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第3章65
その晩は、長い夜になった。
医者はしばらくしてやって来たが、毒物を排泄しやすくするために、代謝を活発にするような薬を置いて行っただけで、根本的な治療は出来なかった。
出血毒は痛みが激しい。カナはひどくうなされていた。
「カナさん…。」
心配そうに枕辺に付き添うのはナトリウムである。ダンはベッドに背を向け、自分の左掌を見つめていた。
(回復魔法さえ使えれば…。)
ダンは何度も自分の掌に魔法力を集中させようとしていた。しかし、魔法力の気配は全く感じられない。
(俺でなくてもいい。誰かカナに回復魔法をかけられる魔術師が居れば!)
ダンは目を閉じ、魔法力の気配を探った。
自分の魔法力ではない。他者の魔法力だ。
すると、ごく近くに信じられない大きさの魔法力が存在している事に気づいた。