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第0話

 地球から来た男。

 昔、読んだ小説。酷く印象的にオレの頭に残っていた、あの話。

 オレの大好きなあの作家。

 「ここ」は絶対、確実にそんな世界。

 じゃなきゃおかしい!


 そう思ってしまえる柔軟すぎるオレの頭がちょっと憎い。


 だって、意識を失ってて、はっと気が付いたら、いつもの行きつけのスタバ。

 いつも陣取る店外喫煙所。隣には同じクラスのそれなりに仲よしこよしのお友達。

 いつもみたいに何処に行こうか騒いでたはず。

 でも隣にいたヤツはどうも違うらしい…。


「誰よ、お前?てか、何でいきなりオレの隣に座るわけ?」

「てか何言っちゃってんの?沢田……」


 どうもマズイコト言ったらしい。目の前にいる、クラスメートのはずの男の纏う空気がかわった。


「なんでお前、オレの名前……?」


 と言った所で、沢田(らしき人物)はしばし考えこんだ。

 どうみても沢田だよな…。

 黒髪黒目の嫌味なくらいの美形で、何とかっていうタレントに似てるとかで(オレより背が低いくせに)やたらモテて…。


「まあ……顔しってるヤツがいてもおかしくないか」


 なにそれ。

 有名人てこと?沢田のくせにナマイキな。ちょっとモテるからって。


「しかし図々しい、いきなり呼び捨てか」


 そう言われてもどうみたって沢田だし…。


「お前、名前なんつーの?アイハラユウトっていうヤツ知らない?」


 オレの名前だっ、それは〜!!



 ってウッカリ叫んでしまいそうな所を抑えて…。

 だって、この人、よく見たら危ないよ!沢田みたい(つーかそのもの)だから油断してたけど、こ…コスプレイヤーか?

 フツーの学ラン、フツーの髪型、いつもの騒がしいスタバ。

 なのに、その剣!

 何、背中にしょっちゃってんの?!おかしいだろ?


 ……落ち着いて辺りを見渡すと、沢田の他にも武器らしき物を携帯してる人は何人かいた。

 なんか……物騒な感じ。

 コスプレのがまだマシかもしれない。だとしたらドッキリとか…(誰が何のためにだよ)


「き…奇遇だよな、オレもアイハラユウトっていうんだ。漢字は、勇気の勇に漢数字の十で…」


 沢田はなぜか不思議そうな顔でオレを見ていた。


「何かオレの顔についてる?」

「いや、何を怖がってるか知らんが、意味語まで教えなくていい。とりあえず敵意がないのはわかったから」

「意味語……?何?漢字の事を言ってる?」

「…知らない?嘘だろ…どっから来たんだよ?てか、いきなり隣にいたしな」


 敵意がないのがわかったなら、もうちょっと柔らかい態度をしろよ。

 でも、あのしょっちゃってるデカイ剣(たぶん沢田よりデカイ)でさっくり斬られてもやだしな…。


「あー、もうなんかオレじゃ判断できねえや。めんどくさい、はっきりしろよ」

「な…なにを?」


 嫌な感じじゃない?


「うちの親衛隊にいた男と同じ名前、同じ姿。それだけでも怪しいのに、わざわざこのオレに近づいた……」

 うわ…ありえない!

 何、この重圧。なんか…目の前にいるのは沢田の姿をしてるのに、まるで巨大な獣の前にいるみたいだ……。


「何者だ?」

「オレが…知りたいよ。オレは何も判らない。沢田……さんの知り合いのユウトはどうなったんだよ?」

「死んだよ。こないだの内乱で」

「な……内乱……」


 めちゃくちゃ物騒な言葉を聞いた気がする…。

 戦争してるから、こんな…。

 地球から来た男、なんてカッコイイこと言ったけど、なんでこんなことに…。

 どうしてオレはこんなところに?

 思いだせ、沢田の隣で気がつく前にどうしてたのか!


 ……。

 ヤバイ、全然……思い出せない。記憶とんじゃってるよ。


「思い出せない。どうしても……。それに怖い」

「怖い?」

「アイハラユウトが死んでるっていうことが。何かオレが死んだみたいだ」

「お前は生きてるだろうが」


 オレの言葉に沢田は呆れたようにため息をついた。

 オレ達の間に流れていた、オレを押し潰していた重い空気が少しだけ軽くなった。


「オレが墓を掘った」


 唐突に沢田はそう言った。


「……オレじゃ判断できない」


 沢田が何を言おうとしてるのか、わからなかった。


「怪しきは罰せよっていわれてるし……シンに」

「真?!泉真のこと!?」


 しまった……。沢田の顔色が明らかに変わった。地雷ふんじゃったか?


「シンのことは、なんで知ってんの?ホントに何処からきた?」


 彼の纏う空気が、再びオレを押し潰す。

 内乱、戦死、武器らしき物の携帯。

 あまりにかけ離れた世界の言葉が、目の前でオレの友人の姿をとって迫ってくる。


「待てよ。オレ、ホントに何も判らない……。沢田も泉もオレの友達で……、ここにいるのは偶然っていうか、オレだって判らなくて……」


 どうしよう。どうしたらいい?

 今、オレが何処にいて、どうしてここにいるかは全部おいといても、この状況はヤバいよ。

 だってどう考えても目の前にいるヤツは、オレの知ってる沢田じゃない。

 オレの知ってる沢田は、ピアノばっか弾いてて、こんな血生臭い感じはしなかった。

 戦争なんか、違う国の話だったから、当たり前だけど。

 ああ、ドッキリだと思いたい……。


「……お前が嘘ついてるようには正直見えないけど、シンのことまで知ってるとなると……。

 ……なんだ?どうした?」

「今……何時?」

「何時って……。何だよこんなときに。…そういや白夜だから、ウッカリしてたな。もう8時近い」


 沢田は腕時計と携帯を交互に見ながらそう言った。

 しかし、白夜って……??


「ここ、日本だろ?愛知県だろ?」

「アイチケンてなんだよ。ニホンはニホンだけど。外から来たみたいなこと言うなよ」

「だって、白夜て、こんな北半球の真ん中でありえないだろ!北欧でもあるまいし」

「知るかよ。現にそうなんだから、仕方ないだろ?あーもう、早く戻らないとミハマに怒られる。めんどくさいから、お前も一緒にこい。アイツに判断を任せる!」


 その瞬間、オレははっきりと理解した…というかさせられた。ずっと疑いながら、ドッキリであることを祈りながら、過ごしていた。

 でも、自然までは変えられない。

 ちょっとした違和感、くらいで済んでいたのが、あまりにもスケールのデカイ話になってしまった。


 ありえない。こんな超常現象。


 さぁっ……と目の前が暗くなったかと思ったら、身体中の力が抜け、その場に倒れこんでいくのが判る。

 多分、一瞬の出来事のはずなのに、その感覚はいやにスローだった。

 隣にいたはずの沢田の声が随分遠くに聞こえる。

 また、目が覚めたら、オレの知らない所に、似て非なる世界にいるのかな……。

 妙に冷静にそんなことを考えながら、意識が遠くに行くのを感じた。

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