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漆黒の戦機  作者: 夏木裕佑
第一章 「開戦は唐突に」
24/103

一三二年 六月二〇日~

改めて、私の書いてるこのジャンルが少ないなと自覚しました。

私自身、この作品からしてマイナーもいいところだな、と思いますが、どうでしょうかね?この作品を読んでくださる皆様にはSF好きな方が結構いるのではないかと思いますが……

話がそれました。どうぞ、今回もお楽しみください。

・アリオス暦一三二年 六月二〇日 正規軍第三艦隊




先の戦いでバデッサを送り出したときと同じように、アステナはリオの第二分艦隊のことが気がかりでならなかった。


別段、信用していないわけではなく、むしろその反対なのだが、戦場で不測の事態というものは常に起こり得る物だ。いくら心配しても足りないし、心配しすぎることはない。これは自分でも悪い癖だとわかっているのだが、どうにも落ち着かない気分となるのだった。


「第二分艦隊が心配ですか?」


気が付くと、アステナの隣にはバルトロメオが立っていた。アステナ以外には聞き取れないほど小さな声だ。アステナは回りに気づかれたことに焦り、手元のコンソールに表示されている第二分艦隊のデータが表示された画面を反射的に消すと、アステナは咳払いした。


「なんのことだ?」


参謀長は一瞬だけ微笑むと、眼鏡をかけなおしながら言った。


「誤魔化しても無駄ですよ、閣下。第二分艦隊のリオ大佐は大変優秀な人物です。任せておけば、まず失敗することはないでしょう。大佐なら、期待を上回る働きをしてくれるはずです」


「ああ、いや、うん。解ってはいるんだ。だけど、な」


何も返してこないバルトロメオをちらりと見ると、驚いたことに、気難しい参謀長はまたもや柔らかい笑みを浮かべていた。


彼は気まずそうに視線を逸らして真面目な表情になると、何を話しているのかと気になってこちらを見ている兵士達に厳しい一瞥を送り、野犬を追い払うかのごとく彼らの視線を逸らさせた。


「閣下、私は、閣下のそういうところがいいと思いますが、今は任務の最中です。信頼できる部下は信頼してやるのが、指揮官の仕事ですよ」


言うまでもないと思いますが、とはバルトロメオは付け加えなかった。この若い司令官は確かに優秀で、指揮官としては間違いなく天才の部類に入るが、若さゆえにこういった老練していない場面が見受けられる。もう少し、腰を落ち着けて構えてもらいたいものだった。


その言葉に対し、アステナは両手で顔を擦った。


「ああ、解った。今は任務に集中する。それで、参謀長。他にも何かあるんだろ?」


「ええ。実は、アクトウェイのことで少し解りまして」


興味深い話題に、アステナは思わず参謀長の顔を正面から見つめた。


「何が解ったんだ?」


「それが、解らないことが解ったんです」


意味のわからない言葉を吐くと、バルトロメオの後ろからラディスが近付いてきた。バルトロメオは一瞬目玉をぐるりと回してから、溜息をついてラディスに振り返った。


ラディスは小さく纏められた敬礼をする。アステナとバルトロメオが軽く答礼すると、アステナは彼を見た。


「どういうことだ、中佐?」


アステナが好奇心を抑えきれずに問うと、彼は淡々と答えた。


「司令官、アクトウェイの事は、かなり前に本部宛に調査依頼を出していたんです。その結果が先程、届きました」


「その結果は?」


「凄いですよ。アクトウェイは、同じA級巡洋艦クラスの船の中では、バレンティアの重巡洋艦と同等の性能を有しています。エネルギー出力など詳細な部分はわかりませんが、今までの戦闘データ、とりわけ、先日の戦いで見せたアクトウェイの動きは驚嘆すべきものがあります。ご存知でしたか?アクトウェイは、敵陣形の中を進む間に十数発のエネルギービームと、数発のミサイルの直撃を受けましたが、損害は皆無です。さらに、通過の際に数隻の敵艦を破壊しています。データを渡したら、調査部の連中は酷く驚いていたようですよ。こんな船は見たことが無い、とね」


アステナが眉を吊り上げると、ラディスは楽しそうに笑みを作った。それを嗜めるように咳をしながら、バルトロメオが語を継ぐ。


「さらに言えば、あの切れ者の船長が居ることが大きいですな。ここ数ヶ月の実績は、並のノーマッドの比ではありません。それと、各部署の担当の人間も何人かいるようですが、彼らも相当な腕前を持っていると考えて良いでしょう」


そこで、バルトロメオはアステナの向こう側で忙しく仕事をしている、旗艦ハレー艦長のブルックリン大佐に目を留めると、声をかけた。


「艦長、少し聞きたいことがあるんだが」


コンソールを操作する手をピタリと止めて、ブルックリンは顔だけをバルトロメオに向ける。やや生えている口ひげをさすりながら、彼は気楽な様子で答えた。


「なんだい、参謀長」


ここで驚くべきは、彼ら二人が同期であるという事実だ。二人とも駆逐艦の艦長から始まって、途中からブルックリンは戦艦の艦長に、バルトロメオは統合参謀本部へと栄転し、今の奇妙な関係を構築しているのだった。


「艦長の見解でいい。リガル船長のような人物をどう思う?」


意外な質問に驚いたのか、ブルックリンはふむ、と声を漏らして考え込んだ。


「アクトウェイの船長か?」


「うむ、まさしく」


「そうだな………同じ宇宙で船を操る人間としては、彼のことを尊敬する。若くして大した度胸と腕前だ。悔しいが、俺が本気を出しても勝てるかどうか解らないな」


二人の参謀がアステナを見ると、アステナはふざけたように肩をすくめて見せた。


「成る程。じゃあ、どう呼ぶ?”今世紀のジェームス・ストラコビッチ”とでも呼ぶか?それとも”レイズにあらわれたニューヒーロー”か?」


ラディスとバルトロメオが顔を見合わせる。同時に、二人の参謀のうち若い方が肩をすくめた。


「閣下、我々が見たのはリガル船長の才能のほんの一部に過ぎないのかも知れません。もしかしたら―――」


「中佐、それ以上は無用だ」


バルトロメオに止められて、ラディスははっとしたように気をつけの姿勢をとった。


「イエス・サー、参謀長」


その時、不意に眠気を感じてアステナは再び顔を擦った。それを見たバルトロメオが気遣わしげな視線を司令官に向ける。どう見ても、アステナは疲れていた。


「少しお休みになられてはいかがですか?第二分艦隊が接敵するまで、まだ大分時間があります」


アステナは反論しようとしたものの、自分の今の状態に気づいたのか、渋々頷いた。


「うん………そうしておく。何かあったら知らせてくれ。艦長、後を任せる」


「了解しました、閣下」


三人の敬礼に合わせて答礼しながら、アステナは艦橋の一番後ろにあるハッチから外に出た。ハッチのやや前方にあるエレベーターへと乗り込み、二つ下のフロアへと降り立つと、兵士達の休んでいる休憩所や食堂に顔を出して軽い話をしながら徐々に自室へと近付いていき、やがて普通の間取りの自分の部屋へと辿り着いたころには、アステナの眠気は限界に達していた。


自室の中に入って、軍服の上着を脱ぎ捨ててそのままベッドの中へと潜り込む。というよりは、倒れこんでいた。


眠りに落ちるまでの数分間で、アステナは思考を巡らせる。


ここに来て、アクトウェイとそのクルーの重要性は、それほど高いわけでもない。しかし、アクトウェイは誰の目にも明らかなほどに活躍をしている。何も第三艦隊に合流してからの話ではなく、その前のM二二三宙域での海賊討伐でも、極めて高い戦闘力を示して見せた。

そうして、艦橋でも言った様に、ジェームス・ストラコビッチも初陣は海賊討伐だったと聞いている。

ならば、今の時代ではバレンティアと銀河連合の反対勢力が星間大戦を起こし、それをリガル船長が平定?


「まさかな」


自分の想像力に舌を巻きつつ、眠りに落ちる最後の一瞬。


どうにも嫌な予感が脳裏をよぎり、アステナはその日、悪夢を見た。






・アリオス暦一三二年 六月二一日 大型巡洋船アクトウェイ


「作戦が決まりました」


キャロッサの製作した絶品ハンバーガーを片手に持って、リガルは画面の中のリオ大佐の顔を見つめた。


つい先日通信してから、十二時間ばかりが経過している。リオは口調も様子も変わらないまま、ただその目の隈だけを増やして通信して来ていた。今はアクトウェイは昼食の時間で、キャロッサが忙しく仕事を続けるリガルたちを気遣って、片手で食べれるように昼食はパン類にしてくれたのだ。

リガルは口元のケチャップをナプキンで拭ってから、手に持っているハンバーガーを名残惜しそうに置いた。


「リガル船長、アクトウェイには少し、戦闘の矢面に立ってもらうことになります」


その言葉を聴いて、リガルはリオが自分と同じ作戦を思いついたのだと確信した。


彼はそのまま頷いたが、リオの視線が先程まで映っていたハンバーガーを捉えていたので、やはり軍での食事は不味いのだろうか、などといらぬことを考えた。


「側面からの攻撃ですね?大佐」


リオは驚いたようだった。それもそうだろう、軍での通信等アクトウェイは傍受していないし、リオが先程まで開いていた第二分艦隊の艦長同士での作戦会議の内容等、リガルが知りよう筈もなかったからだ。


彼がそれを言い当てたのは、一重にリガルの戦術的観察眼がとてつもなく優れているからに他ならない。


「ええ、そうですが……予測していらっしゃったので?」


ようやくそれだけ搾り出すように言うと、リガルは別段得意になる様子もなく頷いた。むしろ退屈するような表情だ。


「まあ。今取りうる作戦では、これが最高のものでしょうから」


大佐から射込まれる好奇の視線をまともに受けながら、リガルは何とか目を逸らしそうになるのを堪えた。


こんな状況で期待されるのは御免だ。それがたとえ、神様相手であったとしても。


リオはそんな彼の心配など知らずに続けた。


「なら話は早いですね。敵のレーダーが使えなくなる周期が解りました。それを第三番惑星の自転周期と示し合わせた結果、どうやら、敵は長距離用のフェイズド・アレイ・レーダーの類を一箇所に集中配置しているようです」


「成る程。だから、レーダーが一定の時間で惑星の裏側へ回り、使用不能になっていたわけですね?」


リオは首肯する。


「その通り。といっても、敵のレーダーが使用不能になるのはせいぜい六時間です。そこで、我々は部隊を二つに分けます」


リオがコンソールを操作すると、彼女の映っている画面のほかにもう一つ画面が浮かび上がり、第三番惑星と、それに近付いていく第二分艦隊の軌道ベクトルが表示されている。第三番惑星からは、惑星を中心にレーダーの索的範囲が立体表示され、それはゆっくりと惑星の時点に合わせて回転していた。そのかなり手前の位置に第二分艦隊とアクトウェイのアイコンが浮かんでおり、そこからかなり遠くに離れた位置には、アステナ准将の率いる第一・第三分艦隊が敵の巡航艦隊へと向けて前進している。


リオはさらに映像を切り替えると、第二分艦隊の細かい配置の図が表示された。


「まず、戦艦と重巡洋艦を中心に編成した機甲部隊を正面から接近させ、残りの軽巡洋艦と駆逐艦の機動部隊を、レーダーの索敵圏外を通るように接近させます」


軌道ベクトルが二つに分かれ、一方は惑星から伸びている色付けされた空間へと飛び込んで惑星地表を攻撃し、残りの小さな部隊は、色付けされていない範囲を潜り抜けていき、別の地点にある惑星地表の輝く一点を攻撃した。これは敵のレーダーであると考えられるが、彼女はここを攻撃するといわなかった。きっと敵の部隊が防衛行動に出ると予測しているのだろう。その点については、リガルには異論がなかった。


「アクトウェイには、こちらの機動部隊に参加していただきます」


そこで、リオは申し訳無さそうな表情でリガルを見つめた。今更何を思うのか、とリガルの胸中に皮肉がよぎるが、勿論言葉にも顔にも出すことはなく、ただ無表情で彼女を見つめた。


「情けない話ですが、我々にはもう余分な船は残っていないのです、船長。本当は、民間人である貴方を戦闘に巻き込むこと自体が遺憾なのですが……」


リオは無表情のまま話す。それがハッタリなどではなく、リオの本心からの言葉だと確信できるほど、口調は重々しかった。


「解っています、大佐。その任務、引き受けました」


既にこの通信は、アキの秘匿プログラムによって、大佐に気付かれないようにクルー達の画面に転送されている。セシルたちがハンバーガーをかじりながら、来るべき戦闘に備えて準備を始めるのを感じて、リガルは少し緊張した。最早クルー達の間でこの任務を引き受けることは話し合っていることなので、リガルは即答したのであるが、実際に戦闘に参加するということになると緊張感を覚えずにはいられない。


対照的に、リオは安心した表情を作った。これも彼女の話術なのだろうか?軍人がこんなに表情豊かだなんて、聞いたことがない。


それとも、民間人相手ならこんなにも朗らかになるのだろうか?俺たちにだけだろうか?


「有難うございます、船長。敵のレーダーに気付かれないように、軽巡洋艦と駆逐艦をそちら側に寄せます。次の索敵レーダーが無効になった時点で、急加速をしてください。指揮はライド中佐の軽巡洋艦、ビンソンに任せてあります」


「了解しました。それでは」


リオの映像を消すと、珍しくアキが近付いてきた。それに気づいて、リガルは後ろを振り返った。

彼女の短い白髪と黄色がかった瞳には慣れっこだったが、ここに来てリガルは違和感を覚えた。何に対してかはわからないが、無意識のうちにそれを探しながら返事をする。


「どうした?」


薄い黄色の瞳を真っ直ぐに向けられて、思わずリガルはどきりとしたが、アキはそれに気付くことなく話し始めた。いや、気づいていたのかもしれないが、少なくとも表面上は気づかない態で話した。


「船長、この状況は矛盾に溢れています」


「なんだって?」


予想外のアキの進言に、思わずリガルは聞き返してしまった。


「矛盾なんて宇宙のどこにもあると思うが、どういう意味だ?」


「率直に申しますと、バルハザールの戦術指南書にも、レイズ星間連合宇宙軍の指南書にも、こんなレーダーの設置の仕方は載っていません。どう考えても、これは罠です」


重要な話題と言うことが解ると、リガルは座席をアキのほうへ向けた。セシルらも興味を持ったのか、半ば椅子をこちらに向けて会話の成り行きを耳をそばだてて聞いている。キャロッサに至っては、各人のコーヒーを入れ替えながらちらりとこちらを見てくる。


リガルはアキに注意を戻した。


「それは俺も考えたよ。だけど、敵にとってこちらの位置が窺い知れないというのは変わらない事実だ。現実に、第二番惑星軌道上の艦隊からもなんの通信も来ていないし、その兆候もない。向こう側に機動部隊が居れば別だが、地上の防衛設備だけで艦隊を迎撃するなど、正気の沙汰じゃない。敵の部隊もいるだろうが、それも少数で悪阻るるにたら無いだろう」


アキは負けじと反論した。


「ですが、威力はあります。地表の防衛設備は航宙艦のそれと違って大型ですし、当たれば確実に致命傷となります。連射はできませんが、油断した艦隊が近付いてきたら……それに、敵の部隊が少数でも、地上兵器の射撃を助ける役割ぐらいは十分果たせるではありませんか」


アキのいわんとしていることを理解して、リガルは頭を殴られたような気になった。


「命中精度の悪い兵器でも、運用の仕方と部隊の連携次第で化ける、ということか」


アキは頷いた。その表情にはどんな感情もうかがい知ることはできない。


「そういうことです。確かに、それぞれの脅威レベルはそれほど高くはありません。ですが、全てガ有機的に動き機能すると仮定すると、決して侮るべきではありません。違いますか?」


ふむ、と顎を押さえて考え込むリガル。彼女の理論には欠点がないように思えた。そもそも戦いにおいて敵の力を小さく見積もるなど、船のクルー達の命を粗末にすることと何が違うのだろうか。リガルは改めてアキの正しさを認め、自分の愚かさを恥じた。


そこで思いついた。


「アキ、こういうのは専門家に相談するのが一番だ。イーライ」


砲雷長がこちらを振り向くと、リガルは事情を説明した。話を聴いている間、イーライは先程のリガルと同じように、顎を押さえてじっと話を聴いている。


「ありえますね」


遂に、彼はそういった。


「惑星上の対宙兵装は、起動時間は解りませんが、その戦術を取るのは十分可能だと思われます。スキャンできるとはいえ、起動していない設備を探知するのは不可能ですし、それに気付いた時にはもう遅い、ということも有得ますね」


「作戦を変更すべきだろうか?」


イーライは即座に答えた。


「その必要はありません。予め、惑星に接近した時点でデコイをばら撒けばいいんです。そうすれば敵は、我々がいきなり計測不可能なほど大量に出現したとしか見えないはずですし、デコイの位置を正確に決めておけば、確実に混乱するはずです。反対に、敵はダミーの用意のしようがありません。こちらは予め、全ての防衛施設を確認することができますし、近付いていくうちにダミーかどうかは簡単に見分けがつくでしょう」


「だ、そうだ、アキ」


それでも、アキは納得がいかないようであった。視線を中に泳がし、眉に皺を寄せて考え込んでいる。

彼女がここまで人間的な動作を学習できるとは、正直なところリガルにも予測できていなかった。それなりに人らしくなっていくだろうとは思っていたが、生体端末に入ってから予想を上回る学習力を見せるアキに、リガルは時々戸惑いを覚える。


もし機械が人間に取って代わる日が来たら、それはどんなに美しく、奇跡的で、凄惨なものになるのだろうか、と。


「それでも……解せません」


AIは言った。


「何かが引っかかります、船長。このままでは、分艦隊もろともやられてしまうかもしれません」


余りにもしつこく食い下がるアキに、流石のリガルとイーライも違和感を感じた。リガルは、頭に浮かんだある可能性を思いつき、椅子を半回転させてセシルへと顔を向けた。


「セシル、惑星周辺に船が隠れられそうな地域はあるか?それだけでなく、少しでも人工物の可能性がある物体の探査も行ってくれ」


「了解です」


セシルは戸惑いつつも命令を受諾し、周辺を探査し始めた。


「船長、何か思いついたんですか?」


イーライの言葉に、リガルは頷く。手元のコンソールを左手で操作して、思い出したように傍に置いてあるトレーのハンバーガーを右手に掴み、食事を再開する。


コンソールの上部に、星系の内部を映すホログラフが現れ、第三番惑星とその周辺が拡大された。


「敵の惑星上にレーダーが一箇所にしか集中配置されていない。その事実に対して、どんな側面があるのか、と考えただけだ。いいか、イーライ、アキ、これはただの推測に過ぎないが、惑星自体が囮なのかもしれない」


その言葉に、二人はリガルを挟んで顔を見合わせる。


「しかし、どのような狙いで?どういう意味があるのですか?」


リガルはさらにコンソールを操作して、惑星防衛設備の位置を示した。軌道上に数多くある迎撃衛星が、まるでシールドのように星を囲んでいる。


が、その配置は時として局所的で、全てを覆うようにはできていない。そもそも数が足りなさすぎるし、衛星の攻撃範囲も限られている。衛星があるのは、バルハザール宇宙軍の増設したものと思われる、元々レイズ星間連合が使用していた採掘宇宙港を拡大改良した宇宙港の上空と、時折見られる軍事活動の兆候の真上だった。


「ああ、これを見て疑問が確信に変わった。アキ、お前の言うとおりだ。この惑星は不自然すぎる。通常、無人の防衛衛星でも、長距離のレーダーは搭載されていてしかるべきだ。だが、敵がこちらを見つけるために放つレーダー波は、全てが地上のレーダーからのみ発せられている。衛星からの発信は必要最低限だ。俺があの惑星の防衛部隊の指揮官なら、少しでも持ちこたえられるように、また、レーダーの死角を補う為に、衛星のレーダーも使用しようとするだろう」


イーライがはっとして顔を上げた。


「近付くのを容易にしている、と言うわけですね」


リガルは頷いた。どこかつまらなさそうだ。


「そういうことだ。我々は、あの惑星にばかり集中して、様々な疑問を吟味するあまり他の部分に対する注意を逸らされていたんだ。きっと―――」


「船長、第三番惑星の後方に、微弱な人工物体の反応有り。極めて弱い反応の為、ここまで近付くまで解りませんでしたが、惑星の裏に何かあるようです」


間にセシルの驚きの色が混じった報告が入り、艦橋の面々がリガルを見た。


当の本人は、それらの視線を軽く受け止めて肩をすくめるだけだった。


「よし。これで確定だ。敵は、こちらが惑星に近付くのを待ってから、裏に隠してある機動部隊でこちらを叩くつもりだろう」


「ちょっと待ってください。それなら、どうして先行している本隊からその連絡がないんですか?惑星の裏に機動部隊が待機しているなら、すぐに解るはずです」


イーライの尤もな疑問に、リガルは即答した。


「それは防衛衛星があるからだよ、砲雷長。惑星の一箇所にレーダーを集中し、防衛衛星は満遍なく分布させる……その中に、敵の軍用艦が混じっているに違いない。簡単な偽装を施せば、長距離レーダーでは衛星とほとんど見分けが付かないからな」


それを聞いて、今まで黙り込んでいたアキが唐突に口を開いた。


「船長、そうなると、敵は………」


リガルは頷く。険しい表情だ。


「うん。これはよく考えられた戦術だ。敵の指揮官は、軍の中でも一、二を争う切れ者に違いない」


言いつつ、リガルは忙しくコンソールを叩いてリオ大佐への直通回線を開いた。


凶報はリオを再び驚かせたが、今度は彼女は顔を顰めて見せた。


「船長、率直な話として、それにどれほどの信憑性があると思われますか?」


リガルは馬鹿みたいに褒められて嬉しいタイプではないし、自分を過大評価する人格でもなかったので、率直な意見をリオにぶつけた。


「五分五分でしょう。今の話は、可能性の一つとして大佐にお話したにすぎません。確証があるわけじゃありませんから」


リオは短く笑いを漏らした。今度はリガルが驚き、彼女は咳払いをしながら笑いを誤魔化した。


「すみません。船長がそれほど素直だとは思いませんでしたので」


「どういう意味でしょうか?」


半ば本気で聞くと、彼女ははぐらかした。


「ご想像にお任せします。ところで船長、私としては貴方のお話を信じたいと思います。こちらも、艦

長たちと話して検討してみますが、ほぼ貴方の言うとおりでしょう」


「どうして解るんです?先程も言いましたが、確証が無いんですよ」


軍のお堅い軍人がそんなものでいいのですか、とは言わずにおいた。


「船長、軍人でも柔軟な思考を持つ人物はいるものです」


それを見透かしたようにリオがいって、リガルは赤面した。明らかに彼女を侮辱してしまったことは否めない。


「申し訳ありません、大佐。そのようなつもりではありませんでした」


「構いませんよ。どちらにしろ、そういうのが軍人のイメージとして定着しているのは仕方のないことですから」


そして、民主主義の軍隊とは貴方がた民間人のために存在しているのです、と言い残して、リオは通信を切った。


リガルは背もたれに見を預けると、手に握っているハンバーガーのお替りをキャロッサに頼んだ。


どうだったでしょうか。いつもの通り、何かご意見・ご感想顔ありでしたら是非お願いいたします。

また、勝手にランキングのほうもワンクリック、よろしくお願いいたします。

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