第1章6
結局、カナは麦酒では満足できず、ウォッカを飲んでいた。既に何本かの瓶を空にしている。
「ダン~。お前、剣の扱い、随分上手くなったよなぁ。私が戦ってるのを見て、見様見真似で覚えたらけなのに、大抵の魔獣なら、もう相手になあないもんな~。」
少々、呂律が怪しい。やっと酔ってきたようだ。
今夜は、暴れ出す前に眠ってくれるだろうか?そう思いながら、ダンは適当に返事をする。
ダンのグラスの中身は、今はマスカットジュースである。果樹園も多い、このレプトスピラ王国。新鮮な果実から作られた搾りたてのジュースは、どれもなかなかの物で、ダンは秘かに満足していた。
酒場は、人もまばらになってきた。ほとんどの者が、2階の部屋に引き上げていったのである。
そろそろ自分達も、部屋に引き上げた方が良いだろう。
ダンがそう思った時、カナの隣に上半身裸の大男が座った。
背丈は、2m近くあるだろうか。縦も大きいが、横も立派なもので、筋骨隆々。頭は剃っているのか、それとも禿げているのか、髪は1本もなく、背には大ぶりのバトルアックスを負っていた。
こういう大男が、いかにも好みそうな武器である。
大男は持ってきた酒瓶を傾けて、カナのグラスになみなみと注いだ。
「コイツは俺の奢りだよ、ねえちゃん。ほれ、そっちのにいちゃんも。」
ダンにも酒を勧めるが、ダンはそれを丁重に断る。
「生憎、俺は酒が飲めない体質でね。それと、そっちの女にも、それ以上、飲ませないでくれ。あとの面倒は、俺が見なけりゃならないんだからな。」
「付き合いの悪い男だなぁ。なぁ、ねえちゃん?」
そうは言うものの、大男はそれほど気を悪くした様子はない。カナのグラスに自分のグラスを合わせる。
「コイツは、いつもこんなんだぞ。」
カナは、注がれた酒を一気に飲み干し、もっと注げと言うように、男にグラスを突き出した。
「おぉ、いいねぇ、ねえちゃん。なあに心配しなくても、あとの面倒は、俺が見てやるよ。ちゃーんと、ベッドまでな。」
そう言って、大男は厭らしい笑みを浮かべる。けれど、そんな表情が不思議と様になる男だ。下品なのに、不快な印象は与えず、何故か好感を抱いてしまう。