願い 2
何もやる気が起きない。もう、すべてが嫌になってしまった。
桜の花がちらほら咲き始めているのに、私の心は酷く沈んでいる。
体がありえないほど重たくて、もうこのまま動きたくない。まだ晴れていても空気が冷たく感じるのに、体は熱をもって頭がぼんやりしている。
原因は分かっている。体調不良ではない。魔力が体にたまってしまっているだけだ。
いつもは学校の授業で少しずつ魔力を使うからこうはならない。今まで学校が休みの日も魔力がたまって悩まされた。でも今日のはいつも以上にひどい。それもきっと、一昨日の事件のせいだ。
一昨日、私の住むG地区で災厄レベル7、害獣No.2が出現した。街の被害は大きかったけれど、幸い近くに魔法少女がいたとかで死傷者は1人も出なかったらしい。
ただ私の心が酷く沈んで、それに比例しているかのように魔力が増えてしまっているのは害獣が出現したという事実ではない。害獣を私が呼び込んでしまったということに対してである。
私が過去に害獣を呼び込んでしまったことは、一昨日が初めてではない。何度かある。
一番最初は生まれて数か月たったころの事。その時は両親が亡くなり、私1人だけが生き残った。
2度目は孤児院にいた時。私とシスター3人と私よりも下の子たち以外はみんな命を落とした。
3度目は孤児院から学校に通っている時。死者は出なかったけれど、私と一緒にいた子たちが大きなけがを負った。
そして4度目が一昨日。
本当は今日、学校がある日だ。でも私は今日学校をさぼった。昨日に続けて。それも私の中に魔力をため込む原因だ。
そう分かってはいるけれど、私はもう学校に行く気はない。学校に行けば、必ずいじめられる。そして私の周りの人だけが傷つく。
「これから、どうしよう」
誰に言うでもなく呟いた言葉だった。だけどこの言葉に、返事が返ってきた。
「それなら、俺と一緒に働かないか?」
声の方に顔を向けると、そこには銀髪の美青年が立っていた。すらりとスタイルの良い姿は、モデルのようだ。
「誰ですか?」
「怪しいものではないよ。俺の名前はロレンツォ。魔術師だ。今はね」
怪しくないと言う者ほど怪しいし、実際彼は怪しかったけれど、この時の私にはそんなことはどうでもよかった。
「働くって、何を……?」
「キミは魔法少女を知っているかい?」
彼の問いに、肩が大きく震える。
まさか、一昨日の害獣が出現した原因が私にあると知って、それを脅しに無理やり働かせるのではないだろうか。
「知っているようだね。それなら契約精霊は?」
だが、彼が続けたのは私が思っていることではなかった。
「知らないようだね。契約精霊は魔法少女と契約した魔術師の事だ。かくいう俺も主人となる魔法少女を探しているところでね。どうだい?君さえよければ、俺と契約して魔法少女にならないかい?」
「‥‥‥私と契約しても、いいこと、ないですよ」
私自身が魔法少女になってしまえば、私が害獣を呼び寄せてもすぐに倒すことができるかもしれない。でもそれではダメだ。私が魔法少女になったところで、街への被害が全くなくなるわけではない。
「ふむ。どうやらキミはこれまでずいぶん苦労してきたようだね。今も体に魔力がたまって辛いのではないかい?」
「だから、なんです?」
「魔法少女になるならこの指輪とピアスをつけることになる。これらは特別な素材でできていてね、つけていると勝手に魔力を吸収してくれるんだ。それともう一つ」
私に見せていたアクセサリーを握り込んで、彼はその手の人差し指を立てる。
「魔法少女になるなら、キミの願いをなんでも一つだけ叶えてあげることができる」
「なんでも‥‥‥?」
「ああ、なんでも。金持ちになりたいでもいい。有名人になりたいでもいい。スタイルがよくなりたいでも、もっと美人になりたいでもなんでもいい」
「それは、本当ですか?」
「噓はつかないよ」
なんでも一つ願いを叶えてくれるなら、彼の誘いに乗ってもいいかもしれない。
少し考えて、私は心を決めた。願いが叶うなら、魔法少女でも何でもなってやる。
この時は心から本気で思っていた。私の願いが本当に叶えられるものなのか確認しないで、彼の手を取ってしまったことを後悔するとは思わないで。
「ロレンツォさん、私はルシアです。私、魔法少女になります。だから、私の願いを叶えてくれますか?」
「ああ、もちろんだとも。これからよろしく頼むよ、ルシア」
そしてこの4時間後、初めての害獣との戦闘の後に、私は彼と契約を結んだことを後悔するのだった。




