第1章27
「お前、この遺跡でどれくらい番人してたんだ?」
カナが訊ねた。
「もはや時間の感覚はない。」
キメラは、ここからでは見えないはずの空を仰いだ。
「守るべき宝も失われ、存在する意味すら失くしても、我は滅することすら許されん。」
キメラの言葉は重く響いた。
「なんか可哀相だな、お前。」
カナはキメラに近付き、そのライオンの頭に生える鬣に触れた。
「ダン。制約は解けないのか!?」
カナはダンを振り返って訊ねた。
「無理だな。この手の制約魔法は、かけた本人でないと解けん。」
ダンの返答は素っ気ないものだった。
「何とかならないのか?」
「無理だ。」
ダンは繰り返した。
「そうか…。」
カナはそう呟き、キメラの霊体を抱きしめた。
「ごめんな。お前を解放してやりたかったんだけど…。」
「そなたが気にする事ではないだろう。」
キメラは呆れたように呟いた。
「宝が持ち去られたのは、10年ほど前だ。この大陸は、まだ制覇されていないのか?」
キメラが訊ねた。
「今のところ、その気配は見えないな。」
「ならば、まだ宝を上手く使いこなせないのだろう。あの者には、その野望があった。」
「どうすれば、この大陸をソイツから守れるんだ?」
カナが勢い込んで尋ねる。
キメラはしばし考えた。
「そなた、魔術師だな。」
キメラはダンに向かって話しかけた。
「そうだが…。」
「回復魔法は得意か?」
「比較的な。」
「そうか。しかし、回復魔法では、治せないものもあろう。」
キメラの問いにダンは答えた。
「餓死と老衰だな。食うものを食ってなければ、回復魔法だけではどうしようもないし、老衰は自然の流れだから、やはりどうしようもない。」
ダンの答えに、キメラはさらに問うた。
「本当にそれだけか?」
「………。」
「例えば、その女の病、お前の回復魔法で治せるか?」
キメラの言葉に、ダンとカナとオルソが、それぞれ別の意味で驚いた。
ダンとカナは、カナの病について、キメラに見抜かれた事にドキリとした。オルソは、どう見ても健康そうに見えるカナの体のどこが悪いのだろうかと考えた。
「………。出来ないな。出来たら、」
ダンは答えた。
出来るものなら、とっくに治してやっている。
「もしそれが治せたら、持ち去られた宝に対抗できるかもしれん。」
キメラはそれだけ言うと、台座の上で、元の石像のように動かなくなった。
そして、3人は遺跡を後にした。