第3章53
楽しそうに飲み食いを始めたカナとナトリウムを、ぼんやりと眺めていたダンに、1人の少女が近付いてきた。
「ダン様!」
コカリ姫である。昼間以上にヒラヒラしたショッキングピンクのドレスを身に纏っている。ちょっと間違えると、バカっぽく見えるこんなドレスをここまで着こなせるのは、この少女くらいであろう。
頭の上のティアラは、今は正しい位置をキープしており、いつもの情けなさは半減し、愛らしさが強調されている。
「コカリ姫。姫君は宴の主役だろう。こんな所で遊んでいないで、来賓と踊るなり、なんなり、してきなさい。」
王女のコカリ姫には、本来、敬語を使うべきなのだが、妹キャラのこの姫には、ついついこんな口調で喋ってしまう。
「いいの。お母様とお父様がダン様と遊んで来なさいって、言ったもん。それにこのパーティーは、ダン様とカナさんが主役よ。カナさんとはお兄ちゃんが遊ぶから、私はダン様と遊んであげるの。」
そういえば、自分達はこの宴の主賓だった。だから、ナトリウムもカナの相手をするように、王や王妃に言われていたのかもしれない。
しかし、これでは自分は完全な子守り役だ。
(いいさ。子守りには慣れている。)
ダンは投やりな気分になっていた。
カナの相手もある意味、子守りだ。コカリ姫とはタイプが違うが、カナもやはり子供っぽい一面を持っている。
「じゃあ、コカリ姫。何して遊ぶ?」
そう言ってやると、コカリ姫は嬉しそうにダンの手を取り、ダンスの輪の中へと連れて行った。
そして、少しばかり機嫌を損ねていたダンは、自分達を見つめる鋭い視線に、気付く余裕がなかったのであった。