一三二年 五月二七日~ ②
「もらった!」
イーライが、勢いよく操縦桿を捻る。目の前に移る映像が急回転し、様々な緑色の線で浮き出るように表示されているアイコンが宙を舞った。
ついこの間手に入れた報酬の余りで購入した、暇つぶしの空間戦闘機シミュレーション装置の回りにクルーが集まっている。全員が珈琲カップから湯気を立ち上らせて、黒い航宙服の胸元のボタンを開けてラフな格好になっていた。
イーライの操作する空間戦闘機が、減速しながら直線上で回転しコブラ機動をすると、敵の仮想戦闘機は勢いよくイーライの機体を追い抜きすぐに体勢を立て直したイーライが、即座に目の前に現れた敵をロックオンした。
操縦桿の一番上に設置されている安全装置つきのエネルギービーム発射ボタンを押し、矢じり型の機体の中央に設置されている砲塔から光の筋が延び、目の前の敵機を貫いた。小さな爆発が起こり、機体をダイブさせてそれを避ける。
「へえ、意外に器用だな」
関心した声を出すのはフィリップだ。珈琲を口に含んで、興味深そうに画面を覘く。
ジュリー、フィリップ、イーライ、セシルは、元々軍の出身とはいえその部署が大きく違うので、このような戦闘機シミュレーションを見るのは初めてなのだ。
しかし、リガルには見覚えがあった。このタイプではないが、元々アクトウェイには娯楽用のこういったシミュレーションがいくつかあったのだ。古いあのシミュレーターの、軋んだ座席に座ることはもう無いのだ、と感傷に浸りながら思い返す。あの時は臨時日雇いのクルーしか雇えないような貧乏生活で、航海のたびにクルーの顔が違っていた。彼らとは一度の航海上での付き合いで、そんなクルーたちとのコミュニケーションでリガルは多くこのシミュレーターに助けられた。こういう風に、いつも同じ面子でシミュレーターを囲むのも悪くない。
「船長はどうですかね?」
気づくと、全員の視線がリガルに注がれていた。何とか状況を把握すると、リガルはしみったれた感傷を無視して笑みを零す。
イーライが笑った。自信有りげな笑みだ。
「自信満々ですね」
「どうだかな。一戦、やってみるか?」
リガルが歩み出ると、ジュリーとフィリップが口笛を吹いた。セシルは腕を組んで、笑いながら成り行きを見守っている。アキは既に結果が解っているようで、何もいわずに珈琲を飲み続けていた。今日四杯目だ。
まあこの天狗になっている砲雷長には悪いが、ここは勝たせてもらうしかないようだ。いつも通りに座席に着き、ベルトを締める。大きなハーネスが身体を適度に締め付けて、リガルの身体はぴったりと固定された。目の前にある操縦桿を握り、両足をペダルに滑り込ませる。次にヘルメットを装着し、HUDのスイッチを入れた。同時に、機体内部の三次元立体モニターの映像で架空の機体が格納されている空母の内部の映像が表示される。ヘルメットでは、緑色の文字で機体の内部が自動点検され、全ての機能が当然オールグリーンで表示されると、リガルは右側に立って見つめるセシルに親指を立てた。
「コードネームは……ブロック・ワンか」
左手を、座席の左側に設置されているスラスター制御装置のハンドルへと乗せる。地球時代の戦闘機は、この位置に減速か加速、どちらかの機能しか持たないものが主流だったが、この空間戦闘機には三次元のスラスター機能が加わっている。それを、まるで生き物のように自在に操ることで、先ほどのイーライのような機動が可能になるわけだ。
尤も、あれほどの急旋回を繰り返したら、普通はGで気絶してしまう。そんな離れ業も出来るのがこのシミュレーターの良いところだ。仮想空間では何をしても人が死なない。
「システム、オールグリーン。発進準備完了。管制塔、応答せよ」
リガルが喋り始めると、全員が何を言っているんだ?を聞きたがる表情になったが、アキが苦笑いしながら調子を合わせて、合成音声を流し始めた。
「こちら管制塔。ブロック・ワン、三番カタパルトからの離陸を許可します。無事の帰還を」
「有難う、管制塔。ブロック・ワン、出る」
画面の格納庫の内部の映像が急速に後ろへと流れ、やがて見えなくなった。リガルは機体を優雅に二回転させると、HUDの宙域図及びレーダー情報に目を走らせる。僚艦はフリゲート艦四隻と、駆逐艦四隻、巡洋艦二隻だ。空母の量子レーダーが捉えたイーライの機体の反応を受信して位置を確認すると、リガルは一気に機体を加速させる。そのまま、既に戦闘宙域へと向かっている味方戦闘機部隊、およそ八十機と合流して安定した編隊の一つの先頭に割り込む。この部隊が、今からリガルの指揮するブロック飛行隊だ。
イーライ側もそれに気づいたようで、彼を含む九十機の戦闘機が機首をこちらに向けてやってくる。リガルはほくそ笑むのを止められなかった。彼からしてみれば、イーライの位置している編隊の集団は、どう見ても素人ばかりだ。シミュレーターにアキが細工をしたとは思えないが、敵は数が多い。その分のハンデなのだろう。
「ブロック・ワンより各機へ。敵左翼部隊へと攻撃を敢行する。武装は各自で考えろ。ミサイルは取っておけ。ブレイク!」
ひとつあたり八機の編隊が、蜘蛛の子を散らすようにばらけた。同時に敵戦闘機部隊も散開し、それぞれが定めた目標の戦闘機へと向かっていく。いくつかの荷電粒子ビームの光が煌くが、どれも虚空を突き抜けるだけで命中はしなかった。
リガルの機体の後方に二機一組となって敵が追尾してくる。後ろから伸びてくる光条を巧みに避けながら、リガルは忙しくスティックを操作した。減速と加速を繰り返しつつ、喰らいついてくる敵機を何とか振り払おうとする。だが、予想外に敵のパイロットの腕前も中々のようで、そのまま三機は高速でドッグファイトを繰り返した。
「難易度設定がどうかしてるんじゃないのか?これ」
リガルはいたって冷静にそう評論すると、突如としてエンジンを切った。メインエンジンの推力が消失すると同時に機体は慣性飛行をはじめ、それを利用して一気に減速、回転をする。見方にっては、突然リガルの戦闘機が宙返りをしたかのように見えただろう。敵の戦闘機の後ろにつくと、すぐにメインエンジンに点火して速度を保ち、その不安定な中で慎重に狙いを定めてビームを発射した。
二つの小さな爆発が起こり、宇宙空間が照らし出される。
「マジかよ」
フィリップが呆れたような声を出した。リガルの演じて見せたそれは、イーライの物と比べて遥かに上手かった。やや離れた隣の座席のイーライに声をかける。
「どうだ?やってみるか、砲雷長」
むっとした表情のイーライを見て、リガルは笑った。
「やりますとも、船長」
「よし。いつでも来い、相手をしてやる」
すると、リガルに急接近する機体を、ブロック・ワンのセンサーが発見した。同時に複数のエネルギー反応を検知し、ヘルメットのブザーがけたたましく鳴り響く。同時に、反射的に操縦桿を捻って機体を右旋回させた。
バイザーのHUDに投影されている重力加速度計が八の値まで振り切れる。ほんの数秒それが続いた後、機体がもといた場所にビームが何本か通過した。どうやら、砲雷長をやっているイーライの射撃の腕は伊達ではないらしい。改めて感嘆しつつ、リガルは機体を持ち直して相手に向き直った。
イーライも、リガルが正対したのに気付いたのか即座にバイザーのミサイルロックオン機能に接続する。
緑色の円形のロックオンカーソルが、同じバイザー上に表示されるリガルの戦闘機の反応に重なり、電子音を奏でる。だが、リガルは細かく軌道修正し巧みな機体裁きでロックオンカーソルを避けた後、猛スピードでイーライの横をすり抜けた。
時速数万キロですれ違ったリガルを、イーライはやや減速しつつ旋回して追いかけた。
が。その時、今度はイーライのヘルメットが警告音を発した。
はっと気付いて、イーライは機体を加速させ、複雑難解な回避軌道を描き始める。突然のことに、状況が解らないままにくるくる回転する宇宙空間の映像を、何とか目で追いながらリガルを見つけようとするが、彼は何処にもいない。やがて彼の目の焦点が機体の回転が止まると同時に、ある一つの物体を見出した。機体のAIが、それを拡大投影する。
「くそっ、デコイか!」
リガルが放ったのは、猛烈な熱量と電波を発するデコイだ。イーライの機体に向けて飛んでいくようにセットされたそれを探知して、AIはミサイルと勘違いして警報を発したのである。
「何処だ?何処にいる?」
慌ててレーダーを見る。そこには光点は一つしかない。勿論、それがリガルのはずなのだが、もしかしたらデコイかもしれない。その一瞬の考えが、イーライの命運を決した。
ほんの一瞬の間、イーライの機体が停止した状態を狙って、リガルは打って出た。エンジンを切って必要最小限のスラスターでじっくりとイーライの機体に狙いを定めた後、急加速してレーザーを発射したのだ。
気付いたイーライは、すぐに機体をレーザーの効果範囲外へと向けた。だが、それもリガルの予想の範囲内だった。
予め、その回避ルートを思い描いていたリガルは、即座に機首をそちらに向けて無防備なまま飛行するイーライの機体にロックオンカーソルを重ねる。やがてロックオンを完了してAIが電子音を鳴らすと、迷わずに引き金を引いた。
時速数万キロ以上で飛んでいくミサイルは、あっと言う間にイーライの機体に追いついた。デコイを緊急展開して全力でイーライは回避するが、運悪くミサイルはしつこく彼を狙い、やがて、機体のエンジン部分にミサイルが命中した。
「うわっ!」
ユニークな設計のシミュレーターが、イーライの座席の操縦桿の先から摂氏零度のガスを噴射して、暗転したディスプレイに「撃墜されました」と表示すると、イーライは呆けたような表情でヘルメットのバイザーをあげた。
まんざらでもない様子でリガルはイーライに顔を向ける。
「どうだ?砲雷長」
イーライは両手を上げて座席から立ち上がった。緊張感のある短時間の戦いで、彼の掌は汗でべっとりだった。
「船長、それは反則ですよ。まさかデコイを使うなんて」
「本当に。よくそんなのを思いつきましたね?」
感心した様子でセシルも頷く。ジュリーとフィリップは信じられないような視線でリガルを見ている。その中で、リガルは笑いながら答えた。
「前から思ってたんだ。デコイっていうのは、別に回避のために用いるだけじゃないってね。ほんの出来心だったが、上手くいってよかった。イーライ、酒の一杯でどうだ?」
砲雷長は悔しげに表情をゆがめて頷いた。
「ええ、それで手を打ちましょう、船長。ただ、俺はもう二度と貴方とは戦いませんからね!」
「おいおい、いいのか?勝利者は、挑戦者からのみ生まれるのに」
勝者の笑みでリガルが言うと、今度こそイーライはがっくりとうなだれた。
「くそ。今度こそ、その鼻を明かしてやりますよ」
「何時でも良いぞ。俺が暇な時ならな」
その後、イーライが一時間ぶっ続けでシミュレーターに向かったのは、別に口外する必要の無いことである。
・アリオス暦一三二年 五月二八日 メキシコ星系 大型巡洋船アクトウェイ
無事にメキシコ星系にワープアウトすると、最初に出迎えてくれたのは傷付いた重巡洋艦三隻と駆逐艦二隻だった。レイズ星間連合の青を基調とした背景に連合に所属している十一の星系と同じ、十一個の星のマークが散りばめられている国旗の描かれた軍艦は、そろそろとアクトウェイの出現したワープポイントから加速し始めたところだった。背中を向けている戦隊は、こちらに気付いて一度は反転しようとしたが、こちらが民間船だと解るとそのまま加速を続行した。
「撃って来るかと思いました」
セシルが胸を撫で下ろした。自国の防衛艦隊とまともに戦闘を行うなど、悪夢以外の何ものでもない。その後に近くのレイズ星間連合宇宙軍艦から誰何されたので、リガルは即座に用意していたカルーザの紹介状を送信した。
「こっちが大きいから、間違えたんだろうな」
フィリップがもらすと、アキが少しだけむっとした表情でフィリップを見た。
「聞き捨てなりませんね」
それに驚いたのか、フィリップは危うく珈琲を噴出しかけていた。
「アキ、どういう意味だよ?」
「どういう意味も何も、言ったとおりの意味です。大きいといわれるのは、機械の私でも快くありません」
フィリップが、ちらりとリガルを見てきた。そんな助けを求めるような目で見られても、俺は一ミリも助けることは出来ない。彼女が自分の……体重?についてプライドを持っているなんて、俺も初めて知ったことだ。
「その……すまねえ、アキ。少し配慮が足りなかった」
天井のディスプレイの辺りで、何か物音がした。一番高い位置にいるリガルしか気付かなかっただろうが、恐らくあの音は侵入者撃退用の小型レーザー砲台が作動解除された音だろう。身震いしながらアキを振り返ると、彼女は無機質な瞳で見返してきた。
「なんですか?船長」
「いや、なんでもない。なんでもないよ」
リガルが元に戻ると、アキはフィリップに視線を向けた。
「機関長、以後、発言には気をつけていただきたいです」
「イエス・マム」
フィリップが大人しく自分の仕事に戻るとジュリーは必死に笑いを堪えながら、アクトウェイを惑星メキシコへと向けた。漆黒の船体の各所で小型のスラスターが火を噴く。徐々に軌道がずれていき、リガルのコンソールの上に表示されているホログラフの中で、アクトウェイを示すアイコンから伸びる予定航路の線は、一ミリの無駄も無く惑星メキシコへと合わせられた。
「船長、メキシコ上空にレイズ星間連合軍を確認」
「通信は?」
「ありません」
今頃、相手の司令官はこちらの紹介状に目を通している頃だろうか?
「よし。アキ、後の操作は任せていいか?」
アキはじろりとフィリップの背中を見た。彼の背筋に丁度冷や汗が出始めた頃に、彼女は頷いた。
「はい」
「よし。それじゃ、皆で食堂に行こう。キャロッサ、食事の準備を頼む」
「はい、船長」
「さて、私たちもいきましょうか、イーライ」
「ああ」
ジュリーとイーライが連れ立って席を立つ。フィリップは、どういうわけかアキの後について艦橋を出
て行った。その後にイーライとジュリーが話しながら艦橋の入り口をくぐったときに、リガルはコンソ
ールの電源を落として立ち上がった。
と、セシルがリガルの肩を叩いた。
「これから大変ですね、船長」
リガルは座席から歩き出しながら溜息をついた。
「ああ。もしかしたら、あの艦隊の司令官から通信が入るかもしれない」
その言葉に、セシルは眉を上げた。
「どうしてですか?この星系は、見るからに奪還されてます。連合軍が航行を許可するのなら、そこを
通るノーマッドを含む艦船は軍事には干渉できないのでは?」
「うん。そうなんだけど、B級巡洋艦以上の船を持つノーマッドだけは例外だ。最早、彼ら……いや、俺
たちの持っているそれは戦艦に等しいからな」
その言葉に、セシルの顔が少し青くなった。このアクトウェイの船舶分類は、A級巡洋艦だ。
「それに、カルーザの紹介状のこともある。相手側は、既にこちらからのあの紹介状のことも解ってい
る。誰何された時点で、『ここは危ない、立ち去りなさい』と言われている様な物だ。言っておくが、
先に送信したのはこれを見越してのことじゃないぞ?」
「つまり?」
「臨時の傭兵だよ。近くを通った民間人に、『おい、金を払うから一緒に戦え』ってな。前に一度だけ
あったが、そのときは戦争なんてご大層な物ではなかった。せいぜい海賊討伐くらいでしかノーマッド
が動員された記憶は無いし、そんなのは『オリオン腕大戦』の、ジェームズ・ストラコビッチくらいだ
」
リガルが言うノーマッドの名前は、この銀河に存在する人類の最大国家、バレンティアと当時それに次
ぐ国力を誇っていた銀河帝国の戦いである。両国家の対立から招かれた経済不振や流通の停滞、果ては
海賊行為の増加など、様々な悪影響が及んだ。結果として、二〇の国家が血で血を洗う激戦が各星系で
繰り広げられ、戦争は一向に進まない膠着状態となった。
これに終止符を打ったのが、およそ二〇〇年前に名を馳せたノーマッド、ジェームズ・ストラコビッチ
だ。
彼は中肉中背、見る人が全て口をそろえて「よく言って普通」と言うであろう雰囲気の持ち主は、寝癖
のひどい頭のまま活動を行うノーマッドだった。
当時、戦争の影響はノーマッド達、宇宙の放浪者にも及んで深刻な被害をもたらしていた。数多くの民
間船が襲撃されていた時期だけに、ノーマッドも無事では済んでいなかったのである。当時は大きな宙
運会社もなく、物資の運搬の大半を担っていたノーマッドの多くの者が死亡した影響は大きく、通常航
海もままならない状態だった。
そこで、ジェームズはとあるシステムを開発した。ノーマッドの通常航海で、情報を集め、配布するサ
ービスシステムの適用である。全てのノーマッドの船へと無料配布されたこれらのシステムは、今日の
ノーマッドにも影響を及ぼす物だ。彼はそれを利用し、ノーマッドの相互間の通信設備を整えると、全
ての放浪者に招集をかけた。
「なんて、声をかけたんです?」
セシルが問うと、リガルはエレベーターに乗り込みながら続けた。やや広いエレベーターの中で、リガ
ルの声だけが反響する。
「この戦いを終わらせる為に、君たちの力を借りたい、と。その時、戦争が始まって十年がすぎていた
んだ。被害は筆舌に尽くしがたかった。それを終わらせる為に彼は立ち上がったんだ。その理由は、彼
女の恋人が戦争のせいで死んだかららしい。真偽は知らないが、とにかく彼の元に十万隻もの船が集ま
った、と、教科書には書いてある」
壮絶な数の前に、クルー達は息を呑んだ。十万隻の民間船でも、小規模な武装さえ施していればどの国
の軍隊も凌ぐ力になるだろう。
「そう……でも、それは軍に雇われた訳じゃなかったんでしょう?」
「この時はな。それ以降、彼はノーマッドの軍を率いて破竹の勢いで両軍を撃破したんだ。なにせ十万
隻の大艦隊、当時のどの国家の艦隊と比べても大きな規模だ。最終的に、彼は自分の故郷、小国ウェル
に落ち着いた。放浪者は剣を得る代わりにある国の騎士となって、故郷の為に戦い続けた。軍も傷付き
、補給物資だけが有り余る状況だったウェルとしては願っても無い申し出だったんだ。安定した補給、
強大な軍事力。両方を手にした彼は、オリオン腕大戦のバレンティア、銀河帝国の両軍を半減させると
、傷付いた艦隊司令官同士を面会させて条約を締結させた。その後十年間、彼は艦隊を保持し続け、銀
河帝国が解散されて戦争再発の可能性がなくなると、艦隊を解散、全てのノーマッドは自由になった、
というわけさ」
リガルが説明を終えると、エレベーターの扉が開いた。全員でぞろぞろと降りていくと、感心したよう
にイーライが言った。
「船長がそんなに博識だとは知らなかったですね」
リガルは鳴る腹を押さえて、昼食のメニューを想像しながら通路を歩いた。
「学校では歴史専攻だったからな。こういうのには強いんだ」
ようやく辿り着いた食堂のテーブルに座りキャロッサが厨房に消えると、アクトウェイの面々は食事前
のトランプに興じ始める。今日のディーラーは、昨日大敗を喫したイーライだ。最近、彼の戦績が伸び
悩んでいるのと同時にフィリップが勢いをつけてきている。ジュリーとセシルはお互いに中間だ。
「さあ、今日こそは勝たせてもらうぞ」
カードを配り終えると、イーライは意気揚々と手札を返した。フィリップがそれを鼻で笑う。
「おいおい、若造。年の功を舐めんなよ?」
今度はイーライがにやりと笑った。
「進歩ってやつを教えてやるよ、爺さん」
手札交換が始まる。全員が手札を整えると、まずセシルが手札を披露する。
「駄目、今回は降りるわ」
ハートの一から四までは揃っているが、最後が六になっている手札を捨てると、今度はフィリップが手
札を出した。
「俺は二と三のフルハウスだ」
会心の笑み。最初の手札でこの幸運は、滅多に無い。
だが、イーライはそれを超える笑顔で手札をさらした。
「クイーンのフォーカード。悪いな、機関長。これが進化ってやつだ」
呆気に採られたフィリップの顔を見てセシルが吹き出した時、リガルの航宙服の胸ポケットに入ってい
る携帯端末が振動した。それを取り出して表示を見ると同時に、アキがリガルを見やる。
「船長、レイズ星間連合軍司令官から通信です」
全員の表情が固まった。先ほどのリガルの話を思い出したのだろう、その話の重要さはわかっているら
しい。無言のままリガルは彼らの視線を受け止めた。




