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第1章2
「部屋は、まだ空いてるか?」
カウンターの席に座りながら、男が女将に尋ねた。
「あぁ、まだ空いてるよ。」
女将が答えると、今度は男の隣に座った女が、口を開いた。
「それじゃ、1部屋頼む。」
すると、女将は厭らしそうな目つきで囁いた。
「あれ、1部屋でいいのかい?」
若い男女が、1つの部屋で休もうと言うのだから、厭らしい想像をするなという方が難しい。
しかし、2人の関係は女将の想像したようなものではない。
男が溜息をつきながら、答えた。
「1部屋で構わん。きょうだいだからな。」
「なんだ、妹さんだったのかい。言われてみれば、目元が似てるねぇ。」
ちょっと残念そうに女将が言うと、今度は機嫌を損ねたように女が言った。
「姉と弟だ。双子の姉弟!」
どこの宿に行っても、その度にこんなやり取りをする破目になるのだ。