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魔法少女は契約精霊のことが嫌い  作者: 道上 萌叶
第2章 悪魔の愛子
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討伐後

 風が窓を揺する音が耳を撫で、ロレンツォはゆっくり瞼を持ち上げる。

 カーテンの隙間から差し込む日差しが白くて優しい。

 2度、3度と瞬きを繰り返したロレンツォは、夜が明けたのだと気付く。

 懐かしい夢を見ていた気がする。けど、どんな夢だったか覚えていない。


「っぃ、てー…………」


 時刻を確認しようと、頭を動かしたロレンツォの首に痛みが走る。

 首に手を当て、ゆっくり上下、左右に動かす。2、3回首を回すと、凝り固まった関節や筋肉が音を立てる。

 普段であれば、寝ただけで体が凝り固まることはない。凝り固まることはないし、目が覚めてすぐ、キビキビと動くことが出来る。

 なのにこうして体が凝っているのは、ベッドではなく、椅子で夜を過ごしたからだ。

 それどころか、ここはロレンツォの部屋ですらない。ここは今ベッドで眠りにつく少女、契約精霊であるロレンツォと契約を交わしている魔法少女、ルシアの部屋だ。

 昨日の昼過ぎに出現した害獣、ペラタチスを討伐した後、ルシアは倒れた。

 ロレンツォの呼びかけにも反応はなく、ぐったりして浅い呼吸を繰り返すルシアは、僅かに震えていた。

 熱が出る前兆であるにも関わらず、ルシアの体からは熱が奪われていき、重度の魔力不足に陥っているとロレンツォが気付いたのは早かった。

 猫の姿から人の姿に戻り、顔色の悪いルシアの額に右手を当て、指輪のついている左手でルシアの左手を握り込んで魔力を注ぐ。

 他者の魔力が体内に入ると、場合によっては命に関わる拒絶反応が出る。だが、契約精霊と魔法少女の関係であればそうなることはない。

 契約精霊と魔法少女は魔力の繋がりがある。初めに交わした契約で、魔力が細い糸のように繋がっている。

 互いの魔力が混ざり合っているわけではないが、一時的な魔力の配給には問題がない。だから、どちらかが魔力不足に陥った際はもう一方の魔力を注ぐことで、魔力不足による生命の危機から逃れることが出来る。

 応急処置ではあるが、危険な状態から脱することはできる。


「クソッ! 何でだ?!」


 それなのに、いくらロレンツォがルシアに魔力を注いでも、ルシアの体は冷えていく一方で、魔力が補充される気配がない。

 吸収していないわけではない。ロレンツォがルシアに注いだ魔力は、ルシアの体外に放出されてはいないから吸収はされている。なのに、ルシアに魔力が補充されているという手応えがない。まるで、補充しながら魔力を使っているような、何処かに吸い取られているような感覚がある。


「っ! く、そ!」


 眩暈がして、ロレンツォはやむを得ず魔力の配給を中止する。これ以上は、ロレンツォが危ない。

 ルシアを抱えて立ち上がったロレンツォは、残りの魔力を計算して、飛行魔術を展開させる。ここから家までなら、ギリギリたどり着くことが出来る。


「あれ、ロレンツォさん? って、ルシアちゃんどうしたの?!」


「すまない、今は話してる余裕がない」


 途中でエリンと会ったが、ロレンツォの魔力量はギリギリだったから止まって話をする余裕がない。

 エリンの戸惑う気配を背に、ロレンツォは自宅を目指す。

 魔力が体から失われていくのを実感しながら、無理やり体内の魔力を絞り出して、自宅に辿り着く。

 空いていたルシアの部屋の窓から中に入った時、消費できる魔力に限界が来た。飛行魔術が解除された。

 意識が遠のきそうになるのを必死にこらえて、ルシアをベッドに横たわらせてからロレンツォは膝をつく。


「ロレンツォさん!」


 肩で呼吸をするロレンツォは、窓の方に目を向けて大きく息を吐き出す。


「ルシアちゃん、大丈夫?!」


 どうやらルシアのことを心配して追ってきたらしいエリンが、窓から覗き込んでいた。背中に白い羽が見えるから、飛行魔術を使用しているのだろう。


「‥‥‥エリンさんか。そこだと目立つ。中に入っていいよ」


 色々言いたいことはあったが、ここは5階だ。魔法少女の姿で飛行魔術を使用しているエリンは目立つ。


「え、いいんですか?! じゃあ、お邪魔しまーす‥‥‥」


 遠慮という言葉を知らない、知っていても気にする性格ではないエリンが室内に足を踏み入れて、ロレンツォの顔を見てギョッとした顔になる。


「って、ロレンツォさんもすっごい顔色悪いじゃん! え、何があったの?!」


 問われたロレンツォは、ベッド上のルシアに目を向けて、冷たいルシアの右手を両手で包み込む。


「ペラタチスを討伐した直後、ルシアが倒れた。恐らく重度の魔力不足に陥っている。魔力を配給したが、手応えがなかった」


 ベッドに横たわるルシアは、相変わらず顔色が悪く、浅い呼吸を繰り返している。


「魔力不足って、え、ルシアちゃんが?」


 隣からエリンの信じられないといった声が聞こえるが、ロレンツォだって信じることができていない。

 ルシアの魔力量は、はっきり言って異常だ。普通の人間の魔力量ではない。

 魔法少女は、戦闘直後は大きく魔力が失われる。だから、害獣を討伐後は、直ちに現場から離れて、魔力の回復に専念しなければならない。

 だがこれまで、戦闘後にルシアの体内から失われている魔力は、もともとの魔力量の1割にも満たない。しかも失われた魔力は、数秒のうちに回復される。だから、ルシアが魔力不足で倒れたことなど、今日まで1度もなかった。なかったから、信じることができない。

 それでも、信じるしかない。ベッド上のルシアの顔色は変わらず青いままで、呼吸は浅く、小刻みに震えている。手足は冷たくて、体温が下がっている。明らかに魔力不足の症状である。

 加えて、ロレンツォとルシアの魔力の繋がりが弱くなっている。ルシアの身体から魔力が大幅に失われている証拠だ。

 ルシアの氷のような手は、大聖堂にいる時よりも冷たくなっている。なのに、魔力を配給することはできない。せめて体を温めなければ。


「え、ちょ、ちょいちょいちょい! 待って待って、ロレンツォさん、何やってんの?!」


「‥‥‥何って、見ての通りだが‥‥‥?」


 何故かロレンツォの腕を掴んで全力で止めてきたエリンは、ロレンツォのことを信じられないといった顔で見ていた。


「いや、いやいやいや! 見ての通りだから聞いてんだよ! なんでルシアちゃんの服を脱がせようとしてんの?!」


「ワンピースのままだと体が冷える。着替えさせた方がいい」


 魔力不足による体の冷えは、防ぐことができない。着替えをして外から体を温めても気休めでしかない。それでも、やらないよりはましだ。


「いや、分かる。分かるよ、ロレンツォさんの言いたいことは! でも、ちょっと待って! ロレンツォさんがそれやっちゃ、ダメ!」


 間近に迫ったエリンが、ロレンツォの腕をあり得ない力で掴んで、全力で止めてきた。


「だが‥‥‥」


「だが、じゃないんだよ! あー、もう! アラベラ!」


「はいはい~。ロレンツォ君、ちょおっと外に出てようね~」


 いつの間にかエナガの姿から人の姿に戻っていたアラベラが、ロレンツォの肩に両手を置いてきた。


「いや‥‥‥」


「ロレンツォ君??」


「いや、じゃなくて、ね??」


「‥‥‥‥‥‥はい」


 魔法少女と契約精霊は、契約を交わしたときから年を取ることはない。だから、姿も変わることがない。

 エリンとアラベラが契約を結んだのは、今から30年以上も前のことだ。エリンの見た目は16歳、アラベラの見た目は24歳くらいだが、実際の年齢は2人とも50歳以上である。ルシアとロレンツォの倍以上生きている。

 つまり、倍以上生きている女性2人に圧をかけられて、ロレンツォが抵抗できるわけがない。

 部屋から追い出されたロレンツォは、次に2人から呼ばれるまで、部屋の前で呆然と立ち尽くすしかなかった。

私、エリンのこともかなり好きみたいです。あとアラベラさんもかなり好きです。普段フワフワしているのに、いざという時はかなり頼りになるお姉さん、大好きです。

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