第1章29
カナとダンとオルソの3人は山を下り、最初に3人が出会った酒場のあるレプトスピラの城下町まで戻ってきた。
オルソは、ダンに約束の賃金を手渡した。
「お前ら、これからどうするんだ?」
オルソが、カナとダンに尋ねた。
「行き先は特に決まっていない。しばらくはレプトスピラをうろついて、仕事を探すさ。お前はどうするんだ?」
ダンはオルソに訊き返した。
「俺はクロストリジウムかスピロヘータに行く。今、一番ドンパチやってるのはあの辺りだからな。傭兵の職は腐るほどあるだろぜ。」
「それがいいだろう。」
危険な場所ではあるが、傭兵が危険を恐れていては食っていけない。危険を避けたいなら、はなから傭兵などという職は選んでいないだろう。
オルソは、ダンとカナも一緒に来ないかと誘うつもりでいた。だが、結局は声をかけなかった。ダンは、行き先は決まっていないと言ったが、2人の旅には、何か目的があるように思えてならなかったからである。
「ところでよ、ずっと気になっていたんだが…。」
オルソがカナに聞こえないようにダンに囁いた。
「カナの奴、どこか悪いのか?」
キメラの‘カナの病’という言葉をずっと気にしていたのである。
「あぁ、このところ天気が良かったからな。」
ダンが意味の分からない事を言った。
「どういう意味だ?」
「今日あたり崩れそうだ。その前に街に入れて、良かったと言うべきか…。」
確かにこのところ晴天続きだったが、今は雨の匂いがする。天気は崩れそうだ。
「天気が悪くなるとまずいのか?」
「雨だけなら、問題ないんだがな。」
「なんだよ。わかんねえじゃねえか。」
「お前には関係ない。」
「なんだよ。仲間じゃねえか。教えてくれよ。」
尚も食い下がるオルソをダンはじろりと睨んだ。
「興味本位でアイツの傷に触れるんじゃない。」
それに気圧されして、オルソはそれ以上聞く事は出来なかった。