友達になってください⑤
あれから何回往復しただろう?
廊下に散らばっていた段ボールも片付けられるものはすべてリビングに移動させていた。
簡単に運べるものはすべて無くなっていため、レネの力では持ち上げるのもやっとな箱もいくつか運んでいた。
自分の荷物の片付けは3日かけて行ったが、今日はそれ以上のことをこの短い時間でやってのけようとしていた。そのせいか必要以上にレネの身体に疲れがたまっていて、廊下へ荷物を取りに戻るだけでも足元がふらつくようになっていた。
「ハア、ハア……」
レネは肩で息をしながら部屋の通路に手を添えて寄り掛かっていた。
立っているのも不思議に思える状態にもかかわらず、彼女のために何とかしたいという思いは決して萎えていなかった。
壁から身体を離した時、背中にあるルームメイトの部屋のドアが開いた。
「進んでる?」
少女はドア越しに顔を出して声をかけた。
レネの手はすでに壁から離れていて、何事もなかったようにその場に立っていた。
「いやー、悪いね。テレビとパソコンのリンク設定に手間取っちゃって。……これから私も手伝うからバンバン進むよ」
ドアを閉めながら、一つの区切りを達成できたことがレネにも深く伝わってきた。間接的ではあるが自分一人で荷物の片付けをしていたことが彼女の役にたったことにレネは安堵感を覚えた。
「どれくらい片付いたかな?」
「……あんまり」
レネは振り返らずに申し訳無さそうに答えると、
「またまた、御謙遜を……」
そう言って少女は嬉レネの半歩先を歩き出した。
レネも足がもつれそうになりながらついて行く。
彼女に背中をぼんやり見つめながら、
(言い訳でも何でもいいから声をかけて、そこから自己紹介に持っていかなきゃ)
そうは考えても、それから先が疲労のため思いつかない。
少女の足が突然止まった。
レネはそれに気付かず彼女の背中にぶつかりそうになったが、寸前で止まることができた。そのまま後ろに隠れていたかったが、そうもいかないことはわかっていたので彼女の横に並んで床に目を落とした。
荷物の量は減ってはいたが、まだ半分以上は残っていた。
天井近くまで積まれている一部の段ボールはそのままの状態で残っており、その周りには最初に雪崩を起こしたままで手もつけられていないものも存在していた。
この場所にレネとルームメイトだけしかいないのは幸いなことだったかもしれない。他の人がいたら、その無責任な状況に容赦ない非難の言葉が浴びせられたことだろう。
「一人に任せたのが失敗だったかな」
「ごめんなさい……」
「気にすることはないよ。悪いのは私だ。本当は最優先ですべての荷物を部屋に入れなければいけないのに、それを後回しにして他のことに手を出しちゃったから」
レネは悔しくて拳を握った。
「……とは言え、もうちょっと進んでいるかと思ってた。……大きい荷物が全然運べてないじゃん」
少女は腰に手を置き少し呆れた口調で嘆いた。
「……ごめんなさい。私力が無いから重いものが持てない。何でかわからないけど、手が箱の端まで届かないから上手く持ち上げられなくって……」
「何それ? ……ん?」
少女はレネに目線を下ろし何かに気づいて声を上げた。
その声に反応してレネは少女を見上げた。
少女はレネを凝視していた。
レネは少女の真剣な眼差しの理由がわからず不思議そうな顔で少女を見つめた。
「……」
しばらくの間二人はお互いを見つめあう格好になっていた。
「私、何か変かな?」
レネは表情を変えずに首を傾け疑問を口にすると、
「えっ? ……どわぁ!!」
少女が慌て出して、顔が林檎のように赤くなっていく。
「あっ、いや……、何でもない。……とにかく、早いとこ荷物を部屋にしまわないと。見つかったら色々面倒臭いから」
少女は何かをごまかすように一番遠くの箱の前まで走り出した。
「……いや、まさか。……そんなに……わけがない……」
何か独り言を言っているようだったが、後ろ姿のためレネにはよく聞こえなかった。
「せーの」
掛け声一発、少女はレネが持てなかった60cm四方の箱を持ち上げた。
レネは少女の背中をうらやましく見つめていた。自分も彼女くらい身体が大きければ箱の端に手が届くのにと思った。
羨望の眼差しに気づいたのか、少女は箱を抱え込んだままレネに振り返った。
二人はまた目があった。瞬間、少女はよそよそしく目を逸らして足早にレネの横を通り過ぎて部屋の奥に消えていった。
レネは彼女の姿を最後までボンヤリ見つめていた。
(私もお手伝いしなきゃ!)
レネは我に返って周りを見回した。自分でも運べるものがまだ残っていないか探してみたが、どれも持ち運べる自信がない。
「……」
はがゆい気持ちを押し殺すように唇を噛んだ。
あちこちに箱の散らばったこの場所のように中途半端なまま終わってしまうのかと心によぎる。
(このままなんて、イヤ……)
レネは一番近くにある箱を持ち上げようと腰を屈めた。いつもみたいにここで立ち止まっては自分の望みは叶わない。
ちょっと無理すればあの箱が運べるんじゃないか。そうすれば彼女の役に立つことができる。それがレネの望みであり、この学校へ来てやりとげたい思いだった。
「ん……」
指に力を込めて箱の側面を押さえ付ける。二の腕の筋肉が固くなったのが自覚できた。腕の力だけで2cmほど中に浮かせた後、4本の指先を箱の低部に潜り込ませた。
両腕に自分の体重の半分程の重量がのしかかってくる。少しでも負担を分散するため背中を仰け反らせて箱の重心を身体の方向へ移しながら足を踏ん張り立ち上がった。
「……ん、……ん」
持ち上げられた荷物は密着しているレネの胸から離れたい意志を示すように重心を外に踏み出して逃げ出そうとしていた。
レネは箱の抵抗に振り回されて彷徨い出した。
「ひゃ、ひゃあ」
とっさに壁に箱を押し付けた。段ボールが少し潰れる感触が胸から伝わってくる。
逃亡を企てた物体はついに観念したのか抵抗を止めて動かなくなった
レネは指先を数cm先にずらして体勢を立て直した。そのままの体勢で入り口近くまで横歩きで移動する。
大きく開いたドアの手前で立ち止まり、三度大きく深呼吸をした。指にキュッと力を込め一気に部屋の中へ突入した。
通路の壁から開けた世界へと視界が変化する。
イケる、レネは一瞬だけ過信した。
足を一歩出した瞬間、箱がぐらついた。
「えっ」
自分では抗うことの出来ない引力が前から横から規則性のないパラメーターで加わり出した。
身体のバランスが崩れ、足が左右にふらつき出した。それでも箱だけは落とさないように身体を前のめりにしながら指先に力を込めて食らいついた。
「ひゃ、ひゃ、……ダメー!!」
空気がビリビリ震える程の叫び声が部屋に向かって発せられると、さっきまで重くてどうしようもなかった箱が魔法にかかったように軽くなった。
「何やってんの?」
箱の反対側を支えながらルームメイトが呆れた表情を浮かべていた。
「手伝ってくれるのはありがたいけど、運べないのを無理して運ばなくてもいいよ。後は自分でやるから」
彼女はレネから段ボールを軽々と取り上げた。
「疲れているみたいだから、しばらく休んでていいよ。また、手伝ってもらいたい時は声掛けるから」
「えっ、あ、あの……」
少女の姿は荷物と一緒に奥に消えて行った。
レネは心に言い様にない喪失感を感じていた。
(私……)
足が彼女の後を追うようにふらふらと歩を進め、気づくと何時の間にかリビングのソファーに腰を下ろしていた。
何秒も経たないうちにまぶたが重くなってきた。
(私は……)
頭がコクンコクンと動きだし、身体を起こしてられなくなってそのままソファーに横たわった。
(何がしたかったんだっけ……)
ついさっきまで覚えていたはずの大切なことを思い出せないまま、レネは意識を失った。
◇ ◇
「……し、……も……し」
(遠くから何か聞こえてくる)
「……もし、もし……もし、もし……」
(人の声だ。誰の声だろう? 何となく聞いたことあるような……)
ぼんやりそんなことを考えていると身体がグラグラと揺れ出して、何か起きているかいぶかしく思った。
しだいに揺れが頭にも響いてきて地震かとも思ったが、地面が揺れている気配はしない。
どうもその揺れは自分の二の腕から起きているようだ。誰かがその腕を掴んでいる感触があった。
「うっ……うん……」
わずかに開けた視界の先にぼんやりと人影が見えてくる。
(お姉ちゃん……?)
「無理に起こさない方がいいかな。大分手伝ってもらったし……」
(手伝う? 私お姉ちゃんのお手伝いとかしてたっけ? ……何か違うような気がする)
「でも、このまま放っておくのもなあ。朝まで寝てたりしたらそれはそれで困るし……」
(寝てたんだ、私。……起きなきゃ。このままだとこの(、、)人(、)困って何も出来なくなっちゃう)
「うっ……」
身体が重くて起きようとするだけでも億劫な気持ちにさせられた。まだ疲れがすべてとれていないといった感覚が上半身にくすぶっていた。
(疲れてた? そういえば、私何かしていたような……)
「あっ、起きた」
何重かのぼんやりとした輪郭が重なってきた。その中に一際は特徴的に飛び出した前髪が天井めがけてユラユラ動いていた。
「フェラフェラ(ペラペラ)が……、一つ、二つ、三つ……、……それ食べられるのかな?」
身体を起こした女の子は口を半開きにして恍惚とした表情をしながら揺れる物体を目で追いかけて嬉しそうに一緒に身体を揺らしていた。
誰の目から見てもレネが寝ぼけているのが見て取れた。
「うわ、開口一番すごいこと言ってる。わかってんのな、その意味」
「?」
輪郭が重なりだし、目や鼻などのパーツが決まった場所に落ち着いてきた。赤毛の女の子がどことなく困惑したように自分を見つめていることにレネはようやく気がついた。
「……ふぃひゃ」
鼻と口から同時に息を吸ったような音を立ててカッと目を見開いた。
「あっ、ひゃ……。ごめんなさい、私寝ちゃってた。……ええっと、お手伝い。そう、お手伝いしなきゃ。ええっと、ええっと、……何すればいいんだっけ」
おぼろげながら覚えている自分のとった行動や態度がこれから行うべきこととごったになって頭の中を駆け巡りレネはその場で右往左往してしまった。
「別に寝てたことを責めるつもりはないよ。むしろ、休んでてって言ったのは私だし……。最初に片付けてくれていたお陰で、残っているのも五六個に減ったし」
少女の言葉を受けてレネが周りを見回すと、確かにリビングに積まれている段ボールの数はざっと見でも倍近く増えていた。
「あと残っているのは大物だけ。一人で持ち運ぶのは無理だから、手伝ってもらおうかと思って」
「本当! じゃあ早くやろうよ」
レネは喜び勇んで立ち上がり、外へ出ようと心を弾ませた。
「あー、ちょっと待って」
「!?」
呼び止められ、振り返った。
「いや、そのー、何だ……。寝てた時も気になったんだけど、一度確認しとかないと気分が晴れないと言うか何と言うか……」
少女は深刻そうに額に皺を寄せて、左手で頭を抱えこんだ。
「どうしたの? 私のことで気になることがあったなら、気兼ねなく教えてほしいな」
「うーん。……でもなあ」
「私、あなたの力になりたいってずっと思ってた。今の私に何か足りないことがあるなら、できることはすぐ直すよ。そうしたらもっとあなたの役に立てるから」
「……」
少女は指の隙間からレネを一瞥したが、唇の端を噛んで無言を貫いていた。
レネは微笑みながら、
「あなたの気使いはすごく嬉しい。でも、そんなに気を使わないでほしい。これから三年間一緒に暮らすんだもの。私も自分のダメなところは直したいといつも思っている。私の気づかないダメなところは何でも言ってほしい。……」
(そうすれば、本当のお友達になれると思うから。私はあなたとお友達になりたいんだ)
最後に喉元まで出かかったその言葉を飲み込んだ。まだこの言葉は伝えるには早すぎる。彼女の希望を叶えてから、初めて言える言葉だからだ。
「……そこまでの決意を言われると、何か心が動かされるなあ」
顔から手を離し、感服の表情を見せて息を漏らした。
少女はレネを真正面に見据えた。顔が赤くなっていく。
「その思いに応えたいと思う。遠慮はしないから」
「うん」
レネは少女を真剣な眼差しで見つめて小さく頷いた。
「それじゃあ……」
彼女の言葉が途切れた瞬間、レネの胸元に今まで感じたことのない抑圧感が食い込んできた。時々襲ってくる胸の奥の圧迫感とは違っていて、外側から乳房の中に食い込んでくるような平べったい温もりが揉みこまれてくる。
自分の知らない違和感が胸元で何重にも掻き回され、次第に快感に変化していった。
(この感じ何だろう?)
レネは不意に目線を落とした。
少女の両腕が自分に延びているのに気がついた。その先は……
(……おっぱい)
「ひゃわぁああああ」
想定外の現実に大声を上げてしりもちをつき、自分でも考えられないくらいの早さで後ずさった。壁のぶつかった後も床を二三度蹴飛ばし身体に跡が付くくらい背中を壁に押し当ててこの場から本能的に逃げ出そうとしていた。
「え!? へ!? へ!?」
レネは何が起きていたのかわからなかった。同時に何が起きていたのか理解しようともした。
(私、おっぱい揉まれていた。何で!?)
これからお友達になってほしいルームメイトが自分のおっぱい揉んでいた。
後にも先にもこれが起こっていた事実だった。
「マンガでは読んだことあったけど、リアルで『ひゃわぁああああ』って叫ぶ人初めて見た」
少女はレネの前にズイッと立ち尽くしてクールな表情を浮かべていた。
「それは置いといて」
一つ咳払い。ビシッと左手の人差し指をレネに向けて、
「何だよ、その巨乳。ありえねえだろ」
「えっ!?」
「すぐ傍でジャージ姿見た時、妙な違和感あったんだよなあ。箱に手が届かないって、何だよそれって思ったけど、理由はこれか、これだったのか!!」
レネが胸元を隠すような腕組みをしているせいもあって、指摘を受けた対象物は二つの大きな黒い鉄球がジャージの外へ破り出ていきそうな破壊力をこれみよがしに見せつけていた。
「さっき触った時の見立てでは、90、いや92はあるな。身長は……145前後か」
「!?」
レネは目を丸くして驚いた。その表情を見た少女は当然と言った表情でさらに身を乗り出す。
「しかし、これは……。わがまま通り越して、ありえないことになってる……」
ドゥクン。
繰り返し使われたその言葉は、レネの身体に巨大な衝動を駆け巡らせた。
「わがままボディ超えた……。ありえなボディ恐るべし」
ドゥクン、ドゥクン、ドゥクン……。
(わがまま……。ありえない……)
レネの脳裏に食堂で楽しく会話していた頃のクルスの顔がいくつもフラッシュバックしてくる。
『私は今日ルームメイトとお友達になるから、三人で夕食を食べようよ』
ドゥクン、ドゥクン、ドゥクン……。
(私、約束したのに……)
大声で泣いている私。
道路で胸を押さえて横になっている私。
ベッドの上で天井を見上げている私。
姉に反抗する私。
姉から強く抱き締められている私。
幼い頃の私。何も出来ない無力な私。身勝手な私。
(あの頃と一緒……)
「……しかし、何をどうやったら、そんな風になるのか教えてもらいたいな」
少女は上から目線で質問とも独り言ともとれない言葉をつぶやいていた。
「私、ありえないのかな……?」
「ん?」
「そうだよね、やっぱりありえないよね。自分勝手で……」
「は?」
「自分の思いを叶えたいから、人の役に立ちたいなんて、結局自分のことしか考えてないわがままなことだよね。本当、押し付けがましいよね、他の人から見ると」
「何言ってるの?」
言いたい放題言っていた少女は床にへたり込んでいる女の子の様子がおかしいことにようやく気がついた。
「私にできることって、こんなことしかないから。わがままとかありえないとかって言われても、私こんなことしかできないから。……でもやだよ、このままじゃ。私このままじゃ、約束も守れない、何にもできない子になっちゃう……」
レネの目元に涙が溢れてくる。
「違う、悲しくないよ。私全然悲しくないよ。でも何で、涙が出てくるの? ……イヤだ、止まらないよ。私、泣いちゃダメなのに、涙が出てくるよ。いっぱい出てくるよ。止まらないよ。どうしよう、ダメなのに。泣いちゃダメなのに……」
「ちょっと、どうしたの」
息を荒らしながら尋常じゃない混乱を見せるレネに少女は焦り出した。
『うわあああん!!』
レネの泣き声が広いリビングに響き渡った。
その声は狭い部屋の通路を通って開いている扉の外へボリュームを増しながら飛び出していく。
「うわ!?」
少女は突然起きた事態に目を丸くして慌て出した。
「ヤバい、どうしよう」
しばらく右往左往していたが、
「……とりあえず隠蔽工作だ」
入り口のドアに全力で走った。廊下に誰もいないことを確認すると力一杯ドアを閉め、再び全力でリビングに戻った。
「ふえ、イヤ、ダメだよ。泣いちゃ。おかしくなっちゃうよ。こんなに泣いちゃ、ダメになっちゃうよ……。私、あの時より大きくなったのに。昔の私とは違うのに……」
「何? 何? どういう意味? 何が言いたいの?」
解釈不能な言葉が嗚咽の中に並べられていて、少女には泣いている女の子の気持ちが読み取れない。
「色んな所大きくなったのに。背も延びたし、髪も延びたし、身体も大きくなったのに……。私昔のまんまだよ。何にもできない、……何にもできない子のまんまだよ。ヤダよ、そんなのヤダよ……」
レネの口から自己否定の言葉が次から次へと吐き出されていく。
「むむむー。これどーすりゃいいんだ。これじゃ私悪役じゃん。万一こんなこと他の奴に知れたら、入学早々変なレッテル張られる。よーし、こうなったら……」
少女はキッと鋭い目つきになり、
「とにかく、ごめん。私やりすぎた」
膝を着いて頭を下げた。
「お願い、泣き止んで。……そうだ何なら、私にも同じことしていいから」
少女はレネの右手を取り、自分の左胸に持ってくる。
「さあ、揉んでくれ。心行くまま、気の向くまま。揉みしだき倒して私をどこでも逝かせてくれ!」
少女が175度違うベクトルに突っ走っていたら、レネはゲホゲホと咳き込みだした。
結果的に彼女の希望通り数回揉まれ、
「……アン♡」
艶っぽい声を上げて、少女は床にフニャフニャと倒れこんだ。
「感じちゃった……」
虚ろな目で見返したが
「ハア、ハア、ハア……。イヤ……。違うよ。私、私……」
全く相手されてなくて、少女、ショック。
「ヒ、ヒドイ。……そりゃあ、君に比べたら遺憾の意を表したくなるものかもしれないけど、そこまで言わなくてもいいじゃん……」
頭を垂れて枯れていた跳ね毛をクルクル回して不満を表したが、レネには聞こえていないようだった。
少女は膝を着き直し、レネの顔を覗き込んだ。
「もう、一体何が望みなんだ? お願いだから、泣き止んで。泣き止んでくれるなら、何でも言うこと聞くから」
半ばヤケクソぎみに聞いてみた。
レネは赤くなった目で少女の真剣な表情をじっと見つめた。
少女は再び大きな胸の高鳴りを覚え身じろいだ。
「本当?」
「……ほ、本当だよ」
「本当に何でもいいの?」
「クドイなあ。約束するよ」
目を逸らしながらではあるが、正面の女の子に対して真剣な声色で自分の気持ちを伝えた。
「何でも叶えてあげるから、何が望みか教えてくれよ」
その言葉を聞いたレネはなかなか止まらない涙を拭って、今出せる限りの大声で彼女に向かって叫んだ。
『友達になって下さい!!』
「……はっ?」
少女は微動だにせずその場で固まっていた。




