第1章5
パスツレラ大陸には、8つの国がある。レプトスピラ王国、ヘモフィルス共和国、スピロヘータ王国、クロストリジウム帝国、パラミクソ王国、イーコリー民主主義国、ビブリオ帝国、シュードモナス王国。それ以外に、エルフが住むカリシの森。
パスツレラ大陸の外には、いくつかの小さな島が点在しているが、世界にはそれ以外に大陸はない。
新しい大陸を見つけようとして船出した探検家は数知れないが、彼らが帰って来た事はなかった。
世界の最端にある「終末の滝」から地の世界に落下したのだと賢者達は人々に伝えている。
カナとダンの故郷、ラブド村は、クロストリジウム帝国の北、スピロヘータ王国の南、この2大国家の国境に位置していた。しかし、ラブド村の事情は少々特殊で、この2つの大国のどちらにも属さず、自治を行っていた。
スピロヘータとクロストリジウムは国境線を巡って、激しい争いを繰り広げており、そのための最前線基地として、両国ともラブト村が欲しかった。
両国が差し向ける兵を、幾度となく返り討ちにしていたのが、カナの父ザガスとダンの父カルノン・キャストスペイである。この2人が村の指導者だった。否、実質的にはカルノン・キャストスペイが指導者だった。
ザガスもカルノンも、共に村人からの信頼は厚かったが、ザガスは「俺は頭が悪いから」と言って、政治的な判断は、すべてカルノンに任せていたからである。
しかし、ラブド村の村人を全滅させたのは、スピロヘータともクロストリジウムとも思えなかった。両国とも、10年経った今も、無人となった村を手に入れられずにいるのだ。
ラブド村へ行った者は、戻って来ないのである。
つまりダンは、ラブド村からの最後の生還者と言える。