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漆黒の戦機  作者: 夏木裕佑
第一章 「開戦は唐突に」
9/103

一三二年 五月二一日~ ①

感想でご指摘いただいた部分をなんとか改善してみた(つもり)です。いやはや、ここにきて力不足というか、自分の書く力の無さに泣きました。

それと、同じ日付の話がいくつかあるとこんがらがると思うので、②とか③とかつけることにしました。

よろしくお願いします。

・アリオス暦一三二年 五月二一日 メキシコ星系 レイズ第三艦隊




動き出した第三分艦隊は急速な加速をして、そのまま惑星メキシコへと向かう。その様子を第一・第二分艦隊が見送り、アステナはバデッサの安全を切に願った。


正規弾三艦隊は、全容が一七〇隻の通常規模の艦隊だが、その指揮系統はアステナが苦労して選んだ幕僚たちによって分割されていた。大きな一つの部隊が身を重くしては機敏な動きを取り辛くなるので、迅速な展開力と指揮系統の安定のために、アステナは三つの分艦隊を作った。まず第一分艦隊は、七〇隻の艦艇で構成され、艦隊全体の指揮中枢である旗艦ハレーが指揮艦となり、主に戦線の中央部分の役割を果たす。それを中心として、機動力を生かして様々な戦術行動をとるのが第二、第三分艦隊である。これらの部隊を有機的に活用する戦術構想が、アステナの考えた分割戦力戦術だ。


通常、戦術において戦力を分けることはあってはならない愚策である。戦力を悪戯に分散すれば、それは敵に各個撃破の機会を与えるだけであり、もちろんこれを利用した戦術もいくつか存在するが、リスクも大きい。一歩間違えれば全滅する可能性だってある。

しかし、アステナのこの分割戦術は、戦力を分けてはいるものの、結局は一個の戦闘集団に帰結する物だ。矛盾しているが、戦力を分散しつつも一つの集団として機能させることは古い時代から考えられている戦術で、真新しい物でもないのだが、AIや通信技術が比較にならないほど進歩したこの時代においては艦隊を分けること自体が意味の無いことであり、軽視されている。元々この戦術は通信技術の乏しい時代に、最低限の連絡だけで部隊を動かせるように考案された物であり、技術の進歩と共に戦場を指揮官が管理することも格段に容易になった為に廃れたのであるが、アステナの真意は他にある。つまりは、少ない戦力をいかに有効活用するか、と言うことである。


しかし、戦術としては以前から考えていた物の、今までは実践する機会がなかった。そのため、色々な不安もあるし、今回は第三分艦隊のみの威力偵察な訳なのだが……


「心配だ、とにかく心配だ」


まるで一人娘を見送った後の父親のようなことを言いながら、アステナはハレーの中を歩き回っていた。バデッサが優秀な指揮官だからということもあるが、若い部下が目の前で死ぬのは避けたかった。


そうしてアステナがようやく心を決めてハレーのブリッジに戻った頃、遠く離れた第三分艦隊は順調に歩みを進め、敵本隊より一光分の位置にまで接近していた。速度を緩め、バデッサは指令を伝達する。


「第三分艦隊の各艦、防衛陣形アルファ・三を取れ。正念場だぞ」


五〇隻の船が陣形を整え始める。戦艦と重巡洋艦が戦列を作り、そのやや後方に軽巡洋艦が待機する。各陣形の隙間には駆逐艦が入り込んで、ミサイル防衛と対空攻撃を担当する。軽巡洋艦と戦艦・重巡洋艦の戦列の間に旗艦が陣取り、第三分艦隊は巨大な壁を作ると、今度はそれを歪曲させて緩やかな半球形状に陣形を変化させた。


バデッサの考えた防御型陣形である。本来、機動力を生かして接近戦を行うはずの駆逐艦を守りに使うことで、第三分艦隊の対処能力は格段に向上した。


「敵艦隊、移動開始。長方形陣形のままこちらに向かってきます」


管制官が告げる。バデッサは唇を舐めた。コンソールに意識を集中し、敵のどんな動向も見逃さないように気を配る。同時に味方の船の位置も確認し、陣形に乱れが無いかも確認すると、後はただ待った。


長い時間がすぎていく。目の前には巨大な壁のように展開する二一〇隻の敵艦隊がいる。こちらの数は五〇。どう考えても勝てるわけが無いが、勝つことが目的ではない。第三分艦隊にとって何より重要なのは、なるべく被害を出すことなく戦闘を終了し、生き残ることだ。それを改めて肝に銘じたとき、管制官が叫んだ。


「敵艦隊、射程範囲内に入りました!」


「全艦、砲撃開始!ミサイル第一波斉射!」


第三分艦隊の各艦が主砲を発射する。ひとしきり光のイリュージョンが展開された後、今度は五百発ほどのミサイルが発射された。推進装置の光が尾を引きながら、流星群のようにミサイルが敵艦隊へと襲い掛かる。敵艦隊からも応射があり、さらにデコイも射出された為に、大半のミサイルはあらぬ方向へと曲がり、爆発した。そのほかにも多数のビームによって撃ち落されるものや、対空レールガンの砲火に撃墜されたミサイルもあったが、計二〇発程のミサイルは命中した。敵の戦艦や重巡洋艦は持ちこたえたが、攻撃を受けた駆逐艦はそうはいかなかった。レイズ星間連合の採用しているASBSミサイルが近接信管で作動し、巨大なプラズマの火球がシールドを抉る。臨界点を超えたシールドは消滅し、駆逐艦の船体の一部分を蒸発させてプラズマは消えた。


立て続けに起こる爆発。苛烈な戦闘状態に入った両軍は瞬く間に宇宙空間を閃光で染め上げる。長方形陣形と半球形陣形がぶつかり、カルーザは拳を握り締めた。

確かに、敵の動きは機械的だった。通常は乱れが生じる部分も、陣形に一切の隙が無く展開されている。敵の陣形は基本戦術に倣った、戦艦と重巡洋艦を前に出して、後方を軽巡洋艦と駆逐艦で固めている。まるで教科書どおりの戦術だが……


「まだまだ隙があるな。艦隊、微速前進。砲撃の手を緩めるな。回避機動を取り続けろ」


不規則なダンスを船が踊り始める。敵からの猛烈な攻撃は、数で劣るレイズ側の船が避け、或いは反撃することで効果を挙げられなかった。バルハザール側の船はいくつかの指揮系統に別れているようで、機械的にかわるがわる砲撃を行い、攻撃はしてくるものの戦闘の意思を感じられない。普通ならば、これだけの至近距離で撃ちあえば気迫のような圧迫感を感じるはずだが、今回の戦闘では何も感じられない。真空の広大な宇宙空間を挟んで戦闘をしているのだからそれも無理もないと思われるだろうが、宇宙で長く生活するようになった人類は卓越した第六感を備え始めた、という説を論じる学者が腐るほどいるように、宇宙で暮らすものは確かに、何かしらの鋭敏な感覚を備えているものなのだ。


「惑星上からの支援砲撃は?」


「ありません」


「いけるな。ミサイル第二波斉射!敵の巡洋艦を狙え!」


主砲斉射の間に、ミサイルが放たれる。先ほどの攻撃で十分にデータを収集したレイズ宇宙軍の各艦は、防衛パターンを記憶してその裏をかく様に動いた。先ほどとは比べ物にならないほどの数のミサイルが命中し、陣形は大きく乱れる。


「やった!大佐、このまま―――」


後ろで声を上げる参謀を遮る様に、バデッサは指示を下した。

敵の大規模な艦隊が、徐々に後退し始めている。


「後退だ。敵の後退に合わせてこちらも後退、戦闘宙域より離脱する」


その言葉に誰もが驚いた顔をしたが、有無を言わさぬバデッサの表情に従った。他の艦も大人しく命令に従い、第三分艦隊は後退し始める。僅か十分ほどの戦闘で、第三分艦隊とバルハザール宇宙軍は距離を開き、やがて戦闘は収束した。


「何故撤退するのですか、大佐!あのまま戦っていれば―――」


「勝てたのだろうに、か?我々の目的は勝つことではない。我々の目的は味方の為に、敵

のデータを持ち帰ることだ。それにこちらは兵力で劣っている。敵が本気になったら、こちらは壊滅してしまうぞ」


いきり立って大きな声を出した若い参謀を嗜めながら、バデッサは説明した。さらに続ける。


「それと、敵の行動を見たか?後退の速度が揃っていなかった。左右両翼の部隊はノロノロと後退していただろう?あれは、我々を包囲する動きだ。あのまま前進していたら、二〇〇隻に取り囲まれてそのまま……」


肩をすくめる。何もいえなくなった参謀から目を移し、バデッサは仕事に取り掛かった。まず、副官に指示して本隊のアステナへとへとメッセージを送信させる。今しがたの戦闘データと、バデッサ個人の感想だ。様々な情報を集約して整理し、ファイル形式で送り出すと、後は味方の損害の確認。


十分ほどの戦闘だが、駆逐艦一隻がやられた。他にも様々な船が損害を被っている。しかし、その駆逐艦一隻を除けば奇跡的な生存率だ。何せ、敵の数はこちらの四倍近かったのだから。


さらに様々な要因が、バデッサの脳裏に浮かぶ。何故、敵はミサイルを撃たなかったのか?あの数で斉射していれば、少なくとも半数は撃沈できていただろうに。それをしなかったということは、何か裏があるのか……


「とにかく、任務は終えた。後は准将の指示を仰ごう」


そう決めて、彼は艦橋を離れて自室に向かうと、ようやく解けた緊張の糸を断ち切って眠りについた。








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