第1章3
実際には、この2人は姉弟ではない。
宿代節約のために、宿に泊まる時には1部屋しかとらないのだが、そうすると、必ず男女の仲と間違われる。2人の間に恋愛感情はなく、そう思われるのは非常に不本意であるため、そういう場合は、便宜上、きょうだいと名乗るのだ。
幸いな事に、2人の瞳の色と目つきがよく似ているため、きょうだいと言って疑われた例はない。
そこまでは別に良いのだが、‘きょうだい’と言うと、必ず‘兄妹’と思われるのだ。女はそれが、面白くないのである。
実際、2人は同い年の上に、誕生日まで一緒なので、年上も年下もないのだが、女は昼前に生まれ、男は昼過ぎに生まれたらしいので、ほんのちょっとであるが、自分の方が年上だと、女は思っている。
機嫌を損ねた女に代わって、男が注文を続けた。
「食事を2人前。1人前は軽めで、もう1人前は大盛り。それと麦酒のジョッキとオレンジジュース。」
注文を受けた女将は、調理場にそれを伝えると、別の客に呼ばれて、2人のそばを離れた。
「この程度の事で、いちいちむくれるな、カナ。そういう態度が子供っぽく見られるんだ。」
黒髪の男は、赤髪の女に向かって、溜息交じりに呟いた。
「ちがう!お前の背が妙に伸びたから、そう思われるんだ!昔は同じくらいだったのに…。」
カナは剥きになって、言い返す。
ダンは呆れて、また溜息をついた。
ダンは、特に背が高いほうではない。だが、カナよりはずっと高い。性差があるのだから、それは当然だろう。
ダンのほうが年上に見られる理由は、勿論、背丈の問題ではない。
女将が、飲み物を持ってきた。
カナの前にオレンジジュースを、ダンの前に麦酒を置く。
さらに不機嫌になるカナを横目で見ながら、ダンはそっと2人の飲み物を取り換えた。
ダンは、アルコールを全く受け付けない体質なのである。
もしかすると、料理も置き間違えられるかもしれない。大盛りはカナの分なのだ。
カナは一気に麦酒を飲み干すと、すぐにおかわりを頼んだ。
「空腹時に一気に飲むな。体に悪い。」
「ふん、お前と一緒にするな。麦酒程度なら、水と一緒だ。」
カナはダンとは反対に、酒には強い。いつもなら、麦酒よりもっと強い酒を好んで飲むのだ。
しかし、酔った時の酒癖は悪いので、出来るなら程々にしてもらいたい。