第2章(番外)5
しかし、カナも無傷というわけにはいかなかった。魔獣化野犬に咬みつかれた右肩は、ざっくりと傷が開き、血が噴き出していた。
「カナ!」
ダンがカナの体を支えた。あまりの出血に、カナは立っている事すら出来ない。
ダンはカナを背負った。
(早く父さんに回復魔法を!)
カルノンの回復魔法なら、こんな傷、あっという間に治す事ができる。
「カナ、頑張れ!」
「うん…。」
カナはダンの呼びかけに力なく頷いていた。
小さなカナの体だが、同じく5歳のダンが背負って歩くには重すぎた。何度も揺すり上げ、その度に声をかける。
それに応えるカナの声は次第に小さくなり、ついには聞こえなくなってしまった。
「カナ?」
ダンはカナを地面に下した。
ダンの背中は、カナの血で真っ赤に染まっていた。それでも、出血は止まっていない。カナはもはや、ダンの呼びかけには応えなくなっていた。
もはや、父のもとまで運ぶ時間はない。
ダンは決心した。
ダンは回復魔法をかける父の姿を思い出していた。父から直接魔法の指導を受けた事はないが、父が魔法をかけるところは、幾度となく目にしてきている。
ダンは己の掌をカナの傷口にかざし、集中した。
「ハァァー!」
ダンは見様見真似で回復魔法をかけた。
ダンの掌は一瞬、淡い光を放ち、すぐに消えた。
勿論、完璧には効かなかった。だが、一定の効果は発揮された。出血が止まったのである。
ダンは再びカナを背負い、父のいる村に向かって歩き始めた。