第1章7
大男は、またカナのグラスになみなみと酒を注いだ。
「ところでよ。さっきの話、ちょっとばかし聞こえてたんだが、お前ら、魔獣を相手にどうのこうのって、言ってたよな?」
大男が少し真顔になって、問いかける。
「だから何なんだ?」
ダンは、大男を睨みつけながら、そう返した。
カナは、特に聞かれて困る話をしていたわけではないが、盗み聞きされていたのは、気持ちの良いものではない。
「へへへ、そう怖い顔すんなって。お前らもしかして、‘退治屋’じゃねえかと思ってよ。」
‘退治屋’とは、魔獣退治を専門とする戦士の事だ。
魔獣は、パスツレラ大陸全土で、散発的に発生する。そして、それは人間が生活する上で、何かと問題になる。
それを駆除する事を生業とする者達がいるのだ。
「退治屋と言えば、退治屋だが、それ専門じゃない。報酬次第で、人間相手の戦闘も請け負うからな。」
ダンが答える。
「なんでもいいさ。とりあえず、魔獣は倒せるんだな?」
「魔獣と一口に言っても、いろいろな種類があるだろう。それに弱い魔獣だって、群をなしたら、手強い相手になる。どんな魔獣がどれくらいの数なのかによって、答えは変わってくる。」
「まぁ、普通の魔獣だ。」
‘普通’とは、何を基準に言っているのかわからない。
それでは答えようがない。
ダンがそう思っていると、カナが口を出した。
「私らに、倒せない魔獣はいないね!」
カナはそう言って、大男の顔面めがけて、拳を繰り出した。そして、それを寸止めしてみせる。酔っているとは思えない、鋭いパンチだ。
大男は、一瞬、驚いた顔をしたが、ニヤリと笑ってカナの肩を叩いた。
「思ったより、やるじゃねぇか。これは悪くない話だぜ。いいか、よーく聞けよ。」
好奇心旺盛なカナは、酔いも冷め、興味津々と身を乗り出して、大男の話を聞き始めた。
ダンは視線をそらしながら、それでもしっかりと話を聞いていた。