶちと引っこ抜く。それを素早くナイフで切り刻むと、中から粉末状の胚葉が溢れてきた。

ビンゴだ。

この時期のリリバの実はちょうど胚葉が最も成長している時期だ。そしてこれは苦くてとても食用には出来ない。が、リカードにとっては貧しい生活の中で何度か世話になった木の実だった。リカードはさらにいくつかのリリバの実を手に取り、ナイフで切り開いた。

頼む……!

リカードはその粉末の詰まった木の実を背後に追いかけてきているケビンに投げつけた。中の粉末がぶわっと広がって、一面が白い煙塵のようになる。これではただの目くらましだ、通用しやしない。

だがリカードの手はそこで終わらない。

リカードは、過去商人から奪い取った赤の魔箱《ボックス》を取り出した。

これでっ……どうだ!

その魔箱(ボックス)を煙塵の一帯に放り投げ、発動させる。

粉塵雲、着火元、そして酸素ーー。

突如リカードの背後で大爆発が起き、リカードもその爆風で前方に大きく吹き飛ばされる。

粉塵爆発ーー。

リカードは地面に叩きつけられると、瞬時に近くの茂みに身を屈めて隠れ、ただひたすら祈り、時が流れるのを待った。



*



程なくして煙塵は晴れた。

そして、その奥にケビンの姿はなかった。

リカードは緊張の糸が切れ、全身の力が抜けて地面に座り込んだ。だんだん無茶をした反動で身体にも痛覚が戻ってくる。

……生き残った、のか……?

白銀の狩人から、逃げ切った。

それはリカードにとってあまりにも信じられないことで全く現実感がなく、むしろ冷静でいられた。


さて、これからどうするか。

運良く残った命だ。無駄にしたくはない。

それにーー弟は今も病気と闘っているんだ、とリカードは緑の国にいるたった一人の家族に想いを馳せる。自分の仕送りがなくなれば、あいつはすぐに病院から追い出されちまう。


……仕方ない。

リカードは腹を括り、レガスピに向かうことにした。

レガスピはシブヤン海に面する比較的大きな町であった。王都ジェネラルサントスと港町タクロバンのちょうど真ん中に位置し、その二つの町を行き来する際の宿場町として栄えたのだ。

すなわち商人と旅人が多く、定住者が少ないということだ。

これは盗人にとっては有難いことだった。一戸建ての家の金庫から金を盗るのと、宿に泊まった奴の鞄から金を盗るのじゃ難易度が段違いだ。しかも商いや旅をする余裕がある奴は大抵そこそこ金を持ってる。いいことづくめだ。



*



リカードがレガスピに到着したのは夜も深まったころだった。それは盗賊にとって最も都合のいい時間帯だ。

ターゲットは寝静まっており、顔を見られる心配もない。

リカードはすぐに行動を起こした。過去一度だけだがレガスピで今日のように泥棒に入ったことがある。間取りを覚えているのもその宿だけだ。リカードは潰れていないことを祈りつつそそくさとそこに向かった。


しめたーー。

行ってみれば、その宿は今も過去と変わらぬままそこにあった。庭にはいくつかの火車も並んでいる。借り物ではなく個人のものだとすると、かなりの金持ちだ。

どの部屋に荷物が置かれているか、見当をつけていたときだった。


「こんばんは、リカードさん」

「っ!?」


リカードは声のする方をばっと振り返ると、そこには怪しげな白衣の男が立っていた。闇夜のせいで表情は伺えない。すらりと背は高く、眼鏡をかけていることが分かるくらいだ。

するとばったりと目が合った。

心の奥底まで覗き込まれているような錯覚に陥る。

そしてその男の瞳には、闇しか映っていない。

本能が告げていた。

こいつから逃げろ、と。


「お話したいことがあります。少しお時間をいただけますか?」


しかしリカードは立ち竦んでその場を離れることが出来なかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。