第3章52
そこに、ようやくカナが現れた。
生まれて初めてのドレス姿で。
ドレスは、カナの髪の色に合わせた鮮やかな赤だった。下品にならない程度に胸元の開いたAラインのドレスである。カナの意外に豊満な胸と、よく引き締まった腰の括れを際立たせつつ、裾はふんわりと床まで届いている。
髪は銀の櫛で、丁寧にまとめられている。これも借り物なのだが、カナによく似合っていた。
普段の戦士姿でも、決して悪くはないカナの容姿だが、こういう格好をすると、やはり違うものである。
華麗に変身したカナに、周囲の人間は思わず感嘆の声をあげた。
けれど、ダンはフンと鼻を鳴らしただけだった。
整った顔立ち。引き締まった体。何より、人に強い印象を与える切れ長の目。
(アイツはそれなりの格好をさせてやれば、それなりの女なんだ。)
何もドレスまで着せなくても、そんな事わかっている。
カナはキョロキョロと辺りを見回していた。自分の事を探しているのだろうと、声をかけようとしたダンだが、どうやらそうではないらしい。ダンの事は目に入っているはずなのに、カナはダンの方にやって来ようとしない。
ダンが不思議に思っていると、やっとお目当てのものを見つけたかのように、カナの目が輝いた。
騎士の礼服に身を包んだナトリウムである。
やはりナトリウムも王族の端くれ、盛装はよく映える。似合わない賢者のロープを着せられたダンとは大違いである。
ナトリウムもカナを見つけ、笑顔を見せた。カナに歩み寄り、左手を差し出す。カナは素直にその手を取った。
実は、スカートに隠れて見えはしないが、足元は慣れないヒールなのだ。掴まり歩きでないと、上手く歩けないのである。
「踊りますか?カナさん。」
「いいや、踊り方わからないし。それより、腹減った。」
ダンスに興味を示さないカナに、苦笑したナトリウムだが、それでも嬉しそうに、カナを料理の載せたテーブルへとエスコートした。