第1章30
その日の晩、3人は‘麦酒の宿’に宿をとった。
夕食まではカナは元気で、オルソと冗談を言い合いながら飲み食いしていたが、雨が降り出すと、急に部屋へと上がっていった。それにダンも続く。1人にされたオルソも部屋に戻った。
カナとダンは同室、オルソはその隣の部屋だった。
初めて出会った時も、カナとダンは同室だったが、恋愛関係ではないらしい。それは、短い間ではあったが、一緒に旅したオルソにはわかる。2人は兄妹に近い間柄だ。同室で休んでも、特に何もないのだろう。
しばらくは自分の部屋で休んでいたオルソだが、カナの様子が気になって、隣室を訪ねてみた。
外では激しい雷雨になっていた。
「カナ、ダン。」
部屋をノックして、声をかける。
「開けるぞ。」
部屋は薄暗かった。部屋の隅に人影が見える。1人は何かに怯えて震えているようだ。もう1人はその傍に付き添っている。
「近寄るな!」
ダンの声が響いた。震えているのがのがカナ、傍にいるのがダンのようだ。
「どうしたってんだよ?」
ダンに制止されたので、その場でオルソが尋ねた。
「カナは雷が怖いんだ。」
ダンが答えた。
「は!?」
オルソが素っ頓狂な声を上げる。
雷を怖がる女性は珍しくない。しかし、普段のカナの様子からそれは想像出来ないし、それにしたって、度が過ぎる。
カナは震えながら毛布を被り、時々、聞き取れない声で何かを呟いていた。
「ちょっとこの怖がり方は病的じゃねえか?」
「だから、これがカナの病気なんだ。」
ダンは苦しそうにそう呟いた。
「オルソ、詳しい事はあとで説明する。今は出て行ってくれ。」
ダンにそう言われて、オルソは2人の部屋を後にした。




