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第3章17
「父はいつものように仕事を終え、屋敷に帰ってきました。そして、疲れたから今日は早めに寝ると言って、寝室に入って行ったのです。それから、2時間程、経った頃でしょうか。父の寝室から、異様な呻き声がしました。何事かと思い、寝室の扉を開けると、父は私に襲い掛かってきました。私は何もわからぬまま気を失い、次に目覚めた時にはこのような体になっていたのです。」
ケタミンはスカートをたくし上げ、右足のソックスを下ろした。
「義足!?」
ナトリウムが思わず声をあげた。
声こそ発しなかったが、驚いたのはカナも同じだった。
ケタミンの右足は、膝から下が木製の義足で出来ていた。
「あ、すみません…。」
ナトリウムは慌てて謝罪した。
「いえ、良いのです。これが事実ですから。」
ケタミンは静かにそう答えた。
「確かにそうだな。魔人に遭遇して、無傷でいられるわけはない。むしろ命があったのが、不思議なくらいだ。」
ダンは魔人の恐ろしさを知っている。それはカナも同じなのだが、実はカナ以上に警戒しているのはダンだった。