第1章26
「えぇぇい!」
カナが再び斬りかかろうとした時、キメラが言葉を発した。
「無駄な事を。」
古代語ではなく、カナやオルソでも理解できる標準語である。
「どういう意味だ。」
ダンが警戒しながら、訊き返す。
「我が守りし宝は、既に先の侵入者によって持ち去られたわ。」
キメラは台座に戻って、座りなおした。
「どういう意味だ?」
ダンが問う。
「そのままの意味だ。宝は既に持ち去られておる。しかし、我はこの遺跡に魔法で縛られている。宝はなくなろうとも、我は動くことは出来ん。」
キメラは苦々しそうに、そう吐き捨てた。
「なんだって!?ここまで来て、マジックアイテムはねえのかよ!」
オルソは頭を抱えて、大げさに膝をついた。
「どんなマジックアイテムだったんだよ。」
オルソがキメラに訊く。
「そうさな。使い方は難しいが、コツさえ掴めば、それを手にいれた者はこの大陸を制覇するだろう。」
「大陸制覇?そこまでかよ…。」
ダンはキメラの話を興味深く聞いていた。
おそらくキメラは、古代魔術師による魔法の制約を受けている。制約は「宝を守れ」というものだろう。
「1つ訊いていいか?」
ダンがキメラに訊いた。
「宝の守り人のはずのあんたが生きているのに、何故、侵入者は宝を持ち去る事が出来たんだ?」
よく考えれば、不思議な話である。
「愚かな者よ…。」
キメラは嘆息するように呟いた。
「我の肉体は、とうに失われておるわ。」
「何!?」
「肉体は滅んだが、魂はいまだ制約に従わされておる。天に還る事も許されず、ここに留まっておるのだ。それに気付いておる者は、我の攻撃を受けても、何の傷も受けん。」
キメラは実態のない霊体だったのだ。霊体の攻撃は幻覚と同じである。それが幻と気付いていれば、何の効力もない。