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漆黒の戦機  作者: 夏木裕佑
第一章 「開戦は唐突に」
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一三二年 五月二七日~ ①

・アリオス暦一三二年 五月二七日 




数日後。しばらく雑多なデスクワークに忙殺され、旗艦ハレー率いる第三艦隊は軌道上へと戻った。

そして、宇宙空間にて、戦死者たちの宇宙葬が行われた。


ハレーの格納庫で、大勢のクルーが黒い服に金色の筋が入った礼装軍服姿で立っている。白と黒のベレー帽を被り、アステナも例外なく、きっちりとした服装で、兵士たちの目の前に立っていた。


何列にもわたって整列している兵士たちは、誰もが無表情だった。普通の艦隊とは違い、レイズ星間連合では他の舟で戦死者が出た場合も、艦隊の全ての船が式を執り行うことになっている。格納庫の一面を占領する大きなスクリーンに、他の艦で出た戦死者の名前やその棺が順々に映し出されたりしていた。


格納庫にハッチの開く電子音が響いた。そこから一人の士官が姿を現すと、礼装軍服の帽子が落ちないように手で庇いながらブルックリンのところまで来て、少し乱れた声で告げた。


「準備が出来ました、艦長」


「よろしい。閣下」


アステナは頷いた。より厳粛な空気を纏った一団を前にして、少しも怯むことなく接地された演壇の上に立つ。今、このアステナの姿は艦隊全ての船、そして惑星メキシコ上にも放送されているはずだった。


それでも、まったく緊張はしなかった。ここにいるのは仲間だし、緊張する理由は何一つも無かった。

仲間……その言葉が胸に突き刺さる。面識がないとはいえ、この戦死者たちは間違いなくアステナの仲間だった。


それを考えた時、不意に、ブルックリンの言っていたことの意味を理解した。

仲間のことを想うなら。本当に彼らのことを想うなら。

今までの俺は、間違いだった。


一回深呼吸すると、目の前に設置されている棒状の物体の位置を確認する。小型に設計された集音マイクだ。


「諸君」


頭の中で、素早くまとめた内容を、アステナは話し始めた。


「アリオス暦一三二年、五月二四日。我々レイズ星間連合軍、正規軍第三艦隊は、敵国バルハザールの艦隊と交戦。巡洋艦バル、キュール、ロウズ、駆逐艦ビーン、マイティ、ヤー、インディゴ、ノート、リール、スファが撃沈され、他の船も、数隻が損害を被り、二九七二人の死者を出した。彼らは立派に、勇敢に戦い、そして亡くなった」


そこで一旦、言葉を区切り、兵士たちを見回した。彼らは、ただ無言で自分たちの司令官を見つめている。


「彼らは実に優秀だった。お世辞ではない。彼らは我が軍の中でも精鋭であり、やがて私の跡を継ぎ、諸君の背中を守る存在だった。それが故に私は……寂しい」


突然の儀礼には無い言葉に、静かな驚愕の波が格納庫に広がった。それも構わず、アステナは淡々と喋り続ける。


「私はこの数日、彼らのことについて考えていた。どうすれば彼らに報いることが出来るか。どうすれば……彼らを死なせずに済んだか。あの時こう動いていたら?あの時、あの指示を出していたら?解らなかった。いくら考えても疑念と後悔は募るばかりで、どうしようもないくらいに私は塞ぎこんでいた」


さらに、アステナは続けた。最早驚愕の波は収まり、列の所々で数人の兵士たちが涙を流し始めた。恐らく、友人が死んだのだろう。それを目に焼き付けてから、アステナは続けた。


「だが、今日決めた。私は彼らに報いるには、これ以上の犠牲を出さず、最善を尽くして戦うしかない、と考える。彼らのような犠牲者を増やさない為にも、戦争を早く終わらせる為にも。そして、二度と後悔はしない。それが彼らに対する最大の手向けであり、願わくば、私自身を救うことが出来るように切に願うばかりである。そのためには君たちの力が必要だ。これからも戦いは続くだろう。私は、君たちの力を全面的に信頼している。だから君たちも全力でそれに応えて欲しい。そして最後に、犠牲となった英雄たちに心からの感謝を送る。アステナより、以上」


「構え、筒!」


脇に並んだ兵士達が持っている火薬式自動小銃を構えると、斜め上の方向に三発発砲した。


「敬礼!」


艦長が格納庫の端から端まで響くような声で怒鳴ると、兵士たちは一斉に足を揃えて敬礼した。アステナは答礼し、後ろを向いて演壇を下る。アステナが元の位置につくと、士官たちも後ろを向いて、今まで向き合っていたクルーから、後ろのスクリーンへと視線を移す。


アステナが合図をすると、ブルックリンが、今度は静かだが良く通る声でいった。


「戦友達を、最後の航海に送り出せ」


「サー・イエス・サー」


ゆっくりと、棺が宇宙に送り出され始めた。彼らが送り出されるたびに、儀仗兵がライフルを高く掲げ、礼砲を撃つ。その全てを目に焼き付けると、アステナたちはクルーに向き直った。

よく見ると、ほとんどの面子が涙を流している。その量に違いはあれど、ここで仲間の死を悼まないものなど、一人もいないだろう。


最後に、アステナが一歩前に出た。


「これにて、戦死者の葬儀を終了する。ご苦労だった」


「解散!」


兵士達が、ぞろぞろと格納庫からいなくなり始めた。すっかり脱力したアステナが立ち尽くしていると、参謀達やブルックリンが集まってきた。すっかり囲まれたことに気付き、アステナは溜息をついた。


「我ながら青臭いことを言ったと思ってるよ。まったく、士官学校の若造じゃああるまいし……」


自嘲的な翳りを持つ呟きに、ブルックリンは笑顔で対応した。


「そんな事はありませんよ、閣下。青臭いことは時には必要な物です。軍人という奴は、そういうものに心惹かれます。人の命がなくなっていく戦場において、綺麗事を青臭く言うことが、兵士たちにとっては何よりの安らぎになるものです」


アステナは改めて照れくさくなったが、咳払い一つでそれを追い払うと自分も歩き始めた。艦橋に戻る参謀や、ブルックリンもついてくる。


「なんというか、気分が楽になったよ。ありがとう、大佐」


ブルックリンは、僅かに微笑んだ。


「いえ。これくらいなんでもありませんよ、閣下」


そのまま艦橋に戻ろうとしたときに、アステナはある用事を思い出して、慌ててバルトロメオを呼んだ。すぐ後ろに控えていた彼は、そのまま歩み出る。


「いかがいたしました?」


「大佐、今すぐ艦長たちを会議室に集めてくれ。話すことがあるんだ」


「了解いたしました」


十分後、第三艦隊のほぼ全ての艦長が会議室に集まっていた。突然呼び出された艦長たちの表情は思わしくないが、それもこれから話すことを考えれば仕方の無いことのように思えた。ほとんどの艦長たちが、これから話されることは悪い知らせだと勘付いている。

アステナはすぐに始めた。


「諸君、急に呼びたててすまない。だが、重要なことだ。聞いて欲しい」


アステナが言うと、全員の表情が引き締まった。


「私は先日、惑星メキシコのレイズ星間連合陸軍の代表者である、レーヌ少将から話を聞いた。少将の話によると、敵は宇宙空間の設備を全て破壊しただけで、地上には一切の攻撃を加えずに軌道上に留まっていた、と言うのだ。この意味が解るか?」


突然の問いかけに、会議室がどよめいた。士官たちは、互いの顔を見合って、小声で議論を交わすしばらくしてから、リオ大佐がてを上げた。


「増援を待っていた、と言うことですか?」


勢いよく、アステナは頷いた。


「そうだ。敵は、明らかに宇宙空間の兵器しか狙っていない。上陸して占領する気はないんだ。つまり、これは上陸部隊が来る前に機動部隊を叩いて、その到着を待っていたんだろう」


「だが、増援が来る前に我々が到着し、バルハザール艦隊は撃破されてしまった」


バデッサが細くすると、アステナは頷く。今度はバルトロメオが口を開いた。


「閣下、だとすると、もうすぐ敵の増援が到着するはずです。これは完全な推測ですが、今頃敵の増援部隊はワープの途中でしょう。超空間の中では通信を受け取ることも出来ません。そのまま、味方が撃破されたことも知らずにワープアウトしてくると思われます」


熱を帯びた口調だ。


「解っている。よって、我々はまずカプライザ星系方面のワープポイントへと向かう。第一、第二、第三分艦隊を広域配置して、何も知らない敵艦隊を待ち伏せする。今から、準備が出来次第発進するぞ。質問は?」


誰も何も言わないと、礼装軍服姿のまま出席している艦長がいることもあって一時会議はその場で解散となった。艦長たちのホログラフが消え、バルトロメオたちも慌しく出て行くと、アステナも最後に退出しようとする。だが、突然バデッサのホログラフが会議室の中に再出現すると、アステナは動きを止めて、若い艦隊指揮官を見た。


「どうした?」


「閣下、敵の規模をどう思います?戦闘部隊を送り込んでくるでしょうか?」

その質問に、アステナは即答した。


「恐らく、ほとんどが強襲揚陸艦だろうな。護衛部隊もいくらかついてくるだろうが、我々に比べれば微小な戦力だろう」


完璧な返答だと思うのだが、バデッサは納得がいかないようである。その返事を聞いている間も、腕を組んで行ったり来たりしていた。


「違う。違うんです、准将。何か違和感があります」


「違和感といっても……どんな?私には、他に可能性は思いつかない」


バデッサは立ち止まった。よく解らないが、彼が今まで見た中で一番切羽詰っているのがかろうじて読み取れた。それを見ると、なんだかアステナまで不安な気持ちになってくる。


「准将……もし、敵のこれが布石だったら?あの艦隊自体が囮だったら?」


その言葉に、アステナの脳裏に最悪の状況が浮かんだ。瞬時にそれを理解できたのは、彼が優秀な戦術家であると同時に、戦略的に見ても才能を持っている証拠に他ならなかった。


「くそっ、そういうことか。此処に来る敵艦隊も囮の可能性が高い。敵は、我々が安心してカプライザ星系に到着した時に、待ち伏せを行うつもりだ」


バデッサは頷いた。


「そうです。我々はこの後に来る敵艦隊を撃破して、カプライザ星系の敵艦隊を少ないと見積もるでしょう。それが妥当です。まったく、敵の司令官は飛んだ食わせものですよ!二百隻以上の大規模な無人艦隊を犠牲にして、ここまで巧妙な罠を作り上げるとはね!」


バデッサは歯軋りしている。アステナはすっかり部屋を出る気力を失ってしまい、そのままもとの椅子に腰掛けた。


敵はそれほどまでに狡猾なのだろうか。いうら無人艦隊といえども青の船を犠牲にしてまで勝利を得る。しかも今度戦うであろう敵の艦隊には間違いなく生きた人間たちが乗っているのだ。


しばらく考えた後に、ぶつぶつと話し始める。


「敵の規模はどのくらいだ?二百隻?三百隻か?常識的に考えて、今度は人間が乗っているはずだ。訓練された指揮官に率いられた、あの地獄みたいな紛争を生き残った猛者どもが。船の性能なんて関係ない、相手は百戦錬磨だ。ここ数十年の間で、最も長く戦場にいた奴らが相手だ」


アステナが、さも恐ろしいといいたげに首を振った。


バルハザールは、その長い紛争の中で、様々な兵士を育ててきた。蚊帳の外で、遠くから見ることしか出来なかったレイズ星間連合の兵士たちは、その戦いの映像を見て身震いしたものだ。あの地獄のような戦場は、思い出すだけで悪夢だ。


「バデッサ、勝てると思うか?」


若い優秀な指揮官は、力なく首を振った。


「勝てないとは思いませんが、こちらの損害も相当な物になるでしょうね。何せ、限りない消耗戦の末に、最後まで生き残った兵士たちです。純粋に考えても、太刀打ちできる相手ではありません。此処だけの話、我が艦隊の練度も相当だとは思いますが……」


流石の彼も、まるでカーボンナノチューブで出来た塊を素手で砕くに等しい所業は達成できないらしい。力ない笑みを浮かべると、彼は溜息をついた。


「まあ、今これを話し合っても解決なんて出来ません。まず、目の前の戦闘に集中しましょう」


アステナは全面的に賛成した。


「それしかないな。戦闘前に他の艦長たちを動揺させたくは無いから、このことは他言無用で頼む」


「わかっています。それでは、私も艦隊の仕事があるので戻ります。失礼しました」


「いいや、こういった話なら大歓迎だ。血圧が上がる」


そのジョークに、バデッサは笑顔を残して、ホログラフが消えた。


一人残された会議室で、アステナは疲れた目を擦りながら立ち上がり、会議室を後にしようとした。思いっきり珈琲を飲みたかったが、携帯端末の着信を知らせる電子音で、その目論見は粉砕された。






・アリオス暦一三二年 五月二七日 ムーア・ステーション



人生で一番楽しんだ数日間が終わり、すっかり疲労も回復したアクトウェイの面々は出発の最終調整に入っていた。


管制長と砲雷長が散々話し合った末に、アクトウェイは新型のレーダーカスタムユニットを搭載し、より正確で素早い敵の捕捉が可能となった。さらに、それを処理するソフトウェアもアキが改良し、ミサイルと組み合わせれば百発百中となるだろう、とのことだ。


「まあ、それも砲雷長の腕前によるけどね」


セシルの言葉を、厳しい視線で返したイーライは、そのままコンソールをパタパタといじくっている。その横で、我関せずという顔で作業についているフィリップとジュリーは、溜息混じりに様子を見やる。確かにセシルの言ったとおり、様々なセンサー類の面でアクトウェイはかなり高い能力を持つに至ったが、イーライにとっては以前のバージョンでも十分なものであったし、確かにミサイル類にとってはセンサー感度の向上はより正確な射撃を可能にする恩恵を得ているが、そもそもが命中力の高いミサイル、セシルのこの理由が、センサー感度を向上させる理由でしかなかったことを、イーライは苦虫を噛み潰す面持ちで感じていた。


「船長、警備隊オフィスから通信が入ってます」


アキが告げると、リガルは頷いて、二日酔いの頭を振って酔いを醒まそうとしたが、無駄だった。連日、警備部隊の面々と酒盛りをしたのに、何故他の面子は平気なのだろう?まあ、フィリップはあの風格からして、酒に強そうなのはわかるのだが、ジュリーのあの細い身体でぴんぴんしているのはどうなのだろう。なんだか情けない気分になってきた。


まあそんな事は置いておいて、通信画面を開く。即座に、警備部隊オフィスから通信を送るカルーザの顔が映った。彼も、リガルと同様に二日酔いのようだった。


「やあ、リガル」


気さくな様子だが、無理をしなくても良いのに。とリガルは思う。


「やあ、カルーザ。何か用か?」


「いやなに、もうすぐ君たちは出港だろう?見送りをしようと思ってね。後、言っておくことがあるんだ」


すっかり親しくなった友人の顔が、元のプロの軍人の表情になるのを見て、リガルは怪訝な顔つきになった。


「どうした?」


「君たちは、この次にメキシコ星系に行くらしいな」


またお得意の、警備部隊のアクセス権を使ったのか。


「そうだ。メキシコ星系は、最近航行できなかったからな。大体そういう直後の仕事っていうのは、美味いのが多いんだ」


笑顔でリガルが話すと、カルーザは打って変わって真剣な表情で見を乗り出した。声を潜めて、周りをちらちらと見ている。


「いいか、リガル。これは極秘だぞ」


突然の言葉に、リガルの顔からも笑みが消えた。


「どうしたんだ?」


「そうだな、単刀直入に言えば……戦争が起きているんだ、リガル」


その言葉の意味が一瞬理解できずに、リガルは目を瞬いた。どうやらフィリップたちと話していた予測が的中したらしい。

やがて聞き返す。


「待てよ、カルーザ。『戦争』だって?」


「そうだ。隣国のバルハザールが、五月一日ごろに国境のカプライザ星系に侵攻してきた。その次に、メキシコ星系。先日までメキシコ星系も占領されていた。そして先日、ラレンツィオ星系にも敵の艦隊が進入、占拠された」


「カルーザ―――」


「聞くんだ。この情報はつい先日私のところに降りてきた。軍本部は、危険が及びそうな星系及びステーションには戒厳令を強いていたらしい。特に、ここムーア・ステーションの様に、ただでさえ海賊被害で怯えているステーションには。

いいか、リガル。君のことだから、きっと尚のことメキシコ星系に行くだろう。戦火で被災した人々のために物資を運びにな。ちなみに言えば、君の運ぼうとしている物資も、表向きはただの輸送任務だが元を辿ればそういうものだ。他の星系にいる家族が、メキシコ星系にいる家族の為に物資の輸送を頼んだ。

だからこれをもっていけ」


カルーザが、画面の向こうでキーボードを操作すると、一つのメッセージが届いた。反射的にそれを開くと、中にはファイル形式で保存された書類の図面が浮かび上がる。


「これは?」


「私の署名が乗った紹介状だ。万が一の場合は、それを現場の指揮官に見せろ。何かしらの手を講じてくれるはずだ」


それをひとしきり眺めると、カルーザに向き直る。


「何もしてくれない場合は?」


警備部隊隊長は、にやりと笑った。


「その時は、星間連合軍相手に訴訟を起こしてくれて構わない。裁判は勝てるぞ」


「解った。有難う、カルーザ」


彼は照れ隠しに咳払いした。その様子は、とても頼もしい。リガルは心強い味方を得たのだ。


「礼には及ばないさ。まあ、そうだな……少しでもこれを恩と感じるのなら、今度酒を奢ってもらおうかな」


「喜んで。それじゃ、カルーザ。元気でな」


「ああ。航海の無事を祈るよ、リガル」


通信画面から彼の姿が消えると、リガルは声を張り上げた。


「荷物は積んだか?」


「既に完了しています、船長」


アキが答える。少し遠い目をしている時は、彼女が中央コンピューターにアクセスしている時だ。桁外れの演算能力を持つ彼女が、少し余裕を持って出港手続きを済ませ、無表情でリガルを見る。


「よし。全部署は最終チェックを完了しているな。ジュリー、出港だ」


「あいよ、船長」


ジュリーが元気よく答える。程無くして、アクトウェイのエンジンに火が点いた。二日酔いの船長とは違い、しっかりした様子で動き始めるアクトウェイの艦橋で、壁に設置されているドーム型の高解像度ディスプレイが投影するドッグの内部が、徐々に後ろへと流れていく。


リガルは手続きが面倒になったので、全てアキに任せていた。アキは、自分が代わりに量子通信で管制塔のAIとの短い交信を終えると、リガルのコンソールに報告を送った。


手元にあるホログラフが一つ追加され、全ての出港手続きが終わったことを伝えると、リガルは改めて指示を出した。


「ジュリー、進路をメキシコ星系方面へ。セシル、イーライは警戒を怠るな。海賊が討伐されたからといって、被害がなくなる訳じゃないからな」


「了解」


「了解です」


後は待つだけ、と身体を背もたれにゆったりと預ける。右手で、天井に映る星を見上げながら額をマッサージして、ひどい頭痛が治まるのを待った。


久々に、リガルは静かな星の海を感じていた。


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