第2話 これもきっと何かの縁
最後まで渋って、嫌そうにしていたサワダとシュウジさんだったが、ミハマさんの決定を聞いて一変した。
あっさりとオレの部屋(風呂付き)と服と食事まで用意してくれた。
ただし、釘は刺されたけど。
「お前のことは適当に他の連中には言っとくけど、あまりうろちょろするなよ。同じ顔がついこないだ死んでるんだから」
「そうですね。ミハマの立場ってモンがありますから、出来る限りここから出ないでください。近日中に外に住めるところを手配させますから」
………厄介払い?立場とか言われても、よく判んないし
なーんかひっかかるっつーか、明らかに面倒だから「飼い殺す」って感じがしてますけど。
ま、とりあえず、後で考えよう。
寝床確保、食糧確保。あとは帰り道だけ。
なーんか、オレって普段は幸せだったんだなあ。
帰りたいなあ。
ティアスは、あの後、突然消えたオレに驚いただろうな。
彼女は優しい。
きっと心配してくれてる。
……ホントに、あの時なのか?オレがこっちに来たのは。
ただ、彼女と一緒にいたって記憶しか無くて。
もしかしたら忘れてるだけで、もっと他に何かあったんじゃないのか?
ベランダに出て外の風景を見てても、思い出せない。(当たり前か。別に市役所とか用事もないしね……)せめて、もちょっと地元に近いとか、栄とか名駅とかの繁華街ならなあ。
ベッドに寝ころんでも気は紛れない。(やっぱり天蓋付いてるし。なんか意味あんのか、これ?!)かえって落ち着かない。
携帯を触っても……、思わずティアスの写真、見ちゃうよなー。
テレビは……
「テレビねえじゃん!本も漫画も何もねえ!退屈すぎるよ!」
もしかしてこの時代、テレビ無いのか?
いやいや、そんなわけ無いだろ。だって、真似て復興したってことは、似たようなモンがあるはずだ。一家に一台以上あった代物が、全くなくなってるってこた無いだろう。
テレビない生活って、考えられねえ。
安ホテルじゃあるまいし、こんな金持ってる所なんだから、テレビの一台や二台、あるだろ。
「ちょっと待った。どこいくの?『アイハラくん』」
部屋を出ようとして、扉を開けたオレに声をかけてきたのは、泉真だった。
「い……泉!もしかして、ずっと扉の外にいた?!」
「えー、いきなり呼び捨ては失礼じゃありませんかね?アイハラくん」
「見張りがいるなんて、オレは聞いてませんでしたけど、イズミく・ん」
イズミはなんか、違和感がねえなあ。話はしてたけど、元々、感じのいいヤツではなかったからな。仲良くなる前は感じよく見えたけど。壁があるんだよ、壁が。サワダみたいに口が悪いわけじゃないけど、根性が曲がってる感じがする。
「見張りじゃないよ。ミハマはそんな性格の悪いコトしません。それどころか、好きなようにさせてあげて、なーんて言うんだよ。うちの王子様は甘ちゃんだからねー」
「じゃあ、何であなたはここにいたんでしょうねえ?」
「ああ、これがオレの仕事だから。怪しきは……」
「罰せよ、でしょう?過激だよねー」
笑顔を崩さないけど、絶対はらわた煮えくりかえってるって、コイツ。
だって、目が超怖い。
「……バカだね、テツは。こんなお子さま拾って来ちゃって。いくら自分が埋めた奴に似てるからって。甘いよね」
「サワダが甘いとは思わないよ。アイツはそんなんじゃないと思う。どっちかっつうと自分に厳しいって言うか」
「んなこたわかってるよ。死んでようが死んで無かろうが、『アイハラユウト』なんか、テツのこと、判ってないくせに。大体テツは、人に甘いから、自分を追いつめるんだ。バカだな」
なんか、ものすっごい敵意を感じるんですけど。
沢田と泉って、仲悪いんかと思ってたけど。こっちの2人はそうでもない感じがする。
でも、こっちのイズミは、明らかにオレに敵意があるよ!
怪しきは罰せよ、って判らないでもないけど、極端はよくないよ、極端は!
「で、どこいくの?」
「退屈だから、なんか無いかと思って。シュウジさんとことかいっぱい本あったし、あと、テレビとかないの?」
「あるけど。……なんて言うの、俗物だね。他にすること無いの?」
「いきなり知らない所に来て、何をしろって言うのさ!」
「どこにいようが、建設的な行動って言うのはとれると思うけどね。テレビとか見て時間潰すだけ?くっだんなーい」
ぐぐぐ……。コイツ……ああいえばこう言いやがって……。オレがなんかしたいって言ったら、なんとかなるってのか?
ちくしょう、結局、扉の前から動けやしない。
いや、それがコイツの狙いだってのは判ってるけど。
「やること、あるよ。ミハマさんは俺の好きなようにさせればいいって言ってくれたんだろ?まず、ミハマさんと話をさせてよ。あの人が一番偉いわけだろ?あんたタメ口聞いてるけど、サワダやシュウジさんと一緒で、あの人の命令は聞くわけだろ?」
「この国で一番ってわけじゃないけどね。まだ父王はご存命だし?」
「でも、あんたよりはエライだろ?だから、会わせてよ」
「ダメ。ミハマは忙しいの。オレはあの人から、あの人の身の回りを守る全てに置いて自由に振る舞う権利を貰ってる。だから、オレがダメっつったら、ダメ。大体、ミハマに会って、何をお願いしようって?部屋にテレビでも入れて貰いたいってだけなら、手配するよ?」
うっわー!この嫌味たっぷりの笑顔!ホンット、感じ悪い。人の逆鱗に触れるの、得意そうだよな。
「『アイハラユウト』の墓に行きたい。それから、トウキョウへ」
さすがに、オレの発言にびっくりしたらしく、イズミはしばらくきょとんとした顔で沈黙してしまった。
別に驚かそうと思ったわけじゃない。(それも半分はあるけど)
でも、本気で、そう思ってる。
オレと同じ顔の……シュウジさん曰く「生まれ変わり」がどこにいるかみたかったし、「トウキョウ」に行けば、新島がいる。こうして、オレのいた世界でも一緒にいる人同士が、この世界でも再び一緒にいるというのなら、きっと新島の側にティアスもいる。
こう言うのをきっと、縁が深いとか、縁がある、とか言うんだろう。
オレがいつも一緒にいた連中と一緒にいたのも、きっと何かの縁だから。
「いいよ。トウキョウは、許可がないと行けないけど、墓なら」
「え!……イズミ……さんが案内してくれるの?」
「ああ。嫌なら、別にぃ?」
「いやいやいや……そんな嫌だなんて、そんなそんな。連れてってください、お願いします」
とりあえず、機嫌とっておかないと、なんかまずい感じだよな。コイツは。
「最初っからそう言えばいいんだよ。もっと自分の立場を弁えなよねー」
うわー、なんか、正しいような気もするけど、このヘラヘラした感じと、人を小馬鹿にした感じがほんっっとーにムカツク!
なんか、前途多難な感じがしてきたぞ……。
恐ろしいことに、イズミに連れられて城(外観はどう見てもウエスティンホテルだけど)を出て、ちょっと距離のある墓場(多分位置的に名城公園だと思われる)につくまで、俺達二人は全く会話をしなかった。
確かイズミって……喋りすぎて沢田とか南さんとかにうんざりされてたような気がするんですけど。さっきも減らず口ばっか叩いてたし。
オレ、相当嫌われてるかも……。(別にオレもこっちのイズミは嫌いだから良いけど)
「テッちゃん!またここにいたのかよ」
遠くに黒い人影が見える。それに向かって大きく手を振るイズミ。どうやらサワダらしいけど、よく判別できるな。全然判らん。
「シン!何でアイハラを連れてきてんだ。コイツは……」
徐々に墓の中にたたずむ黒い人影がはっきりしてきた。
てか、すげえ遠くと遠くで怒鳴り合いながら喋んなよ。他に人がいないから良いけど、みっともないなあ。
「わーってるって。なんか、『アイハラユウト』の墓が見たい、っつってうっさいからさ。仕方なく連れてきたわけよ。オレってば親切☆」
「あっそ。墓なんか見たいの?お前」
「だって、オレの墓なんだろ?」
「……お前のじゃないよ」
そう言いながらサワダはため息を付いた。顔は苦笑い。
「テッちゃんてばまた、墓掘ってた?今はもうないだろ?それに、ここにお前がいるとミハマが気にするだろ?」
「まあ、掘る墓はないけど、掃除くらいはしとこうかと思って」
「良いけどね。それで気が済むならさ。しかし、変わってるね。テッちゃんも、中王の死神様も」
「あの女と一緒にするな」
……なんだよ。やっぱ滅茶苦茶喋るんじゃん、イズミのヤツ。
サワダは、人であまり態度を変えないけど、イズミは分かり易すぎ。
しかし死神女って、どんなだそれは。
「サワダ……さん。死神って、誰?」
「呼び捨てで良いよ。そうやって呼んでたんだろ?……死神っつーのはあだ名みたいなもんだよ。実際は……名前、ないんだっけ?」
「なんか、階級とか、楽士殿とか、死神って名前ならそれで良いとか言ってるらしいけどねえ」
「……その、恥ずかしいあだ名みたいのは、誰が最初につけるわけ?死神てなんだよ」
だっておかしいだろ、死神なんて。恥ずかしいし。リングネームかっつーの。
「さあね。テッちゃんみたく、墓を掘ったり、管理したり、戦争になれば人をさくさく殺してるし」
「その言い方だと、オレも死神って事にならない?」
「他国からみればそんなもんでしょ。戦争になったら、君は一番の難関になるわけだし?まあ、彼女が死神って呼ばれてるのは、風貌とか、持ってる大鎌とかもあるでしょ?」
死神の風貌……。なんか、想像するだけで嫌な感じだな、その女。しかも何でそんな恐ろしい話を墓場でしちゃってるわけ?
墓場……、って言っても、オレが想像していたのとはちょっと違った。あの、お寺にあるような縦長の難しい漢字が並んでる灰色の墓石ではなくて、外国の映画に出てくるような、白くて平たい石がたくさん地面に落ちていた。石にはカタカナで名前と、生年と享年が記してあった。仏教じゃないって事かな。
「なあ、サワダがこのお墓、みんな作ったの?」
「みんなは無理だよ。知らないヤツだってたくさんいるし。穴掘る手伝いをしてるだけだよ。誰も好んで戦死者の墓を掘ろうとしないしね……。自分の身内ならともかく」
「身内ならって、ここは……?そう言えば、何でこんなにホテ……城に近いんだよ?」
「ああ、ここは、オワリ国軍の戦死者、主に軍人だけど、その中でも、身寄りがない遺体が葬られるところだからな」
「神社も寺もないのに?」
「テラ?神社ならあるけど、テラってなんだ?神社は遺体を埋葬するとこじゃないしな」
うーん……。寺には墓があってフツーじゃないのか、日本は?
しかし、身寄りのない戦死者、か……。
「それって、『アイハラユウト』にも身寄りがなかったって事?」
「確かな。身寄りも仕事もないから軍人になった、って言ってたし」
あ、それ、オレ言いそう。とりあえず食ってかなきゃいけないしね。
なんか、絶対別人なんだけど(シュウジさん曰く、生まれ変わりなんだって言うけど)それでも、まるで自分のような部分もあると、ちょっと不思議な感覚を覚える。
もっと知りたいって。
それは多分、サワダが少しだけでも、死んで埋められたオレに対して心を残してくれているのが判るから。
単純にサワダが優しいだけなのかもしれないし、ここに埋めたヤツ全員に同じくらい思いを残しているのかもしれないけれど。
それでも、死してなお、誰かの心に残るのって、どんな風なのか、オレは知りたいし……そうなりたい。
「サワダ、アイハラユウトの墓の場所は?」
「ああ、こっちだよ」
そう言って何の迷いもなく案内してくれる彼の背中をみて、心が満たされる感覚を覚えた。
きっと彼は、ここで彼が埋めた全ての人を覚えているかもしれないけれど。
それでも、アイハラユウトは彼の心に残っているのだ。
サワダの後について、墓の中を歩いていく。
この中に自分を含めてたくさんの死体がいるかと思うと、正直いい気分じゃない。実際、オレってば盆も正月も墓参りとか行かないしね。
「テッちゃん、よく覚えてんね、こんな広いとこ」
「大体だよ。一個一個覚えててたまるか」
いや、大体でも……すごくない!?めちゃくちゃ広いし、ほとんど目印とかないし。自分の関係者一個だけ、とかなら場所も覚えてられるだろうけど……。
あ……、それすらもないんだ。この墓場は。
身寄りがいないって事は、人が来ないって事で……。
今日だって、こんなにいい天気なのに、ほとんど人がいない。
身寄りがいないって、こう言うことなんだな。死んでも、誰も引き取ってくれない。引き取れない。
オレ……「アイハラユウト」も、そうだったんだな。
「ここに埋まってるのって、軍人ばっかり?」
「オレが埋めたのはな。一般人も一部混ざってるよ。解放されてるからな」
「軍人はって言ってたけど……サワダ一人で埋めてんの?」
「昔は。今は何人か手伝ってくれる人もいるよ」
「ふうん。何で、あんな雑誌にまで載っちゃうような軍人が、墓掘りなんかしてんの?」
「アイハラくん、うっさいよ、君。ちょっと静かに歩けんの?」
……うっさいのはお前だよ、イズミ。何でずっと付いてきてんだよ、もう。サワダが案内してくれるから、もういらないっつーの。
「言いたいことがあったら口に出していった方が、ストレスたまんなくて良いと思うよ?」
しまった。顔に出てたし。
サワダも、さっきまでオレの質問に答えてたくせに、無視してどんどん歩いて行っちゃうし。
オレ、なんかまずいこと聞いたかなあ?
「アイハラ、これが、『アイハラ』の墓」
そう言って、足下の墓石を指す。何だか、表情が固い。
オレがサワダの顏ばっか見てたせいか、サワダの指がさっさと下を見ろとばかりに強く動いた。
墓石には予想通り、カタカナで「アイハラユウト」って書いてあった。18歳。オレと同じ歳。でもまあ、オレは軍人じゃないから……。
「親衛隊?……大尉。これが階級?」
「ああ、殉職したから、2階級特進したんだ。王子付きの親衛隊に所属してたんだ」
「王子……ああ、ミハマさんか。王子を守る仕事をしてたって事だろ?サワダ達もそうなの?」
「いや、オレもシンも親衛隊には所属してない」
「階級も全然違うしね。オレもテッちゃんも『中佐』待遇だし。本当なら、そんな偉そうな口聞けないのよ?君ごときじゃ」
そんなの、ここのアイハラユウトの階級なんか、オレには関係ねーじゃん!オレ、一般人だし!
コイツ、何でこんなにオレに対して喧嘩腰!?嫌味大魔王!?
……しかし、今のオレにはそれすらも言えないのか……。
だって、イズミ怖いんだもん。どう考えても体力的にもかないそうにもないし。(オレは平均身長だけど、イズミは180越えてるしね……)
「『中佐』相当官なだけで、実際はそんな上の階級じゃねえって、オレ達の年齢じゃ。大体、シンは士官学校すら出てないくせに」
「テッちゃん、そゆこと言う?!あんな恐ろしい学校、行きたくないよ」
「じゃ、なんでそんな偉そ……もとい、偉い階級が付いてんの?二人とも」
イズミがサワダから目をそらし、オレをじろっと睨んだが
「テッちゃんは王族だから、まあこんなモンだけど?」
イズミはちらっとサワダを見たが、彼は目を合わすことなく、話をはじめた。
「オレ達は、王子直属の特殊護衛部隊って名目で集められてる、軍の組織とはちょっと離れた部隊なんだ。とはいえ、軍人だから階級はあるし、でも王子直属だから、階級が極端に低いのもまずいって事で、特例なんだ。この年で士官学校を早めに出たヤツならアイハラの階級は悪くないさ」
悪くない……。まあ、フォローされてるな。しかし、士官学校って金かかんないのかな?アイハラユウトは金も仕事もなかったはずだけど。
どんなヤツだったのかな?こいつ。
何だか、ホントに自分を探してる気分になってきたよ。
「ねえ、このアイハラユウトって、どんなヤツだったの?」
「さあ、あんまり知らない」
「は?」
サワダからの意外なお返事。てっきり、イズミがまたあの意地悪口調で言ったのかと思いきや。
「親衛隊のヤツらに聞いた方がいいよ。一緒に戦ってたから。オレは少し話をする程度だったし」
なにそれなにそれ。ちょっと話しただけのヤツを、墓に埋めるわけ?!顔もしっかり覚えてて……?何だよそれ!
「親衛隊には、オレから声かけといてやるよ。ミハマに好きにしても良いって言われてるしな、コイツは。親衛隊くらいなら……」
「テッちゃん、それは親切すぎやしない?確かに親衛隊のアイハラユウトは死んだけど、コイツは生きてるんだよ?」
「生きてる人間にも死んでる人間にも気を遣うのは当然だろ?それに、親衛隊はコイツと同じ顔をイヤってほど見てるんだから、事情を話しておいた方が、トラブルが少ない。下手に勝手に動かれて、トラブルでも起こされたら事だ」
「そうだけど……、死人だと思って、優しくしすぎだ。こんな得体の知れないヤツ」
死人だと思ってって……。どういうことだよ。
「っとに、テッちゃんはバカだ。ミハマが怒るよ?」
「生きてる人間に気を遣うのに、怒るかよ、アイツが」
なんか、ちょっと、いい雰囲気じゃないよ、な?
イヤな感じだよ。
めんどくさい。アイハラユウトが墓から出てきて教えてくれればいいのに。
何でサワダは、お前のことをこんなに覚えてるんだよ。何も知らないくせに。
「イ……イズミは、知ってたのかよ、アイハラのこと!さっきなんかいろいろ文句言ってたじゃんか」
「呼び捨てにすんな。さん付けか階級付け推奨ね!君は。別に、アイハラ大尉のことなんか、オレは知らない。オレが知らないって事は、テッちゃんも知らないし、その程度の人間がこのひねくれた根暗男のことなんか知るわけがない。ミハマくらいだよ、誰にでも優しくて、誰でも受け入れてくれるのは」
なんか、やっぱり喧嘩腰な上、酷いことを言われてる気もする上に、話を逸らすのにも失敗した気がする……。
アイハラユウトのことも知りたいし、この世界のことも知っといた方がいい気もするし、こいつらともコミュニケーションとっといた方がいい気がするけど、この二人の雰囲気に耐えられない。
何でこんなにこいつらの持つ空気は重いんだよ!
別にきつい口調でもないし、さっきまでのような冗談ぽい言い方なのに、空気が重い。
内容も、なんかあんまり良い方向に行ってないし。
「ミハマさん……なら、知ってる?コイツのこと」
暑くもないのに、オレはだらだらと汗をかいていた。
その汗を指先からとばすばかりの勢いで、オレの墓を指さす。
「多少ね。自分を守ってる連中とは、ちゃんとコミュニケーションとってたからさ」
「……イズミやサワダはとってないんだ。まあ、イズミはヘラヘラしてて笑顔だけど、喧嘩腰だから無理かも」
「さん付け推奨ねって言ったろ?失礼なこと言うんじゃないよ。ちゃんととってるって、この根暗とは違って」
「根暗って言うな」
あ、ちょっと、雰囲気が良くなった。
「ただ、他の連中がどうでも良いだけだよ」
前言撤回。
そう言ったイズミの不敵で含んだ笑顔が、とてつもなく怖かった。
イズミと墓に来たのは、もしかしたら失敗だったかも。
ここまで雰囲気が悪くなるとは思わなかった。
いや、サワダとイズミが揃ったからなのかな。
てっきり同じ顔だし、同じようなしゃべり方だし、同じような人間に見えちゃってんだよな。違うって、もう判ってるんだけど、時々。
シュウジさんも生まれ変わりとか何とか言うし。
「そっくりかもしれないけど、全く違う人生を歩む、別人。そっくりだと思ってるのは、おそらくあなただけです」
勘違いをしちゃダメだ。多分、あのシュウジさんの言葉が真実に一番近い。
オレが、オレだけが、ここでは異端に思われてるし、思ってる。
オレは何とか生き延びて、元の時代に戻りたい。
だって、ここのイズミとサワダの重い空気を感じてたら、あっちの二人の仲の悪さなんて、猫の喧嘩程度にしか見えない。
こっちの二人はゴ●ラ対メカゴ●ラだ。(実際、あの恥ずかしい雑誌の記事を見る限り、それくらいの破壊力は持ってそうだけど)
「テツ!シン!やっぱりここにいた!」
その叫ぶような呼び声を聞いて、サワダとイズミの間に流れていた重い空気は一気に軽くなる。本当に、プレッシャーから一気に解放されたような、分かり易すぎる変化だった。人と人との関係とか空気とかって、すごく気をつけてないと判らないと思ってたけど、この二人はこんなに判りやすくて良いんだろうか……。
でも、このプレッシャーから解放されたのは、ホント助かる!まるで天使!救世主!
いや、キラキラ王子様か!?
まだ、遠くにいるので顔が判別できないけど、あの薄い色の長髪と、モデルみたいに長い手足、なによりあの華やかさ。これが王子様のオーラってヤツか?!はっきりと誰か分かるって言うのもすごい。服装は、フツーなんだけどな……。
こちらに手を振りながら走ってくる様は、ほとんど昔の少女漫画だ。モテそう……。
後ろには二人、くっついてきていた。
一人はさらさらロングの美人(どっかで見たことある……)と、軍服に身を包んだ青年。なんか、警官みたいで怖いな。外でサワダが持っていたようなでかい剣ではなかったけど、腰に剣をぶら下げてるし。なにより、グレーともブルーともつかない色の、かしこまった軍服は、それだけで威圧感がある。
歳も結構上かな。多分40近いと思う。筋肉質で異常に姿勢がいいせいか、おじさん臭くはない……。
突然、軍服の男に敬礼をするサワダとイズミ。二人は私服(しかもかなりカジュアルなコートとか着てるし)だったので、何だか違和感があったが、先ほどのにらみ合いにも似た緊張感が二人を包んだ。
オレ……敬礼した方がいいのかな。
「サワダ中佐。元老院のナカタ議員がスズオカ准将とともに元老院まで参上するようにと」
「ソノダ中佐。……私とスズオカ准将だけですか?イズミ中佐とミナミ中佐は?」
「いえ、結構です。ナカタ議員はお二人だけを、と……」
「大丈夫だよ、オレも呼ばれてるから」
ソノダ中佐と呼ばれた男は、にこやかに答えたミハマさんの態度に、眉をひそめた。
仮にも王子様じゃないのか。
「……その子が、サワダ中佐が連れてきて、王子がかくまっている少年ですか?……どこかで見たような」
「あれー?そのことでもしかして呼び出しですか?さすが、王宮内での出来事にはお詳しい」
にやにやしながらそう言うイズミを、ソノダ中佐は睨み付ける。でも、正直、威圧感のある人だけど、さっきのゴ●ラ対メカゴ●ラの恐怖を思えば、大したことはなかった。
ホントにあのプレッシャーは何だったんだ、怪獣二人組……。
「殿下の教育係も兼ねておられますから、王子の行動にお詳しいのは当然です」
「『王子の教育係』はもう随分前にスズオカ准将が引き継がれたじゃないですか?大体、もう王子も子供ではないわけですし」
イズミ、怖いよ、お前。何で顔はにこやかなのに、そんなに怖いんだよ。しかも喧嘩腰。
「ナカタ議員はこの国のことを考えておられるだけです。王もご高齢ですし、王子にもっとしっかりして欲しいと思っておられるのです。トラブルの種をわざわざ連れ込むようなマネを……、サワダ中佐までご一緒になさってては、お父上であられるサワダ議員も……」
「あー、オヤジは関係ないんで……いや、父のことも、相続のことも、護衛部隊に所属する私には関係ありませんから」
サワダも、うっそくさい笑顔だな、おい。こんなに判りやすく仲が悪くていいのかよ。
さっするに、王子の特殊護衛部隊のサワダやイズミと、ソノダ中佐が肩を持ってる元老院ってのは、王子であるミハマさんの事を巡って対立してるって事か。
もしかして、オレ、その出汁に使われてる?
それにしてもなんか、サワダが辛そうだな。作り笑顔の気持ち悪さもあれだけど、父とか、相続とか、めんどくさそうな単語がいっぱい出てきた。要は、父親と対立してるって事だよな。
サワダのお父さんって言ったら、こんなでかくて生意気な子供がいるとは思えないくらい若くてかっこよくて、しかも大学の助教授で、受験の時に沢田のコネで2、3回しか会ったことがないけど、なんか友達みたいに(歳が近いのもあるけど)仲が良い親子だなと思ってたけど……。
「ソノダ中佐、もう、伝令は良いだろ?任務終了。ナカタ議員には後で向かうって伝えといて」
「しかし殿下、ナカタ議員はすぐに、と……」
「悪いね。オレも忙しいからさ。元老院も、今、忙しいはずだけどね?中王から召集令が出てるはずだよ?」
「……ですから、余計にすぐに、……です」
「片づいたら行くよ。ちゃんと准将も中佐も連れてくから」
完全に笑って誤魔化した。
「殿下の護衛は我々が行いますから。戻ってナカタ議員にご伝言を」
ミハマさんと一緒に来た女性が、ソノダ中佐を促した。
凛とした雰囲気に飲まれたかのように、ソノダ中佐はまわれ右して歩き出そうと動く。
「……その少年、親衛隊の大尉によく似ていませんか?」
「他人のそら似じゃないですか?」
イズミの答えに、ソノダ中佐は再び振り向くことはなく、立ち去った。もしかして、フォローしてくれた?イズミが?!
いや、オレのフォローをしたわけじゃないか。
ソノダ中佐が立ち去り、姿が見えなくなったのを確認して、ミハマさんと一緒に来た女性以外、全員でため息をついた。
空気が重いっつーか……やな感じだったなあ。
「ミハマ!仕事はどうした!?忙しいとか言って、すぐそれをいいわけにする!」
「あ、やだな……シュウジみたいなこと言っちゃって」
緊張感がとけた途端、いきなり怒鳴りつける(でも顔は怒ってない)サワダの態度に、ミハマさんは思わず一緒に来ていた女性の後ろに隠れる。
ずっと気になってたけど、この人、どこかで見たな……。
オレがこんな美人、忘れるわけない。
表情は固いけど、何つーか、クールビューティーという言葉がぴったりで……。ストレートのさらっさらの長髪に、ゴルチェっぽいイメージの黒のニットとスカートが、いい雰囲気だ。(サワダもイズミも私服だし。軍隊じゃないの?この人達?!)
「あー!南 紗来さん!」
「……?何故、私のことを?これが噂のアイハラ大尉のそっくりさんなんだろう?」
オレのこと指さしちゃうか、あんたは……。思わず力が抜けちゃうよ。
「あー、この人、ストーカーなの。気にしちゃダメ」
「イズミ!何でそんなあること無いこと言うんだよ!むかつくな!大体、お前がこの人紹介した上で、釘指したんだろ!?『手えだしたら……』」
身長差と体力差がずるい!
イズミはオレの口を無理矢理手で塞ぎ、そのまま頭を持って持ち上げて上下に振り回し、南さん達から距離を取る。
その間、多分2秒くらい。
「……『殺すよ?』だろ?」
「……すみません、もう言いません。イズミ中佐」
あっちの泉は、もっと優しく言ってたって!『冗談』って顔だったって!この人は本気だよ!怖すぎる!
「そんなこわがんなよ、冗談だって。お前みたいな弱そうなヤツ、オレはホントにどうでも良いんだから」
弱そうって……。
なんか、引っかかるよな〜。
「シン。あんまりアイハラのこと、いじめちゃダメだって。アイハラ大尉とは別の人なんだよ?判ってる?フツーの子なの。軍人じゃないし、君の敵でもない」
ちょっと困った顔でミハマさんがイズミをたしなめる。
イズミはオレの腕も引っ張り、無理矢理彼らの輪の中に連れ戻したと思うと、わざとらしくオレと肩を組んだ。
「判ってるよ。ほら、仲良し仲良し」
「判ってないよ」
ミハマさんの言うとおりだ!お前のウソなんか、このキラキラ王子様にはお見通しだっつーの!
「でもミハマ、オレの敵かどうかなんて、判んないじゃーん♪まあ、敵にもならないけどねー、アイハラくん」
「シン、離してやれって。なんかいじめっ子みたいになってるぞ、お前。ミハマが怒るぞ」
見かねたサワダが、オレとイズミの間に入ってくれた。軽く手を入れ、引き離してくれる。
「まだ怒ってないよ」
「殿下、顔が怒ってますよ」
殿下……。ああ、ミハマさんのことか。サワダもイズミも呼び捨てだったから、あんまり階級差を感じなかったけど、ミナミさんの態度はその、感じなかった部分がはっきりする。確か、イズミより結構年上だった気がするし。
「……ミナミさん、で良いですか?あなたも、王子の護衛部隊の方?」
「おいおい、アイハラくん、随分オレの時と態度違うし?」
当たり前だっつーの。オレだって人を見て態度を決めるわ!
「ええ。ミナミ サラ 中佐待遇です。実際は大尉ですが」
表情の固い人だな。ものすごい美人だけにもったいない。
それに、階級なんて言われても、よく判んないよ。とりあえず、この人達は王子付きだから特別って事くらい。
でも、大尉って事は、殉職して2階級特進したこっちのアイハラユウトと同じか。
サワダのさっきのフォローを考慮して、ミナミさんの年齢が多分22歳くらいだとして(確か4年生のはず)、もしかして優秀ってこと?これも特別扱い?
「いいよ、そんなの。どうせ元老院とかあの辺りがうるさいだけだし、実際の権限は中佐扱いなんだからさ。めんどくさいよね、王太子付きにするなら階級が低すぎるって言ったり、まだ若すぎるのに出世はさせられないって言ったり」
「ですが、軍に所属している以上……」
「良いの、サラはオレ付きの護衛官。そんだけ」
あれ、彼女、笑った……。すっげー可愛い。
愛想笑いが苦手って事?それとも、ミハマさんの前だから?
「悪いね、アイハラ。ここにいるとちょっと堅苦しいと思うけど。軍とか持ってるし、いろいろな人たちがいるから……仕方ないって言うか。ホント、大変だと思うから。今、外で暮らせるとこ、探して貰ってるから、ごめんね」
……そういうこと?てっきり、ただの厄介払いかと思ってた。
ミハマさんて、いい人だな。好きにして良いって命令出したり、オレが王宮にいなくても良いように、住める所探してくれたり。でも、せっかくの好意だけど、やっぱオレは元の時代に帰りたい。
だって、いくらこの王宮から出たって、この時代が危険で、オレに合わないのは確かだ。
だって、顔とか性格が似てるって言うのは別にしたって、サワダやイズミはオレと同じ歳なのに、戦争とか、戦いとか、恐ろしい世界に首を突っ込んでる。
そんな世界にはいられないし、いたくない。
「アイハラ、どうしたい?君は」
「……いえ、別に」
帰りたい、でも……。
ミハマさんは、好意でしてくれてる。それに、立場もある。
シュウジさん達に言われたときはよく判ってなかったし、サワダやイズミは友達みたいにしてる。でも、ミナミさんのように考えてる人もいる。
オレが思ってるより、ミハマさんて大変なんじゃないの?
なのに?何で簡単にそう言うこと言うんだよ。
一番偉いわけじゃない、面倒くさいことがいっぱいある、堅苦しい、大変だと思うけど……って、全部あんたのことじゃん。
簡単に、我が儘なんか……言えないんじゃないの?これ……。
ミハマさんは、オレに笑顔を見せてくれた。
それが、どういう意味なのか、よく判らない。
いろんなこと、誤魔化してんのかと思ったけど、そう言うわけでもないんだな。ちょっとだけ、感じた。
「シン、アイハラになんか言った?」
「あ、酷いなーミハマ。オレのこと疑ってんの?」
「ううん。疑ってないよ。オレのこと、考えてくれてんだって判るけど、やりすぎは良くないって言ってるだけ」
「……決めつけてんじゃんよ!オレ何も言ってねえって」
「信じてあげたいけど、アイハラがこんなにシンに対してびくびくしてるの見ちゃったらなあ……」
イズミ、そこ、オレを睨むとこじゃないって。
何でもお見通しかよ、この王子様は。
「サワダ、オレのせい?呼び出し」
なるべくミハマさんに聞こえないように、オレはサワダの側に行って聞いてみた。
「……否定はしないけど……、まあ、いつものことだよ。犬猫拾うのとはわけが違うからな」
「拾うんだ」
「責任がとれないものは拾わないけど。まあ、お前はちょっと、特例だな。いきなり放り出すのもアイツの性格じゃ出来ないよ」
うう……サワダが、オレに気を遣ってんのかミハマさんに気を遣ってんのか(多分両方だけど)、言葉を選んで喋ってるのが判る。
それが余計に悔しくて、辛い。
なんだかんだ言って、口は悪いし、やな所もいっぱいあるけど、やっぱサワダはイイヤツなんだよな。
それが嬉しいし、悔しい。多分、これは単なる嫉妬なんだけど。いや、こっちのサワダに嫉妬しても仕方ないんだけど。
「アイハラ」
ミハマさんが、俯くオレの目の前に来ていた。
「テツもシンもサラも、オレの護衛部隊と呼ばれる人たちはね、ただ、オレのためだけを考えて動いてくれてるんだ。オレのことを守ってくれてる、ただそれだけ。オレは彼らに命令もするし、指示も与えるけど、それら全てを強制する事はしたくない」
「強制しないって?だってそれって、この人達にとってはあなたが一番偉いって事だ」
「そうだね。でもオレは彼らには自由にして貰ってる。だから彼らはオレに意見もするし、オレの行動を制御するし、オレの言葉と違うことをすることもしょっちゅうだ。でも、それは彼らがオレのために動いてることで、オレはその意志だけで嬉しい。それで良い。だから、それを理解した上で、オレの言葉を聞いて」
何だよ、何が言いたいんだよ。
何でこんな、オレ、冷や汗とか流してんの?!息が苦しい。
どうして誰も、何も言わないんだよ?サワダも、ここはつっこむところだろ?イズミだって、お前のしたこと……。
イズミのしたことも、サワダやシュウジさんの態度も、全て知ってて、受け入れて、その上でってこと?
ミハマさんは目を伏せ、再びオレの目を射抜いた。
「君は、どうしたいの?」
「……元の時代に戻りたい。その方法を……探したい」
オレが振り絞った言葉に、サワダが軽く首を振った。
「……なにも手がかりはないし、オレは言っただろ?『滅びることが判ってる時代』に戻ってどうする?」
「だから、すぐ滅びるわけじゃないし、オレの場所は……」
「そうだね。君の場所はここじゃないと思うよ、オレも」
ミハマさんは、理解してくれてる……。
しかし、そこに割り入ってきたのはイズミだった。
その行為は、まさにミハマさんが言った通り、彼の臣下でありながら、彼に意見するものだった。
「ミハマ、聞きたかったんだけど、君はそのアイハラ大尉のそっくりさんを拾ったの?懐に入れるの?オレ達みたいに。オレは、そんな親衛隊にいたような顔のヤツはイヤだし、時間旅行者だか何だか知らないけど、知りもしない、撮った記憶もない写真やら話やらを語るようなヤツは気持ち悪い。オレは……」
「拾ってもいないし、懐に入れるつもりもない。正直、アイハラをオレの懐に入れても、オレは多分責任はとれないし。責任をとる気もないよ、酷い言い方かもしれないけどね」
うん、酷い言い方。今までのミハマさんとのギャップにびっくりしたって。確かに、気を持たされても困るけど、責任をとる気もないって言い方はどうよ……。
「でもさ、オレは逆にね、ここにいるアイハラが、テツやシンと何らかの関わりを持ってたから、それがそっくりなだけの別人だったとしても、少しでも彼の助けになってあげようと思ったんだ。シュウジが言うような『生まれ変わり』がホントにあるなら。こう言うの、多分何かの縁だって思うんだよ。面白いだろ?元々全然関係なかったはずのオレ達が、ここにこうして集まってるのが、過去からつながる何かの縁だとしたら、オレは嬉しい。オレには、アイハラは「アイハラ大尉」のそっくりさんじゃなくて、オレ達の縁を教えてくれる存在みたいに思ってる」
「だから、自由にさせてやるって?」
ため息をつきながらそうぼやいたのはサワダだった。噛みついたはずのイズミはあきらめ顔で黙っていた。
「うん。それがアイハラの意志なら、そうさせてあげたい。それは、オレ達がどうこういう問題じゃない。誰かがどこへどう進んでいくかなんて、自由で勝手な行為だ。それを邪魔するのも自由だし、手助けするのも自由だ。だけど、意志すらも封じ込めるようなことはしたくない」
「お前の意志は、手助けしたいってこと?」
「どんな結果になってもね」
ミハマさんの言葉を、少しだけ理解出来た気がする。
そして、彼が突き放したように言うように、どんな結果になっても、それはオレの意志で起こした出来事で、責任はオレにある。
「オレを手助けしてくれるなら、トウキョウに連れてってください」
「トウキョウ?いいけど、何でまた?」
ミハマさんに答えを求められるが、首を振るイズミとミナミさん。フォローしてくれたのはサワダだった。
「中王正規軍の中に、知り合いがいるんだと。多分、死神にくっついてるヤツだよ」
ちょっと待て、サワダ。死神にくっついてるなんて、そんなことオレが聞いたときには言わなかったじゃないか。
要するに、誤魔化してたってことか?
「そっか、あの人の側にいるんだ。……オレは、あの人は好きだけどな。テツもだろ?」
「別に。さっさと戻るぞ。呼び出し食らってんだから」
「はいはい」
そんな二人の様子を見て、イズミとミナミさんが子供を見守る夫婦のように笑ったのが印象的だった。