第2章(番外)4
森の中に一歩足を踏み入れると、そこは別世界だった。
木漏れ日の中、青々と茂った広葉樹。その中を飛び回る美しい蝶や小動物。
初めて森に来たカナは、いや、ダンまでもがその光景に見とれていた。
好奇心にかられたカナは、森の奥へ奥へと進んでしまう。我に返ったダンは慌ててそれに続いた。
「なあ、カナ。もう帰ろう。ここまで来たんだから、もういいだろう?」
「やーだよ。帰りたいなら、お前1人で帰れ!」
カナは美しい蝶を捕まえようと走り回っていた。
その時である。
森が一瞬ざわめいた。
静かな唸り声が、ゆっくりと2人の背後から近付いてきた。
「なんだ!?」
「魔獣だ!」
ダンが叫んだ。
「ウゥゥゥー」
3頭の魔獣化野犬が姿を現していた。気付いた時には、大木の幹を背後に周りを取り囲まれていた。
「カナ!逃げよう!」
再びダンが叫ぶ。
「逃げる方が無理だ!囲まれてる!」
カナはダンを庇うように、果物ナイフを手に魔獣の前に立ちはだかった。
カナは父の戦い方を思い出していた。直接、剣の指導を受けた事はないが、父の戦う姿は、幾度となく目にしてきている。
「ええぇぇい!!」
左側から魔獣化野犬のうち1頭が飛び掛かってきた。それに対し、カナは正確にその喉を切り裂いた。血しぶきが上がり、その魔獣化野犬は絶命する。
間髪入れずに襲い掛かってきたもう1頭は、カナの右肩に深く咬みついたが、それに構わず、さらに正面から飛び込んできた魔獣化野犬の右目を突き刺した。
そして、カナの右肩に咬みついたままになっている魔獣化野犬の喉も切り裂いた。右目を貫かれ、呻いている残りの1頭にも止めをさす。
一瞬の出来事だった。
3頭いた魔獣化野犬は、果物ナイフを持った少女1人に全滅させられた。




