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漆黒の戦機  作者: 夏木裕佑
第一章 「開戦は唐突に」
32/103

一三二年 七月三一日~

断章です。

まったく訳がわからないと思いますが、まあ舞台裏、反対側では何が起こっているのかについて、少し。

・アリオス暦一三二年 七月三一日 未確認宙域


数百年ぶりに息を吹き返した光速回路が起動すると同時に、それは目を覚ました。


およそ人間に知覚できる年月の中で最大のものともいえる一世紀の間を雌伏の時として過ごしたそれは、しかし、いつも通りの朝の目覚めと変わらないように思えた。回路はしばらくを自身の状態確認にのみ奔走し、その全ての機能に停止する以前に立てられた予想以上の損傷はないことを確認すると、改めて次の行動に移った。


とある施設、宇宙空間に人知れず輝くそれの中で、三つだけ用意されている、人間の成人が入れるほどの大きさのカプセルが開く。それは三つのうちの最後の一つで、残りの二つはかなり以前に解放されているらしく、いつの間にか埃が薄らと積もっているのが見て取れる。動き出した空調設備の空気がその埃を舞い上げ、吸引し、清浄化する。恐らく、それらにとっては必要のないことなのだろうが、形式と言うものはいつだって纏わりついてくるものなのだ。


三つ並んだうち、真ん中のそれが開ききると、裸の男性が横たわっているのが見えた。肌は青白く、髪は白金を溶かしたように白色に輝いている。濃い塩素濃度を持つ液体の上に浮かべられた身体が一度だけ大きく呼吸をし、大きく身体を振動させた。


男性は上体をゆっくりと起こし、立ち上がると、液体を滴らせつつ裸のまま部屋を出た。部屋の外にはすぐまた別の部屋が用意されており、六畳ほどの大きさのそこは眩い照明で白く照らされた世界だった。その中に、白い洗練された航宙服が地面にそのまま置いてあり、隣にはバスタオルが二つほどあった。男性はまずタオルを手に取ると、なれない仕草で何とか身体に付着している水分を吸い取り、それを部屋の隅へと放り投げると、どこからともなく伸びてきたアームがそれを回収して持ち去っていく。男性は、次に航宙服の着用に取り掛かり、たっぷり十分をかけて身支度を整えると、ひとつ深呼吸をしてから歩き出す。


瞳は閉じたままだった。


白髪に付着していた水分は、しっかりとタオルで拭き取ったので、服は濡れずに済んだ。


男性は誰もいない乾いた冷たい空気が百年間流され続けた通路を歩いていく。足取りは弱弱しくもしっかりしており、裸足のままひたひたと歩いていく。


やがて、ひとつのハッチに行き当たった。彼が近づいていくと、横開きの扉は自ら身を引いて道を譲った。その先は漆黒の闇に包まれた空間で、男性は目を閉じたまま入っていく。


部屋の入り口から十五歩ほど歩いて、男性は暗闇の中、立ち止まる。瞬間、眩いばかりの閃光が網膜を焼き、目の前の景色が浮かび上がった。


それは、巨大な格納庫だった。言いようによっては、宇宙港というべきだろう。目測ですら大きさを測りかねる巨艦の数々が眩しすぎる照明を受けて濃い影と反射光でくっくりとした陰影を作り出し、まるで古代地球の神殿のような趣さえ漂わせていた。


そうして、男性の目が開く。


その瞳は、やや黄色がかった色をしており、やや長めの髪の毛は色をなくしたように白く染まりきって、端正な口元に壮絶な笑みが浮かんだ。


「一〇一年と二三六日。随分と待たされたものだ」


男は低く、乾いた笑い声を漏らすと、誰もいない空間を、途方もない大きさを誇る巨艦へ向かって歩き始めた。



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