一三二年 六月一日~ ①
戦闘の続きです。
感想、意見、評価なんかもらえると嬉しいです。
また、アップする頻度を上げるとかいってこの始末………お許しください。
今の第三艦隊は、バルサザールに空母の存在が確認できていなかった為、また、レイズ側がすぐに空母を用意できなかった為に、対空戦闘の要である戦闘機部隊は皆無であった。それぞれの艦にも重武装の対空兵器が搭載されてはいるものの、アステナの経験からしてそれを管理統制するFCSが揃っていない第三艦隊は、その本来の性能を引き出すことはできないだろう。
機甲艦隊中心の第三艦隊が抱える、唯一の欠点だった。
「くそ、何かないのか?」
小声で呟き、顎を押さえて考え込む。だが、今の艦隊には指揮統制できるFCSは無いし、戦闘機は確実に迫ってきている。このままでは数分と持たないだろう。機動力の高い戦闘機は大型艦と違って質量が少ない為に速度はあまり出ないので、それがアステナに僅かながらの時間を与えた。
改めて艦隊の全てのデータを呼び出し、ありとあらゆる角度で方法を模索してみるが、中央コンピューターも何も打開方法は無いらしい。どの提案も、対空砲を撃ちまくるべし、と告げているだけだ。
打つ手無し。そう思われたその時、アステナのコンソールに通信が入ったことを知らせるアイコンが煌いた。
反射的に指を動かして画面を呼び出すと、あの民間船の船長が映る。
少し驚いた。
「准将、提案があります」
「リガル船長、悪いがこれは軍の任務だ。民間の船長は―――」
が、リガルは無理矢理話し始めた。切迫したその語調に、アステナも思わず押し黙る。
「アクトウェイのFCSを、艦隊の防空ネットワークへと接続させてください。アクトウェイなら指揮統制が出来ます」
その言葉にまるで頭を思いっきり殴られたかのような衝撃と共に、アステナの心に一筋の光が差した。
時計を見る。
敵戦闘機の来襲まで、後二分。
「船長、どの位で出来る?」
しがみつくようにコンソールを握り締め、アステナは自分の額を汗が流れるのを感じながら問うた。こうなれば民間の船だろうがなんだろうが、仲間を守る為なら何でもやってやる。
そんなアステナの様子とは打って変わって、リガルは落ち着いた調子になって言った。
「一分もあれば。よろしいですか?」
「是非、頼む」
「了解しました。すぐに始めます」
きびきびとした様子で答えた船長は、最後にお辞儀をして姿を消した。
アステナは怒鳴る。
「オペレーター、艦隊の防空システムにアクトウェイが接続できるようにしろ!」
オペレーターがぎょっとして振り返った。
「閣下、民間人へのアクセス権は軍の規定で禁止されていて、それを破った士官は―――」
再び、アステナの怒声が響きわたる。
「いいからやれ!アクトウェイがアクセスする際に障害となるセキュリティは全て解除しろ!急げ!!」
尾に火の点いた鼠のように素早く、オペレーターが作業を開始する。
間もなくして、全ての船の対空砲門が開いた。それらが別々の方向に向き、アステナでさえ溜息をつくほどの美しい対空防衛網が整うと、すぐにレールガンが発砲を開始する。
雨のように敵の戦闘機部隊へと向けられた弾丸の数は数十万を超えた。秒速数百キロ以上で肉薄してくる死の壁に、間違いなく戦闘機部隊は虚を突かれている。やはり敵部隊もこちらがここまで濃密で効果的な対空砲火を粉得るとは思っても見なかったようだ。編隊ごとに散り散りになった敵部隊は、それぞれが独断で回避行動をとり、その間に巨大な津波のようなレールガンの壁が敵部隊を粉々に打ち砕いた。
およそ半数の敵の戦闘機部隊が撃墜されると、尚も接近してくる敵部隊へ向けて、分艦隊毎の細かいレールガンの斉射が行われる。エネルギービームの間を縫うように飛んでいくレールガンの弾丸の雨はさらに敵部隊を減らし、いよいよ敵は方向転換を始めた。
その驚くべき戦果に、誰しもが息を呑んだ。
間違いなく、アクトウェイのFCSのそれは、レイズ星間連合宇宙軍が正式採用しているものの数十年先を行っていると思われたからだ。いくら対空砲の精度が上がっても、ここまでの効果を上げられるシステムは、恐らくどこの国も所有していないだろう。
「なんということだ」
この際、全ての砲術管制をアクトウェイに任せたほうがいいのではないか。そんな事が頭に浮かぶほどの能力を、アクトウェイは持っていた。
だが、今はそんな事を考えている余裕は無い。今の不意打ちで、こちらの陣形も僅かに乱れている。
即座に通信ボタンを押した。
「うろたえるな。敵の機動戦力は排除した。陣形を立て直せ」
「閣下、よろしいでしょうか」
目に狼狽の色を浮かべたバルトロメオが話しかけてくるが、アステナはそれを片手で制した。彼の心配していることは明らかであるが故に。
「参謀長、その話は後だ。まだ気は抜けない」
「了解しました」
息を吹き返した第三艦隊が再び苛烈な砲撃を開始する。濃密な破壊の波が、バルハザール艦隊を瞬く間に撃破していく。一発逆転の機会を逃した敵艦隊は、何とか秩序を保って後退し、ワープアウトを試みているが、それは失敗に終わることが確定している。
改めて、今が止めを刺すときだ。
「第一分艦隊の各艦に告ぐ。ミサイル発射。繰り返す、ミサイル発射」
連携の取れたタイミングで、中央に位置する第一分艦隊がミサイルを斉射する。
残っていた数隻の巡洋艦と駆逐艦がそれで撃沈されると、艦橋のあちこちから溜息が漏れた。
「敵艦隊、全滅」
オペレーターの声が響き、アステナは第一級戦闘配置解除のために、再び肘掛の通信ボタンへと手を伸ばした。
その時だった。
・アリオス暦一三二年 六月一日 大型巡洋船アクトウェイ
「カプライザ星系方面より、巨大なワープアウト反応!」
セシルがそう叫んだとき、既に時空間が歪み始め、アクトウェイの目の前に位置しているワーポイントの周辺が奇妙なダンスを踊り始めた。向こう側の星の光が歪曲され、様々な幾何学的な模様を描いたかと思うと、突如として収まる。
そこには、新たに増えた星の集団があった。
いや、星ではない。新たに増えたバルハザール航宙軍のものと思われる船団が、アクトウェイとレイズ第三艦隊の正面に突如として出現していた。
アクトウェイの警報が艦橋と艦内にけたたましく響き渡り、同時にフィリップは防御シールドの強度を少しだけ調節する。イーライは急いで砲門を全開にして、セシルはレーダーの最適感度距離を僅かに調節した。そして冷静な声で告げる。
「敵の増援艦隊、ワープアウト。数、およそ一二〇」
「くそ、これが狙いか」
思わず、リガルは吐き捨てるようにそう呟く。
敵の真の狙いは、少数の艦隊を利用して奇襲攻撃を仕掛け、恐らくはそれで狼狽した第三艦隊を打ち砕くことだったに違いない。だが、予想していたよりも第三艦隊の防空網が強力で、不意打ちで効果が上げられなかったがために、このような結果になったのだろう。これは敵のみならず、第三艦隊自身も驚く結果に違いないが、それを今噛み締めている時間は無い。今は早急に崩れ始めた陣形を立て直して迎撃準備を整えることが先決だ。
そして、これは十分危険な状態だ。目の前のコンソールを操作して、第三艦隊の今の布陣を見てみる。
アステナと名乗ったあの司令官は、中々の腕前を持った指揮官のようだ。三つに小さく分けられた分艦隊が、三方向から目の前に現れた増援艦隊に対して、即座に戦艦と重巡洋艦による壁を作って時間を稼ぎつつ、開いた穴を駆逐艦と軽巡洋艦で塞いでそのまま陣形を後退させている。勢いに乗った敵を相手に正面から撃ち合うのは危険だと解っているが上の行動だ。リガルが指揮官でも同じ行動をとっていただろう。冷静沈着で堅実な用兵が、あのアステナという司令官の特色であるようだ。
「どうします、船長」
聞いてきたのはイーライだった。リガルも考えてはいるが、所詮アクトウェイは一隻の船でしかない。大艦隊同士の戦闘に加われば、指揮系統からも外れた存在である以上、混乱して巻き添えを食らうのが関の山だ。単独でこなせる任務は多々あるが、今はそういった個艦戦闘能力が必要な局面ではない。少なくとも、単艦で動くのは自殺行為といえる。
取りあえず、手元に固定されている珈琲を手にとって口に運んだ。
「どうしようもない。今のところ、一隻で戦局を変えることも出来ないからな。今はあのアステナ准将の手腕に期待して待つしかない」
「それはそうですが、何か無いのでしょうか?ここで見ているだけとは……」
唇を噛むイーライからあることに思いついてフィリップを見ると、彼も同じように悔しそうな表情を浮かべている。確か、この二人は元軍人だったはずだ。そう思い当たって、リガルは知らないうちに声に出していた。
「”軍人の絆”、というやつか?」
イーライは頷いた。フィリップは、どこか遠い目で目の前の戦闘を眺めている。
「まあ、そんなものです。俺達軍人ってのは民間人とは遠い世界に住む人間ですから、それだけ仲間意識が強い。他の軍隊の人間であっても、伝統的な摩擦とか偏見とか、そういう阻害要因が無ければ同情もします。戦場という場所は過酷であると同時に、感覚や感傷を他人と共有できる数少ない場所なんです」
イーライの話を聞きながら、リガルは思った。
これだけの無限の広さをもつ宇宙、その中の銀河系と言うひとつの世界に住む我々は、その虚無を克服する為に、同じ仲間を求めるのだろうか、と。
その時、ある作戦が思いつき、リガルは戦術情報を呼び出した。第三艦隊が使用しているものではないが、アキとセシルが収集した情報はかなりの高精度の推測も織り交ぜた素晴らしいものだ。通常の民間船のAIは限定的な動作しかしないために今回のような場面では軍用・民間用を問わず、アキのような半独立人格を与えられたAIの方がより優れている場面もあるのである。その情報によれば、リガルの思いついた作戦は有効な様であった。念のため、中央コンピューターに作戦案を提示して検討させたところ、それなりの成功率があることが解った。
それから素早く中身を見直して内容を確認すると、リガルは目の前で炸裂する光の爆発は見ないようにして声を上げた。
「よし。皆、これを見てくれ」
言うと、リガルはコンソールの上に浮かぶ一つのファイルデータを、艦橋の全天スクリーンへと投げて投影表示し、巨大な図を示しながら順を追って説明し始めた。
「敵艦隊は、第三艦隊の正面から突撃を開始している。標準的な弾丸陣形で、規模は第三艦隊に劣るものの、その士気は高い。一方、第三艦隊は先の奇襲でうろたえている。新進気鋭な敵艦隊と戦闘の疲労が蓄積している我が方とでは、当然、このままでは第三艦隊は崩壊するだろう。
そこで、だ。アクトウェイはこれより、敵艦隊の側面に回り込み、そこから最高火力で砲撃を開始する」
クルー達が、互いの目を見て短いアイコンタクトをした。恐らく、「うちの船長は頭がおかしくなったのか?」と言い合ったに違いない。なんせ、先程はそんな事は論外だと言い捨てたばかりなのだし、そのリガルの見解について皆納得していたからだ。
「どういう根拠で?そんなのは正気じゃないぜ、船長」
油断ならない視線でフィリップが言う。彼はこの船の機関長であると同時に、実はリガルと同じくらい重要な役割を果たしているクルーだ。今ではかなりの働きを見せているアクトウェイも、機関から出力される膨大なパワーが安定供給されてこそ力を発揮できるのであって、彼がいなければ今日のアクトウェイはありえないだろう。
それに、リガルは確かな礼節を以って淡々と答えた。
「尤もな意見だ。理由は二つある」
指を一本立てる。
「一つ、敵艦隊の構成している船のほとんどは駆逐艦と軽巡洋艦で、どこからどう見ても機動攻撃型の機動部隊であり、それだけ内部に食い込んできた敵に対しては水準以下の防御力しか持っていないことが上げられる。こうした敵は接近戦に強い固定観念があるが、防御力と言う観念でいえばアクトウェイよりも何割か低い。つまり、至近距離での側面からの攻撃には弱いんだ」
もう一つ、指を立てる。
「二つ目は、この場合、敵の動きを止めるのに側面から杭を打ち込むのが妥当であるからだ。第三艦隊は劣勢で、このままでは敗走もしかねない。この間にも、彼らは後退している。後退することは悪いことではないが、後ろに下がるという事は、実は相当な熟練と根気を必要とする戦術行動だ。それは長くは続かないし、続いたとしても将兵の士気は下がり続ける。この状況を打開するには、外部からの支援が必要だ」
しばらく思案した末に、ジュリーが声を上げた。何故か、小さい酒瓶を片手にしている。いつの間に取り出したのか解らないが、彼女はそれを一口煽ると満足げな吐息を漏らした。
「私は乗ったよ。船長の判断を信じる」
「俺も、こうなったらやってやるぜ」
フィリップが、両腕の拳と拳をつき合わせて言った。その顔には獰猛な笑みが浮かんでいる。
「言われてみれば、まあなんとかいけそうな気がします」
イーライがそういって賛意を表明すると、セシルも頷いた。キャロッサに目を向けると、彼女は笑顔でこちらを見返してくる。クルー達は今の説明で、何とか納得してくれたようだ。願ってもいないが、彼らが期待を一度も裏切ったことが無いのを思い出して、リガルはひとり苦笑する。
そして最後に、リガルはアキを見た。
白い髪の毛とブラウンの瞳を携えた彼女の、そのほっそりとした体型を見てから、リガルは視線をアキの目に戻した。
「アキ、いけるか?」
白髪の美女は、微動だにせずに答えてみせた。
「問題ありません、艦長。ですが、この作戦にはクルー全員が最善を尽くす必要があります。機関出力が足りなければシールドが崩壊してお終い、内部に突っ込んでも砲撃が当たらなければ意味がありませんし、管制がしっかりしていなければどこにいるかもわからなくなります。つまり、各人の連携も大事ですが、それぞれがしっかりと仕事を果たすことでこの作戦は成功するのです」
それぞれの担当のクルーが顔を顰めて、少しだけ空気が硬直した時、アキはまたも平然とした口調で言った。
「ですが、その点は心配はないという結論に達しました、船長。以前申しましたとおり、この船、つまり私のクルーは優秀です。問題があるとしたらそれは、私か船長のどちらかでしょう。この作戦を立案・添削した私達の責任ということになります」
リガルは、アキの言わんとしていることが解った。
”これは賭けです。乗りますか?”と。
「ふむ。では―――」
リガルは、スクリーンの全ての表示を消して、背もたれに体重を預けて欠伸をした。クルー達はそれを合図と取って自分たちの持ち場に戻り、等しく笑みを零した。
「お隣の国の侵略者達に、挨拶でもしにいこうか」
「彼らは何をしている!?」
バルトロメオ大佐が艦橋の後ろで叫び声を上げると同時に、アステナは目の前の戦況表示を見つめた。
表示の上のほうには、今正面で対峙しているバルハザール艦隊の赤いアイコンがある。反対に、下のほうでは第三艦隊を表す青いアイコンが相対している。二つの矢印は大きく、青のアイコンの方がやや大きくなって数の優劣を第三艦隊が有していることを暗に示してた。
そして、先程まで停止していた、緑色のアイコンの一隻の船が、敵の側面へと回り込もうとしていた。その小さな緑色はディスプレイの中でも見落としてしまうほど小さく、今も激戦を繰り広げる第三艦隊とバルハザール艦隊とは比べるまでも無いほどだ。
「アクトウェイ―――?」
その時、アステナは彼らがやろうとしていることを一瞬で悟った。それは彼の鋭い戦術眼と戦略眼がもたらした天啓であり、必然ともいえる偶然であった。
「側面攻撃か。たった一隻で」
すかさず指が動いて、アクトウェイとの通信回線を開こうとする。
が、アステナは途中で身動きを止めた。
今から止める様に言っても、彼らが行動を中止する保証などどこにも無いことに気づいたからだ。
「まったく、とんだ切れ者だ、リガル船長」
「閣下?」
突然の独り言に、バルトロメオは問い返す。明らかに困惑した様子だが、アステナは彼の当惑に付き合っている暇は無いことを知っていた。今回の戦いは敵の連続波状攻撃であり、こちらは防戦一方。しかも敵は機動力の高い部隊なので、いつ攻撃の手が収まるかわからない。後退して反撃の時期を待つしかないといっても、それだけでは勝つ見込みがないのが現状だ。
アステナは、意を決して立ち上がった。
「各艦、このまま後退だ。陣形を乱すな。戦隊ごとに連携を取れ。なんとしてもこの戦い、勝つぞ」
司令官の力強い言葉に、おお、と、士気を失いかけていた将兵達が息を吹き返す。
第三艦隊は、再び熾烈な砲撃を開始した。崩れかけた陣形は息を吹き返し、傷付いた船を頑丈な船が庇いながら敵の攻撃を受け流した。いくつものエネルギービームを、有機的な回避機動でかわして即座に反撃の火を吐く。その動きはとても洗練されていて、今も目の前で猛威を振るっているバルハザール艦隊とは一線を画すものがあった。
敵艦隊は動き出したアクトウェイに気付いている様だが、なにか隕石が動いているだけだと思っている様だ。気づけば、アクトウェイは戦闘の激しさで役に立たなくなってきているレーダーを利用して一度だけエンジンを点火して推力を得ると、そのまま慣性航法で移動し始めた。あのリガルと言う船長は、とても慎重に船を操っている。危険な戦闘宙域を避けるように移動しているアクトウェイは完全に小惑星に成りすまし、バルハザール艦隊はなんの反応も示すことなく、そのまま第三艦隊の追撃を続行している。勢いに乗った敵艦隊は、ミサイルとビームを乱射しながら攻撃してきている。
まるで、飢えた狼の群れの様だ。その隣を人知れず移動し始めるコヨーテは、きっとその肌も漆黒に塗りつぶされているのだろう。
「だが、綻びも出来始めているな」
陣形を見つめる。敵の艦隊陣形は、先程までの整然とした弾丸陣形ではない。少し乱れた楕円形で陣形を乱して効果的な砲撃が出来ていないことと対照的に、第三艦隊は立て直しつつあった。僅かずつではあるが第三艦隊は安定して敵を迎撃できるようになってきており、これがいつまで続くかは解らないがやられっぱなしと言うわけでもない状態になっていた。むしろ、戦線の各所では勝利を収め始めている部分もある。
が、敵艦隊はそれに気づいて、最後のミサイルを斉射してきた。アクトウェイのFCSのお陰で大部分は迎撃できたものの、戦艦と巡洋艦が何隻かやられて、戦線に粘りが薄くなってしまい、結局は先程と同じような状況に戻った。
「アクトウェイは、何をするつもりでしょうか?」
と、バルトロメオ。アステナはモニターを見つめたまま答える。
緑色のアイコンは、まだ元気だ。これが希望となるか絶望となるかは、まだ解らない。
「恐らく、我々の為だ。後退して陣形を崩しつつある我々を立て直させる為に、彼らは杭を打ち込もうとしてるんだ。そうすれば、敵の行動速度は鈍り、我々には時間が生まれる。時間があれば、陣形を立て直して、敵を討てる」
参謀長は首を振った。
「しかし、その意図はわかりますが成功するでしょうか?民間船一隻で……相手は腐っても宇宙軍の一個艦隊ですぞ」
「成功するさ」
断言するアステナに、バルトロメオは理由を問うた。
彼は答える。
彼自身、そこに確信があるが、その理由は明らかになっていなかった。が、それは自分の口から聞くことになった。
「前科があるからな、彼らは。百隻ほどの海賊船団を壊滅させるなど、並大抵の人間に出来るものではない。もしかしたら、”本物の”英雄という奴かもしれんな」
そういって、彼はモニターに視線を移す。
バルトロメオは、その”本物の”という言葉の意味については聞かないことにした。




