第3章5
「して、賢者様が何故そのようなお姿に身をやつしてこのような場所に?」
別にダンは身をやつしているわけではなく、普段からこんな恰好なのだが。
「お前には関係ないだろう。俺達もお前がこんな所で何をしていたか、詮索しようとは思わない。体力が回復したなら、さっさと行け。」
ダンはどこまでも素っ気ない。
「いいじゃないか、ダン。別に秘密の旅ってわけじゃないだろ。」
カナが口を挿む。
「私達は退治屋だ。魔獣退治の依頼を受けて、魔獣化カラスの退治に来たその帰りだ。あのカラス達は街まで下りて、悪さするって事で、依頼主は困っていたみたいだ。後はレプトスピラの城下町に戻って、依頼主にあそこにあるカラスの死体を見せて、報酬を受け取るだけだ。」
カナの指した先には、数羽のカラスの死体が積まれていた。
「そうでしたか…。」
ナトリウムは少し気落ちしたように項垂れた。
「賢者様達の目的も、私と同じだと思ったのですが…。」
「同じ?お前はなんの目的で、こんな所にいたんだ。」
その問いに、ナトリウムは驚くべき言葉を口にした。
「クロストリジウムで人の魔獣化が相次いでいるという情報が入ったんです。」
魔獣化した人間…魔人は、10年前のあの日以来、出会っていない。それくらい人間の魔獣化は珍しいのだ。
「いずれも討ち取られたそうですが、その度に多大な被害をもたらしたとか…。しかも魔獣化した者達は、特に瘴気の濃い場所に行ったわけではなく、普通に生活していて、突然、魔獣化したようです。詳しい情報を求めて、私は今からクロストリジウムに行くところなのです。」
「でも、こっちからクロストリジウムには行けないぞ。お前、王都から出発したとしたら、全く、逆方向だ。」
「えーー!」
ナトリウムは項垂れた。
「おかしいと思ったのです。クロストリジウムに行くのに、こんな山道はなかったはずだし、魔獣は出るし、野盗に路銀は持っていかれるしで…。」
散々だったようだ。