一三二年 十二月二十四日~
その夜、アクトウェイがようやくクリスマスの酔いから醒めた頃、リガルはひとり自室にこもって、コンソールの上に立体映像投影装置によって浮かび上がっている複数人と通信を交わしていた。
「まずはレイズだ。これは動かせない。俺は軍人だ。命令には従わなければならない」
カルーザ・メンフィスが言う。金髪の彼と、より長い金髪を携えたハンスリッヒ・フォン・シュトックハウゼンは極めて対照的な人物に見える。リガルにとって、どれだけ二人が違っていようとその根本を信じられることには変わりが無かった。
堂々巡りになった議論に辟易したのか、ハンスリッヒが欠伸をした。カルーザは咎める様に彼へと視線を送ったが、あえなく片手を振られて弾かれると、今度はリガルを見た。
今しがた、リガルから第一艦隊をロリアに、と要請されたところだ。理由は、放浪者のランカーであるリッキオ・ディプサドルとジェームス・エッカートに協力を仰ぐのだという。ジェイスとリガルには形容詞難い因縁があり、それを当人は完全には理解はしていないものの、個人的な決着を何よりも望んでいるのは明らかだった。ハンスリッヒも同様で、借りを返すといってきかない。カルーザとしてはクライス・ハルト中将から言い渡された通りに、彼らをレイズ本国へ連れていく義務があり、レイズ星間連合の市民に忠誠を誓った身としては、法的な規則に則って下された命令に従うことは許されなかった。
だが、国家軍隊がこうも翻弄されている昨今、帝国軍残党の首領たるジェイスを打倒すにはリガルらノーマッドに賭けるしかない、というのが、カルーザの個人的な見解だった。第五機動艦隊がシヴァ領宙の安定を守り、ここに第二管区艦隊がいる。ケイロ・シュンスケ中将は仏頂面のまま、ホログラフに顔を並べていた。彼はまだ何も発言していない。レイズ星間連合第一艦隊は彼の管轄ではないのだし、味方である事は確認されているものの、これからの行動方針について議論に参加するつもりは毛頭ないようだ。
第一艦隊と第二管区艦隊は、一先ずレイズとの国境宙域へ向かっている。第六機動艦隊とジェイスの一党をシヴァ領宙に閉じ込めるのが主目的なのだという。さらには、周辺情勢からいち早くレイズ星間連合の危機を察知したシヴァ政府は、彼らの支援のためにもこちらへと艦隊を派遣してきたということだった。
予想外の方向へ議論が進んでいることは否めない。リガルは苦い思いを噛み締める。カルーザ・メンフィスが首を縦に振らなければ、自分達はロリアまで辿り着く事が出来ない。コンプレクターとアクトウェイで突入したとしても、二隻で帝国軍主力部隊を相手取る事は不可能だ。出来るにしても厳しい戦いを強いられるだろう。そのためには援軍がいるし、遅かれ早かれ、銀河連合軍はロリアを奪還しなければならない。
ここにきて新たな懸念が浮かび上がってきた。それは、旧銀河帝国領に属していた国々がロリアの帝国軍旧勢力に求心力を求め、併合されるのではないかという懸念だ。そうなれば新たな謀反を生み、第一次オリオン腕大戦とは比較にならない程、複雑で厄介な戦いとなるだろう。
自分達は何をすべきか。その問いに対する答えは簡単だ。シヴァ領宙でジェイスと第六機動艦隊を捕捉し、撃滅する。そうする事で次はレイズ星間連合に加勢し、バルハザールにいる第三機動艦隊を討伐できる。シヴァとレイズが安寧を取り戻せば、オリオン腕の下端、ロリアを中心とする帝国軍主力と、バレンティアとアルトロレス連邦の中間に広く分布するクリシザル国の帝国軍に対処できる。そうすれば四か所を同時に相手取る対ゲリラ戦ではなく、戦争は単純な二正面作戦へと移行する。数にものを言わせた掃討戦が始まるのだ。
第二次オリオン腕大戦は、シナノ宙域会戦から今日までの初戦において、銀河連合軍の敗北で確定したといえる。だがこの後に控える難局を乗り切れば、その後の展望には希望の光が望めるだろう。
その中でどう立ち回っていくか。リガルは集中して考え続ける。ノーマッドとして、機に乗じるやり方は熟知している。波に乗れば、ジェイスの元まで辿り着けるだろう。危険は大きいが、奴とは決着を付けねばならない。
そして、奴を前にした時に、何故自分が彼に拘るのかをはっきりさせておかなければならなかった。
「よし、こうしよう。第二管区艦隊にはレイズとの国境宙域を防衛してもらいたい。これはそちらの命令とも矛盾してはいませんね、ケイロ提督?」
カルーザが口を開いた。ケイロは重々しく頷き返す。
「ああ、そうだ。結果として、シヴァ以外の宙域に彼らを出さなければそれでいい」
「では、予定通りにあなた方にこの宙域はお任せします。リガル、我々はレイズへ行く。その間に、その二人のランカーはロリアから離脱しているかもしれん。情勢を見て、その時に決めよう。俺も、君達の支援を上層部に打診してみる」
「……わかった。ありがとう、カルーザ」
通信を終え、クリスマスの興奮も消え去った。ベッドの脇にあるホログラフの時計を見やると、既に時刻は午後十二時を過ぎていた。既に日付は十二月二十五日。そろそろ他のクルーたちの馬鹿騒ぎも収まってきたころだろう。
静かな自室でベッドに身を投げ出し、しばし天井を見つめた後でシャワーを浴びる事にした。備え付けのシャワー室に閉じこもって熱い湯を頭から三十分ほど浴び、下着と新しい航宙服のズボンを身に着けて部屋に戻る。上半身裸のままタオルを首にかけて戻ると、思わず心臓が止まりそうになった。
アキが、部屋の椅子に座って佇んでいた。証明は薄暗いものから明るい蛍光色に変わり、影がくっきりと床に陰影を描いている。少し疲れているのか、無表情ではあるが覇気のない面差しで、シャワールームから出て来た黒髪の青年を振り返る。と、途端に目を逸らし、差し出した右手をひらひらと振った。早く服を着ろ、ということらしい。
そそくさと、新しいシャツと航宙服のジャケットを身に着けたリガルは、前を閉める事もないまま頭の上に被せたタオルで髪の水分を拭き取った。
「急にどうしたんだよ、驚いた。心臓が口から飛び出るかと思った」
「いえ、別に。嘘を言うのもあれですから正直に言いますと、セシルとジュリーから『今日という日に何もないのはかえって不潔だ』と言われまして」
思わず額を押さえて蹲りそうになるのを賢明にこらえながら、次のシフトに二人に割り当てられている仕事量をさりげなく二倍にしておこうと心に決めながら、何気なく彼を見やっている白髪の美女へと顔を向けた。
「で。君はここにきた。だが、そんな事を期待してもいないんだろ?」
「ええ、まあ」と、言ったものの、アキは考え込んで、「いえ、半分くらいはそうした理由もあったかもしれません」
思わず頬を紅潮させたのを感じて、リガルは背を向けた。
彼女が曖昧な返事をするのは珍しい。それだけ、精神が人間に近づいているのだろう。本来ならば喜ばしい事の筈だが、こうも面前に立って人間の……女性らしい事を言われては、目を背けたくもなる。
特に、今日の彼女はどこかおかしかった。姿勢が柔らかく、胸元は少しはだけている。ジュリーの仕業だろう。彼女の航宙服の乱れ方にそっくりだ。あの有り様が意図的になされたものだとは思わなかった。
「ひとつ聞きたい。いや、他意はないんだが、君にそういう機能はあるのか?」
「あります」
しれっと彼女は言い、流石に気まずく感じたのか、目を逸らした。眉を潜めている所から多分に戸惑いが見て取れる。
どうするべきだろうか。助けを求める様に、ダクトが通った灰色の天井を見上げる。しかし救いは降ってこない。天を見上げている訳でもないのだから当然だ。ここは自力でどうにかしなければならない窮地である。
アキのしたいようにする。それが最善ではあるのだが、この言葉は彼女に全責任を負わせる事と同義だ。決してそんな真似は出来ない。あくまでフェアな関係でいくべきだが、どうするべきか、いつもは解決策が頭の中に浮かんでくるのにこの場面ではどうにも役に立たなかった。
「まあ、なんだ。君も汗をかいただろ。シャワーでも浴びてきたらどうだ」
「結構です」
「――――」
「――――」
下心がある様に思われたのだろうか、にべもない返事に沈黙ばかりが降り積もる。このままで今にも窒息してしまいそうだ。
いや、違う。彼女はただ黙り込んでいるのではない。何かを待っている様に思える。
「アキ、あの事、考えてくれたか?」
それはつまり、アルトロレス連邦にて、ゴースト・タウンと呼ばれる廃棄ステーションでジェイスとの死闘を演じた時の事である。シャトル一隻で敵艦隊をおびき寄せる囮として進路上に躍り出る事を決めたリガルは、遺言として船長代理を務めていた副長のイーライを船長にするように命令すると共に、アキへ向け、自分の愛を告白した。極めて厚顔無恥、自己中心的なメッセージではあったが、あとにも先にも、自分が面と向かって彼女に愛していると口にしたのはあれが最初で最後だったのだと、リガルは思い出す。
アキは言った。自分が答えられるその時まで待っていてほしい、と。その時がいつになるかはわからないが、たとえそれが数十年でも待とう、と、リガルは自分自身に誓いを立てた。
なんと純朴で、幼く、簡潔な誓いだったことだろう。
だが、それは自分が心の底から望んでいた事ではなかったか。
「私は……最近、ようやく愛情というものが何だかわかってきた気がします」
今度は彼の目をまっすぐに見て、アキが言う。今度は目を逸らしたりせずに、リガルはアキの黄色がかったブラウンの瞳を見つめる。不意に彼女の口角が上がり、笑みを形作った。綺麗だ、とリガルは思った。
「ジュリーとフィリップの事はご存知でしょう? 二人は、いつもと変わらないようでいて、どこか深いつながりを持っているように感じさせます。本当に、いつも通りの他愛ない会話の随所に、お互いを愛していると確信できる個所が見受けられるんです」
「だけど、君自身はそれがどういうものなのか、未だに捉えきれていないということかな。愛するという行為、その感情が、君は心のどこかで納得できていない」
「はい。愛情とは不思議なもの、そうは思いませんか、リガル?」
AIは胸の前で両手を組み合わせると、祈りを捧げるシスターが如く、瞳を閉じた。それが、彼女が全身全霊で自分を感じようとしている仕草なのだと、リガルは悟る。
彼女が彼女と向き合う瞬間。これを目に出来る人間は自分だけなのだろうか。
「時に人を傷つけ、癒す。こんな感情は、他にはありません。嬉しいとか、悲しいとか、それらは愛情の結果として成立することがあります。全ての感情の基部に組み込まれているのが愛情なのでしょうか。それとも、それらを内包するものが愛情なのか」
「どちらでもないんじゃないか。少なくとも、本人にとっては。君は、細かすぎるところまで理解しようとする。素晴らしいとは思う。けれど、感情とは説明のつくものではなり得ない」
「あなたの言う通りかもしれません。ですが、私はこのやり方でしか、何かを理解する事は出来ません。そして、理解が出来ていないものが胸の内に湧き上がるのを感じた時、私がどれほど苦しくなるのか、リガル、あなたにわかりますか?」
何も言い返せないリガルへと、尚もアキは言った。今日の彼女は饒舌だ。どこか、感情の箍が外れてしまっているように、リガルには思えた。
「ジュリーとセシルは、私を純真だと、無垢だと言います」
「それは違う。君は、他人にそう思われるように振る舞っているだけだ」
「あなたは本当に私をよく理解していますね、リガル。ですが、全てを理解できてはいない。私は、それが寂しい。自分がどれほど横暴な物言いをしているかは、自覚しています。でも、私は怖いのです、リガル。人が怖い。宇宙が怖い。自分が無知である事が怖い」
ふと、リガルは何度か鼻をすするようにした。
微かにアルコールのにおいがする。自分は既にシャワーを浴びた身だ。となると、アキが酒を飲んだのだろう。飲まされたというべきか。情緒不安定なのはそれが原因だ。
「アキ。おまえ、酒を飲んだのか」
「ええ」
「ばか、それじゃ不安になるのもうなずける。こっちへ来い」
数瞬の間、彼女は迷っていたが、すぐに立ち上がった。彼女の細い背中に手を添えてベッドまで連れて行き、肩に両手を置いて座らせる。部屋の冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して彼女に与え、無理に一口飲ませた。生体端末である彼女が酔うなど、予想だにしていなかった。
いや、もしかしたら酔ってはいないのかもしれない。気疲れがあるのだろう、可哀想に。リガルは彼女の背中をさすり、そのままベッドで寝るよう、指示した。彼女は迷惑をかける訳にはいかないとつっぱねたが、しばらく押し問答を繰り返した挙句に観念し、タオルケットを被って静かにベッドの上に寝そべった。彼はといえば、携帯端末を開いて昨今のニュースをチェックし、髪の毛を乾かしに洗面所へと向かう。
(怖い、か。まったく予想外だった。彼女が怖がるものなんて、宇宙に無いと思っていたのに)
黒髪に温風を当てながら、リガルは思う。この巨大な船を支配下に置いているのは、彼ではなく、彼女のほうだ。そのアキが何かを怖いと感じるのは、容易に想像がつくものではなかったが、考えてみればわかり切った事だった。彼女は、何か形あるものには無類の強さを発揮するが、人間らしい内面の問題に対しては極めて繊細な精神を持っているのだ。自分はその清楚さに惹かれた筈なのに、見落とすとは。ずきりと胸の奥で痛むのは、良心の呵責か。それとも彼女に対する愛ゆえか。
自分は彼女を愛している。
彼女は、自分を愛しているようだ
だと言うのに、どこか釈然としないこの感情はなんなのだろう。
髭を剃って部屋に戻ると、既に瞳を閉じて寝息を立てている彼女の姿があった。リガルは、彼女が起きないように細心の注意を払いながらコンソールに付き、端末を起動する。キーボードを打つ手を静かに動かしながら、携帯端末で見ていたニュースの続きをチェックし始めた。
(彼女が朝帰りする明日は面倒なことになるな。セシルたちに言い訳を考えておかないと)
・アリオス歴一三二年 一二月三〇日 第五機動艦隊
よりにもよって大晦日を前にしたこの日、クライス・ハルト中将は追い続けた第六機動艦隊の痕跡を辿り、その動向がどうやらレイズ星間連合を目指しているであろうことを突き止めた。
多くの星系、宙域に連絡船を派遣し、偵察と共に情報収集を行う。この時、どの位置から発見報告が舞い込んでも迅速な動きが取れ、また、襲撃を受けた味方艦船へといつでも救援に駆けつける事の出来るように、第五機動艦隊は傷付いた第二機動艦隊と共に、それら偵察エリアから等距離にあるイワトと呼ばれる星系に駐留していた。
第二機動艦隊は、シナノ宙域会戦での激戦で、反旗を翻したムハンマド・アブ・サラーフ中将を相手に大きな損害を被った。今は、数としては四〇〇隻ほどに消耗し、多くの船が損傷している。保有する船の六〇パーセント以上が小破ないし中破しているという有り様だった。カリオス・エンテンベルク中将はシヴァ共和国国防宇宙軍へ船の修復を要請するために、近々シヴァ首都星系へと赴く予定だが、どこに敵艦隊が潜んでいるかわからず、今日まで第五機動艦隊と行動を共にしていたわけだった。
だが、敵艦隊の位置がおぼろげながら把握できた様だとクライス・ハルトが判断すると、エンテンベルクに艦隊離脱を提案した。しばらくの議論の末、第二機動艦隊は首都星系に予定通り後退する事に決定した。だが、戻ってくるのは第五機動艦隊のいる宙域ではなく、情勢を見て首都星系の防衛に回るか、出動したらしい第二管区艦隊の支援に回るかを選択することになった。
戦闘母艦アーレでは、膨大な情報がとめどなく中枢コンピューターへ送り込まれ、まとめ上げた物を情報部が吟味し、必要と思われる成分と概要をクライス・ハルトの下へ届けていた。それらの陣頭指揮を執っているのはシュトゥーマ・ライオット参謀長で、ハルトは専ら、艦隊の整備や弾薬の補給、これからどうするべきか行動方針の樹立、様々な事務処理に追われていた。総じて第五機動艦隊の士気は高いものの、このまま逃げ続ける敵を追いかければ、そのうちに辟易した将兵たちが毒をばら撒くだろう。そうすれば戦意は低まる。正に、それこそが敵の思うつぼなのだと理解してはいるものの、自分ではなく他人の問題なだけに如何ともし難い部分があった。
だが、それも今日で報われるかもしれない。情報部から送られてくる情報に目を通しながら、ハルトはコンソールを操作した。アーレの指揮官卓についている彼の目の前には既に二十近いホログラフが浮かんでいる。これらに目を通し、最新の問題には指示を与えて解決に導くのが、ここ数日の彼の主な仕事になっていた。
通信ボタンを叩いて、ライオットを呼び出す。彼は即座に四角いワイプ画面で現れ、見事な敬礼をした。
「ライオット、会議をする。出来る限り早く、戦隊長たちを集めてくれ」
「わかった。そうすると、恐らく二十分後になる。いいか?」
「頼む」
士官学校からの友人である彼が砕けた口調で言ってからきっかり十九分後、ハルトは巨大な会議室に集まった数多の戦隊長と、第五機動艦隊の首脳部、参謀連中を前にして立っていた。誰もが疲れた顔をしているが、その眼に宿る輝きはいささかも損なわれてはいない。
「始めよう」
ハルトの開会宣言に、誰もが背筋を伸ばした。
「まず、今の状況についてだ。これについてはライオット少将より説明してもらいたい」
「はい、閣下」ライオットは立ち上がり、手元にある端末を操作しながら、円卓の中央にある大型の立体映像投影装置に、シヴァ共和国領宙の三次元図を表示した。ゆっくりと反時計回りに回転するその宙域の、銀河系東方向にある部分が赤く強調表示される。
「ここが、我が第五機動艦隊と第二機動艦隊が位置している座標になる。両日中に第二機動艦隊は進発するが、それまでに第五機動艦隊も進出出来る様に準備してきたのは、諸君も知っての通りだ。他に、シナノ演習宙域から三光年の位置にあるタニ星系で、レイズ星間連合第一艦隊とシヴァ共和国第二管区艦隊がランデブー、レイズ星間連合方面へ移動を開始している事がわかっている。これらの部隊がシヴァからレイズへ続く宙域を警戒するとみられ、我々にジェイスの一党を討伐する任務が回って来た状態だ」
ここまでで質問はあるか、とライオットは問うた。誰しもが無言のまま見つめ返してくる。既に幾度も確認をした情報だが、司令部がどれ程現状を把握しているのかを示すために黙って聞いているに過ぎない。ライオットもそれはわかっていたので、間髪入れずに次の言葉を紡いだ。
「第一艦隊も第二管区艦隊も、本国からの命令に従って動いている。つまり、現時点において戦略機動性を如何なく発揮できる部隊は我々のみであり、ジェイスらを追い詰めるには機動性が何よりも重要だ。だが、つい先ごろまで、彼らの位置は特定できなかった。そのために後手に回り、果てない偵察活動に重視してきたわけだが、その努力が遂に報われる事となった。先だって、偵察を担った各艦には感謝したい」
それから、ライオットはレイズ星間連合方面、ややアルトロレス連邦側に寄った位置にある星系を強調表示した。オオシマ星系、と名前が表示され、シヴァ共和国の大きな領宙図からオオシメ星系の概略図が映し出される。それは、恒星の周囲を公転する巨大なガス惑星とテラフォーミングされた内惑星、その二つのみを有する侘しい星系である事を示していた。
「偵察に赴いた一隻が、この星系にジャンプしたところ、第六機動艦隊の存在を確認した。やはり、シナノ宙域会戦での傷がまだ癒えていないらしい。撤退時に相当の痛手を負わせたから、無理もない事だろう。ジェイスの二〇〇隻あった白い艦隊は姿を消しており、別行動を取っていると思われる」
「今のうちに各個撃破を狙い、これを攻撃、撃滅したい」
最後の言葉をハルトが引き取り、集まった面々は緊張した面持ちで唇を一文字に引き結んだ。
 




