第1章9
目的の遺跡は、レプトスピラの中ほどにある山脈の中。
3人は、そこを目指して歩いていた。
「もう1度、確認しておくが、遺跡でマジックアイテムが手に入っても入らなくても、報酬は支払ってもらうからな。」
傾斜のきつい山道を進むオルソに向かって、ダンが念を押した。
「わかってるって。お前もしつこい男だなぁ、ダン。」
オルソはダンを振り返って、答えた。
「遅いぞ、ダン!」
カナも振り返り、ダンに声をかける。
先を行くオルソとカナに、ダンは少々遅れていた。
「急ぐ必要はないだろう。遺跡は逃げないからな。無駄な体力を消費する必要はない。」
「ふん、この程度の事で疲れるか!それともお前は、もう疲れたのか?」
カナはからかうような口調で、ダンに言う。
「お前と同じ調子で歩いていたら、当然、疲れるさ。俺には、お前ほどの体力はないからな。」
ダンはあっさり認めた。
オルソは、そんな2人のやり取りを不思議そうに眺めていた。
ダンに体力がないわけではない。カナがあり過ぎるのだ。ダンも、並みの戦士以上の体力はある。
この険しい山道、オルソは正直言って、カナのペースに付いていくのは辛いのだが、そこは男の意地で、涼しい顔を装って、歩いていた。
しかし、ダンにはそのような意地はないようだ。
戦士としての実力は、明らかにダンよりカナのほうが上である。
オルソはこの3日間で、それがわかった。
この3日間は野営をしていたのだが、カナとダンは起きてすぐ、早朝に実戦形式で剣の稽古をするのだ。
戦士であれば、日頃の鍛錬は当然の事、それ自体は別に不思議ではないのだが、驚くべきは、カナは目隠しをした状態で、ダンと対戦していた事である。
その状態で、カナとダンは互角なのだ。
ダンが弱いわけではない。ダンも充分に実力のある戦士だ。
カナが出鱈目に強いのである。
2人の稽古を覗き見たオルソは、思わずカナに「すげえな。」と声をかけた。
稽古を見た限り、ダンならオルソでも倒せるだろうと思った。しかし、カナは無理だ。オルソは自分の腕には自信があったが、この若い女には、まるで敵わない事を知った。世の中、広いものである。
しかし、そう言われたカナは、意外な返答をした。
「ハンデなしなら、ダンのほうが強いよ。」と。
ハンデを負って戦っていたのは、カナのほうだろう。どういう意味なのか測り兼ねたが、カナはそれ以上、答えなかった。