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第4章19
魔人と化したパセトシンに、言葉は通じない。
カナはパセトシンの重い攻撃を躱しながら、辛そうな表情を見せた。
「すまない、パセトシン!」
カナの剣は一閃し、パセトシンの頭と胴体を分断した。
「カナさん!」
ナトリウムが悲鳴のような叫び声をあげる。
「カナさん、パセトシンさんは僕らを案内してくれた村人ですよ!それを何もこんな姿にしなくったって!」
カナは俯いていた。
魔人の恐ろしさを誰よりも知るカナである。
こうするより他になかったのだ。
床は、パセトシンの首から噴き出した鮮血で、真っ赤に染まっていた。
カナは胴と切り離されたパセトシンの顔に付いている血糊を拭いてやった。
出来る事は、それくらいだったのである。
パセトシンの顔は穏やかだった。
一旦、魔人と化した人間は、その死を持ってしか、安らぎを取り戻せないのかもしれない。
特に信仰を持たないカナだが、自然とパセトシンのために黙祷していた。
斬り倒した人間は今まで数知れないが、その者のために祈るのは、初めてだった。
ナトリウムは、そんなカナの姿を黙って見つめていた。