第3章10
王城の入口までくると、ダンとカナはやはりどこぞの馬の骨とも知らぬ者として、止められてしまった。
ダンが魔術師とは思えぬ恰好をしているためである。
仕方なしにダンは、魔法の実演(小さな火炎魔法で薪に火をつける)をして、魔術師である事を証明した。
すると、今度は反対に「我が王に会って下され」と、泣きつかんばかりに急かされて、謁見の間へと通された。
謁見の間は、天井が高く、赤い絨毯が王座まで敷き詰められていて、美しい作りになっていた。
王座に座る王は老齢だが、活力に満ちた人物で、その全身からは覇気が伝わってくるようである。
王妃は既に亡く、王の隣は空席となっている。
「よく来たな。レプトスピラの使者達よ。」
王はナトリウムだけでなく、ダンやカナもレプトスピラの者と勘違いしているようである。しかし、面倒なので、いちいち訂正しなかった。
「レプトスピラの王と王妃は元気にしておるか?」
今は亡きレプトスピラの先王は、クロストリジウムの先王の側室の子であった。つまり、現クロストリジウム王の異母弟である。レプトスピラ王妃から見て、クロストリジウム王は伯父にあたり、ナトリウムとも血縁関係がある。
「はい。王も王妃もこの上なく元気にしております。」
「それは何よりじゃ。王妃からの書状を預かってきているそうじゃな。」
「はい。こちらに。」
ナトリウムは、王妃からの書状を差し出した。
クロストリジウム王は、それに素早く目を通す。
「レプトスピラにも、随分と心配をかけてしまったようじゃの。」
クロストリジウム王は、書状を折りたたんで傍にいた側近に手渡した。
側近はじろりとダンを睨んだ。側近は賢者のロープを身にまとった50代くらいの男である。この国の宮廷魔術師のようだ。猫背で卑屈な印象を抱かせる。