第1章14
「なんで、天下の賢者様が退治屋なんかやってんだ?賢者なら、いくらだっていい条件で仕官できるだろ?」
オルソが、もっともな疑問を口にする。
「理由などない。宮仕えは面倒だからだ。」
それは、半分は本心だ。しかし、それ以外の別の理由もある。そちらの理由は、敢えて言おうとはしなかった。
「本当に珍しい魔術師だぜ。なんで剣技なんか、知ってんだよ?」
「カナとの付き合いは長いからな。カナの戦い方を見て、勝手に覚えた。」
見様見真似でここまで覚えてしまったとは、本職の戦士にしてみれば、頭にくる話だ。戦士と名乗る人間の過半数は、ダンの剣に敵わないだろうから。
「そうそう。こいつの剣技は完全に私の真似なんだ。だから、自分は左利きのくせに、私と同じように右手で剣を持つんだぞ。」
カナがダンの説明に付け足す。
「何!?左利き!?それじゃ、お前、利き手と反対の手で、剣を握ってんのか!?」
さらに、信じられない事実である。
「今頃、俺が左利きだと気が付いたのか?観察力のない奴だな。そんなもの、一度、一緒に食事をすれば、わかるだろう。まあ、右手で剣を持つのは、それ以外の理由もある。俺は右手でも左手でも、足にだって、魔法力を集中させる事は出来るが、やはりやりやすい場所というものがあるんだ。俺の場合、利き手の掌。だから、利き手で剣は持たない。俺の本職は魔法だからな。」
魔法のために、利き手をあけているというわけだ。
朝の鍛錬の後のカナの言葉の意味が、ようやくオルソにわかった。
『ハンデなしなら、ダンのほうが強いよ。』
魔法を使われたら、たとえカナでもダンには敵わないだろう。
「ところで、オルソ。追加料金の件だが…。」
ダンは、もうこの話には飽きたとばかりに、商談に移った。